第54話─ユウのお手伝い
「あ、来た来た~。待ってたよコリ……ありゃっ、ユウにシャロちゃん! どーしてここにいるの?」
『パパ!? それにファティマママも。二人こそどうしてここに?』
「これは驚きましたね。わたくしたちはミスター・アゼルに依頼を受けたのです。ミセス・リリンが手に入れてきたサモンギアの改造を手伝ってほしいと」
西の理術研究院施設に到着したユウたちを待っていたのは、なんとリオとファティマだった。どうやら、彼らも呼ばれていたらしい。
「うむ、リオはともかくファティマ殿はその道に精通しておるでな。アゼルが呼ぶのも頷けるものよ」
「ちょっとー、それじゃ僕がただの賑やかしみたいじゃないのー」
「うん? そうじゃが?」
「あー、言ったなこのー! そんないじわる言うと猫パンチしちゃうぞー、このこのこのー!」
「ちょ、待て待て待てぃ! お主の猫パンチは洒落にならん、あれわりと痛いんじゃぞ!」
コリンに揶揄われたリオは、猫がパンチするような仕草をしながら親友を追いかけ回す。そんな彼らの元に、依頼人が姿を見せる。
「やれやれ、何百年経っても変わりませんねぇ。彼らの関係は。久しぶりですね、ユウさんにシャーロットさん。お忙しいところ、お呼びして申し訳ありません」
『いえ、そんな。ボクが役に立てることがあれば全力でお手伝いする所存です!』
「ご機嫌麗しゅう、偉大なる命王アゼル様。ご壮健なようで何よりです」
ユウたちのいるエントランスの奥に続く廊下から、一人の少年がやって来た。灰色の髪を持ち、ツギハギだらけのローブを羽織っている。
それだけなら普通の少年だが、一つ違うところがあった。左目の黒目部分が、髑髏の紋様になっているのだ。これこそ、少年……アゼルが死者蘇生の力を持つ証なのだ。
「ふふ、お二人の活躍はリオさんやコリンさんからたくさん聞いていますよ。自慢の子どもたちだとね」
「なんだか恥ずかしいわ、お父様ったら。それでアゼル様、私たちは何をすれば?」
「この奥の部屋にある装置を運び出してサモンギアの改造をする予定なのですが、シャーロットさんにはファティマさんの手伝いをお願いしたいんです。助手としてサポートしてあげてください」
「何分初めての作業だらけでしょうが、全てわたくしが教えるので問題はありません、ミス・シャーロット。我が君、そろそろ行きますよ?」
「はーい!」
「うむ、ここからは仕事じゃ。シャキッとせいよ」
一通りふざけ終わったリオたちを伴い、アゼルは廊下の奥へ一行を案内する。廊下の先は、大きな部屋に繋がっていた。
部屋の中央には、巨大なマシンが鎮座している。まずはこのマシンを運び出し、リヴドラスにある研究施設に移設するらしい。
「この場所だと、闇の眷属にちょっかいを出されかねませんから。面倒ごとは嫌なので、まずはこれを運びます」
『こ、この大きいのをですか。でも、力仕事なら』
「これこれ、精密なキカイを人力で運ぶのはいかん。壊れたら困るでの。ここはわしに任せい、ポータルを使えばすぐじゃからな」
「あらかじめ、リヴドラスの方でソロンたちに待機してもらってるからすぐ取りかかれるよ! それじゃあ作業開始!」
妨害の可能性があるとのことで、まずは搬入作業を行うユウたち。コリンの魔法でマシンを浮かせて、時空間移動用のポータル魔法を発動する。
ポータルを通ってリヴドラスの研究施設に向かい、待機していたソロンたちを交え研究室にマシンをゆっくりと設置する。破損等が無いかをチェックした後、いよいよ本題に入る。
「ありがとね、ソロンにみんな。手伝ってもらっちゃって」
「いえ、父上の役に立てて嬉しく思います。ユウ、私たちは別室にて待機するので父上たちを頼みましたよ」
『はい! 任せてください、兄さん!』
