本編2 強豪校の寮ってどんなとこ? その4

 荷物を置き素早くモールで最小限の買い物を済ませる。

 その後ラフな恰好で食堂に来ると聖女様とモデルさんが入口に居た。

 え?誰?と思ったけど、わかってます、わかってます。女騎士さんでしょ?

 ここで誰?とかやったら「お前なー」とかそういう展開でしょ?大丈夫です。わかってます、わかってます。


「聖女様!女騎士さ→ん↑?」

 はい、やっちゃった。いやだって


「酷いです。剣士様。先ほどまでご一緒でしたのに。」


 近づいて聖女様と談笑している姿を見たら完全に貴族の社交場何だけど。どこの令嬢?

 聖女様よりお姫様っぽいんだが、今度から姫騎士様と呼んだ方が良いのだろうか?

 あれかな?剣持っちゃうと性格変わるタイプなのかな?

 女騎士を見つめながら、そんなことを考えているとさっきから隣でピンクの饅頭が僕を蹴ってくる。ピンクの髪に真っ白なお肌、頬を雪見大福にして怒る聖女様も素敵です。

 というか、何も言ってないのにエスパーか何かだろうかこの人。


 ともあれ3人揃ったので食堂に入る。入る際に聖女様に耳打ちする。

「聖女様。しばらく”お祈り”は控えましょう。」

 聖女様も解っておられたのか『こくり』と頷いた。



 食堂はどうやら注文制のようだが、おお!こ、これは…!!

 日 本 食 が あ る ! ! !


 『ポカーン』とあほ面かましていると食堂のシェフらしき人に話しかけられた。

「はは!ボウズ!驚いたか?まぁ、大抵の奴はメニュー見てボウズと同じマヌケ面するよ。」


「な、なんで日本食が!?他にも中華やイタリアン、フレンチ、エスニックまで。」


「転移者の中にはファーマー系の奴も居る。そいつらのスキルで元居た世界の野菜や香辛料が育てられるんだよ。ま、非戦闘員ってやつだ。俺たち調理師もな。」


「肉や魚はどうしてるんですか?」


「あー、そこは…聞くか?」


「イエ、シラナイホウガイイヨウナキガシマス。」


「まー毒じゃないから。」

 シェフのおっさんは苦笑いしながらそう言った。


「あの…どうしてそんなに驚いているのですか?」

 僕の反応に疑問を感じたのか聖女様が問うと、シェフさんが答えた。


「お嬢さん方は転移者についてきた方ですね。ここにある食堂のメニューは転移者の故郷の料理なのです。そのことに感動しているのかと。場合によっては十数年口にしていない者も居ますから。お嬢さん方にしてみれば異国の料理ですので、お口に合うかわかりませんが、要望があればおっしゃってください。」


「まぁ!それは楽しみです!」

 目を輝かせ、聖女様のアホ毛がピョコピョコ動いているように見えるが、気のせいだろう。


 女騎士が静かだなと思ったら、メニューの写真を見ながら目を輝かせ、口はだらしなく垂れ下がり、口端からは涎が垂れていた。

 ダメです!お嬢様!さながら沢山の駄菓子に目を輝かせる、わんぱくガキンチョみたいな面になってますよ!姫騎士、イケメン、ご令嬢、のイメージがアメリカのビル解体のごとく一瞬で崩壊した。

 しかし、このまま公然の場でこの顔を公開させておくのは騎士の名誉に関わるかもしれない、現実に引き戻してあげよう。


「女騎士さん、女騎士さん!涎!涎!」

 そっと耳打ちする。

声を掛けながら揺すると『ハッ』として顔面の筋肉が元に戻った。


「まぁ、話は食事をしながらしましょうか」

 ニッコリと女騎士さんの令嬢スマイル。うん、顔は戻ったけど涎拭こうね。


 二人は僕の世界の料理に興味があると言うので、すき焼きと天ぷらの定食をおすすめしておいた。

 外人と言えばスシー、スキヤーキ、テンプラ~、だもんな。

 寿司もあったが頼まなかった。だって異界の魚の生だよ?カエルがあんなにデカい世界の。生は絶対ヤダ。

 3人で食事を受け取り、適当な場所に陣取る。

 僕はお袋の手作りカレーを注文した。微妙に素人感があって人気らしい。因みに鶏肉のカレーだ。そういえばカエル肉って鶏に近いって言うよな…いや、これ以上考えるのはよそう、うん。


 3人とも色々あって空腹だったので話よりも先に食事を取ることにしたが、食事が始まると、すき焼きを頼んだ女騎士さんが、

「あの?この白い球体のものは何に使うのでしょうか?」

 と聞いてきた。


 はい、忘れてました。久々でね。定食は運悪く配膳時には炊きあがってるタイプで火を通すのは無理だろう。なんとか誤魔化さないと・・・


「き」


「き?」


「…嫌いな相手への投擲武器です。」


 ある意味間違ってはいない。…いないが全国のジャパニーズ、すみません!と心の中でジャンピング土下座。


「まぁ、なぜそのような物がこちらについているのでしょう?」


「か、かつて恋に冷めた恋人同士がすき焼きを食べながら別れ話をしたという逸話に因んで…」


 悲しいお話があるのですね、と目を細める女騎士に罪悪感たっぷり。お袋のカレーってこんな苦かったかな?

 二人はとてもおいしいと目を輝かせながら食事を楽しんでいた。

 あんなに涎を垂らしていたのに、がっつかず、食べ方が美しい女騎士さん。やっぱりいい所のお嬢様なのかな?


 因みに嫌いな相手が居ないのでこれは食器と一緒にお返しします、と食器と一緒に返却したが、その際にシェフに声を掛けられ、すぐ嘘がばれた。ご令嬢モードで優しく怒られましたが、身体を案じて異界の生卵を食べさせたくなかった、と言ったら許して貰えた。チョロイン。

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