本編1 これが僕らのセカンドライフ その2
だんだんと意識がはっきりしてくる。右手に暖かく柔らかな感触。
目を開け右を見ると一緒に手をつないだ聖女様の姿。離れ離れにはならなかたようだ。
周りを見渡す。ここは…どこなんだ!?
周りを見渡すと大勢の人たちが居る。ぐるりと円を描くように観客席。その中心は大きく窪むような構造、所謂闘技場のような形だ。
そして僕たちが居るのは観客側ではなく剣闘士側の立場だ。
そして観客席からは舐めるような視線を感じる。
「ゆ、勇者様。」
聖女様が腕を控えめに掴み不安そうに見上げてくる。
周りに居る人たちも皆一様に戸惑っている様子だ。
「ようこそ~!!!地獄へ~~!!!」
観客席にライトが当たり、こんがり焼けた肌にチャラチャラとした派手な服とサングラス。それにマイクらしきものを持った陽気な男が語りかけてくる。
「皆さん!チュートリアルクリアお疲れちゃーん。」
チュートリアル?どういうことだ!?
「えー、皆さんの転生、転移はここからが本番でーす。では、まず神様の…」
「おい!ちょっと待て!ここはどこなんだ!俺たちは元の世界に帰るんじゃないのか!?」
侍風の男が口をはさむ。
「おい、お前。俺っちが今説明してんだろうが。」
男の感情の入っていない平坦な声。聞いただけで圧倒され、その場にいた全員が息を飲んだ。
「えー。皆、邪魔しないでね。大変なことになるからさ。では続きを・・・」
再び笑顔で話始める。
ガンマン風の男が陽気な男に向かって銃を構え、撃とうとした瞬間、ガンマン風の男の頭が潰れたトマトのようにはじけ飛んだ。
「あーあ、だから邪魔すんなって言ってんのに。この付近では人同士の戦闘は駄目だよ。あんな風に死ぬからねー。そいじゃ、ここはどこなのか?皆さんご存じ、おファックな神野郎から説明がございまーす。では傾聴しやがれ~」
空中にだらしない女性の映像が写し出された。神様…なのだろうか?僕が転移したときに会った奴とは別人だ。
「あーテステス。皆さん救世お疲れ様でしたー。そこに居る皆さんは世界を救った勇者さんや英雄さんでーす。んでもってぇ、ここは世界の狭間ですー。えー、お仕事が終わった皆さんを転移で元の世界に返してあげようと当初頑張ってたんですが、皆さん、帰りたいだの、帰りたくないだの、クッソ面倒なのでこういう場所を用意しましたぁー。そういう経緯で出来たんですここはぁー。さぁ好きなだけ皆さん意思統一してくださーい。
ある程度できたら呼びかけてくださーい。用事なく呼んだらぶっ殺しまーす。じゃ」
「ちょっと待ってください。私は世界など救ってはいません。ただ異世界でのんびりと薬師をしていただけで・・・」
優男が映像を切ろうとする神を呼び止めた。
「ちっ・・・そっち系か・・・めんどくせぇ。えーと何だったっけな?なんか元の世界にちょっと帰ってみたいなー、とか元の世界どうしてるかなー、とか考えたやつもぶち込んでまーす。そゆことでよろしくー。じゃ」
と最後は欠伸して映像が消えた。
「はーい。というわけで糞みたいなお言葉でした~!では皆さん、どちらに帰りたいか所属する側を決めてくださーい。」
気弱そうな狩人風の男が口を開く、
「ちょ、ちょっと待ってください。神様は意思統一してほしいと言っていたのに別れたら元も子もないじゃないですか。話し合って意見を取りまとめないと…」
「は?お前、まじで言ってんの?そんなの不可能に決まってるだろ?頭お花畑かよ。」
陽気な男から笑顔が消えた。
「え?じゃあ何のために…」
狩人風の男が震えた声で聞く。
その先の言葉は皆、薄々気づいているんだ。
やめろ…やめてくれ!その先は!!!
聞いた狩人は顔が真っ青だ。周りの者もみんな蒼白な顔をしている。
隣に居る聖女様は今にも倒れそうなほど血の気が引き、僕の腕にしがみついて何とか立っているような状態だ。
「何のためにって察しの悪い奴だな~。」
ニコニコしながら男が答える。
だがそれも束の間、男から笑みが消え、冷たい感情のない声で答える。
「そんなの殺し合うために決まってるだろ。」
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