ソロンら職員に手伝ってもらった後、退出してもらったリオ。機密事項に当たるため、多くの者を参加させられないのだ。
「さて、マシンを起動……する前に! ユウ、悪いんだけど君の力を貸してね」
『はい、分かりました! こゃーん!』
『庇護者への恩寵を与えます。集中力及び運勢を向上。人為的、装置的事故の可能性を大幅に減らします』
『これでよし、です。事故が起きる可能性がグッと減りましたよ』
ソロンたちが退室した後、ユウは庇護者への恩寵を発動しリオたちに加護を与える。ちょっとしたミスから致命的な過ちまで、これで起きる可能性がだいぶ減った。
「おお、凄いですね。なるほど、これがユウさんの持つチート能力……ですか。思いやりに溢れる彼らしいですね」
「ふふん、でしょでしょ? なんてったってね」
「ほい、そこまでじゃ。お主の息子自慢が始まると作業が出来ん。お口チャックしておれ」
「ちぇー、じゃあ終わったら自慢するね!」
「終わってもするでないわ阿呆!」
漫才のようなやり取りをしつつ、マシンを起動させるリオ。すると、筒状のマシンが展開して無数のアームへと変化した。
それを見届けたアゼルは、魔法でドス黒く染まった平べったい長方形の物体と、壊れたベルト型の装具を呼び出す。これこそが今回改造を行う装置、サモンギアだ。
「これがサモンギア……なのかしら。ただのベルトにしか見えないけれど」
「そう思うじゃろ? その装具の面白いところはの、こっちの平べったい方……【デッキホルダー】がカギとなるところじゃな」
「こっちの方が? そうは思えないわお父様」
「ま、そう思うのも無理はない。しかしのシャロ、これは凄いものなのじゃ。なんと、モンスターと契約してパワーアップ出来るのじゃよ」
『なるほど、マジンフォンみたいなものでしょうか?』
「うむ、そうなるのう。……と、話してばかりおるとファティマ殿に睨まれるな。ここからは作業しながら話そうぞ」
コリンはそう話した後、マシンの下に魔導電源用のケーブルを接続しつつ話を続ける。サモンギアの性質について、ユウたちに聞かせる。
「簡単に言えば、モンスターと契約を行い召喚するための装具よ。モンスターの力は特殊なカードに宿り、それを自在に操り戦えるというわけじゃ」
「なるほど、コンパクトだし軽いしで持ち運びにも便利ですものね」
「それだけではないぞ? サモンギアの力で生み出された武具にはの、普通の武具はまるで意味をなさぬのじゃ。防具は容易く砕かれ、武器は装具の使い手を傷付けられぬ」
『ええっ!? じゃあ、サモンギアを使わない人に勝ち目ないじゃないですか!?』
コリンの言葉に、ユウとシャーロットは驚いてしまう。そこにリオがやって来て、作業をしている妻を見ながら説明を引き継ぐ。
「大丈夫だよ、僕ら上位の神や闇の眷属なら対抗出来るからね。まあ、サモンギアの開発コンセプトが『誰でも神や魔戒王と渡り合える兵器を作る』らしいから、油断は出来ないけどね」
「……よくそのようなものの存在を許容しましたね、リオ様もお父様も。そんな危険なものすぐにでも叩き潰しに行くと思っていました」
「造られた経緯が経緯だから、ね。それに、制作者の人となりを知ってるから。だから、彼に……キルトくんに任せてあるんだ。僕たちと同じ、ヒーローである彼に」
『パパがそんなに信頼する人なんですね、キルトさんって。ボクも……会ってみたいなぁ』
アームに固定されたサモンギアの外装が外されていくのを見ながら、ユウはそう呟く。その願いは、そう遠くない未来に叶うこととなる。
彼が思い描くものとはやや違う形ではあるが……。経緯はどうあれ、いずれ出会う。遠い異郷の地で戦っている、まだ見ぬ英雄と。
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