本編1 これが僕らのセカンドライフ その3


 空気が凍った。誰も動かない。

 頭が真っ白になったのは僕だけじゃないはずだ。

 どれぐらいそうしていただろう。

 一人の男の声で呆然としていた意識が呼び戻された。

「ふざけるな!!俺は従わないぞ!!!」

 侍風の男が啖呵を切った。


「んー。まぁ、毎回こういう生きのいい奴居るんだよなぁ。じゃあいつものアレ、いきますか!」

 陽気な男がパチンと指を鳴らす。

 すると音を立てて片側の闘技場の入場門が開いた。

 居る・・・・何かが!!!!

 周りの者も気づいたのか全員警戒体制に入る。

 呪文を使えるものは詠唱を始めるものもいた。


 とてつもなく嫌な予感がする。

「聖女様、僕の後ろに、そしてゆっくりと下がってください。」


「わ、わかりました。」


 聖女様がゆっくりと下がるのを確認して僕も入場門から距離を取る。


 刹那の一瞬、僅かに見えたひも状の物体。それを目で追い、気づいたときには侍男のパーティの女術師が消えた。かろうじて目で追えたがかなりの速さだ。


「サクラ!通路奥に光術を放て!」

 侍男が仲間の桃色髪の巫女に指示を飛ばす。


「は、はい。大いなる太陽神よ。ここに力を顕現し、敵をうち滅ぼせ!光術!」


 高出力の光属性の魔法か?巫女から光の球が放たれ、通路奥で爆発し、砂塵が舞う。

 砂煙に巨体の影が移る。で、でかい2mはあるか。

 砂煙の中から、またひも状の攻撃が繰り出される。


「あっ」

 避ける間もなく侍パーティの巫女の子が消えた。


 今度は見えた。あれは…


「舌だ!!!」


 砂煙から出てきたのは巨大なカエル。


 巫女の子はかろうじて足だけが口から見えていた。


「サクラを返しやがれ。この糞ガエル。」


 侍男がでかい腹に切りにかかる。カエルは避ける動作もなく侍の攻撃がクリティカルヒットする。

 切った腹からは炎が噴出する。あの刀の特性だろうか


「はは!見たか!カエル野郎!太陽神様のお力は効くだろう!」

 カエルはグエっと鳴き、咥えていた物体を吐き出した。

「え…」


 その物体は足首から先がすでに無かった。

 侍男はかつて仲間だったそれを呆然自失で眺めていた。

 炎が収まったカエルは侍男を見定める。


「い、いかん!」


 別のパーティの巨大な盾を持った重戦士風の男がガシャガシャと音を立ながら走って侍男とカエルの間に入った。


 カエルは口を膨らませると重戦士に向かって体液を吐きかけると

「ぐああああああああああ!!!!!」


 重戦士の頑強な鎧と盾がフライパンで熱したバターのように溶けていく。

 あっという間に屈強な重戦士がどろどろの肉塊へと変貌した。


「い、いやあああああああああ!!!!」


「うわあああああああああああ!!!!」


 闘技場内はパニックと化した。

 叫ぶ者、吐く者、蹲って泣き出す者、腰を抜かす者、武器を投げ捨て無防備に背中を向けて逃げ出す者。

 無理もない。神から強力なチートのような能力や武具を与えられ、世界を救った者が瞬く間に三人死んだのだから。


 聖女様も叫ばなかったものの、目の前の惨状に過呼吸状態だ。

 しかし、その時、違和感を感じた。


(カエルがキョロキョロしている?)


 次の瞬間カエルがこちらを見定めた!


 もしかすると・・・

(聖女様すみません)


 何も言わず、限界近い聖女様を当身で意識を刈り取る。


(予想が正しければ…)


 こちらを見定めていたカエルが叫びを挙げていた男軽戦士に向きを変更した。


(やはり…)


 数人が今の行動で気づいたようでアイコンタクトを取る。

 僕と拳士風の男、女騎士、女盗賊はゆっくりとカエルの後ろに回り込むように静かに移動する。

 腰が抜けたのか、動きの鈍いカエルに対して軽戦士の男はうまく逃げれず、やみくもに剣を振り回す様子だったが、それが幸をそうした。


(よし、全員で回り込めた。)


 僕たち四人は目配せでタイミングを取りカエルの背後に目いっぱいの攻撃を放った。


(これで駄目だったら…アレを使うしか無いか)


「ブラボー!!!いやー!!中々優秀優秀!」

 今まで静かだった陽気な男が口を開く。


「ま、合格にしましょ」


「「「「「「「」」」」」」」」

 陽気な男がマイクに声を吹き込んだかと思ったらカエルの頭が吹っ飛んだ。


「こいつはこの世界のポピュラーな原生生物でしてね。外にはうじゃうじゃしてまーす。原生生物は何かしら特徴や習性持ってるんでね。それを理解して対処しなきゃ、あの世行きよ。」


「さーて、侍クーン。従わないんだっけ?もうお仲間みんな死んじゃったけど。頑張って強く生きてねー。お そ と で 」


 固まっていた侍がビクッと肩を震わせ、真っ青な顔で消え入りそうな声を発した。

「・・・・てください・・・」


「あーん!なんだって?」


「た、助けてください。なんでもします。」


 その姿を見た観客席からゲラゲラ、クスクスと笑い声がこぼれる。


「いやー、ゆうて俺っちは司会者で、この観客席に居る両代表が決めることですしー。俺っちに言われてもねぇ。えーと皆さんの希望を聞いて、んで代表が欲しい人材なら雇用契約?みたいな?ま、これ自体がアレよ。トライアウトみたいなもん。 そゆわけなんで、これから1パーティづつ呼ぶんで皆さーん、最後のアピール、がんばっちょ!!」


 陽気な男が言い終わるとカエルが出てきた入場門とは逆方向の門が開き、そこからメイド姿の女性たちが出てきてパーティを案内しはじめた。

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