第55話─授けられしモノ

 数時間かけて、装具の改造を行ったリオたち。その甲斐あって、無事サモンギアの改造が完了……したはずだった。のだが……。


「んー、やっぱダメだね。生きてる人間がこれ着けると、数分で全身が爆裂して死んじゃうや」


「一度契約したモンスターとは命を共有し、どちらかが死ねばもう片方も死ぬという危険なブツじゃったからなぁ、元から。デメリットを取り除けないかと思うておったが、やはりそう簡単にはいかぬか」


 サモンギアのブラックボックスに仕込まれた制約機能を取っ払うどころか、魔改造のやり過ぎでとんでもない危険ブツになってしまったようだ。


 なお、あまりにもヤバすぎる特性が判明するまで自ら実験台になるのを名乗り出たリオが三十回近く爆裂することにもなった。


『ど、どうするんです? これ。流石に使い物にならないと思いますよ』


「んー、一応ノスフェラトゥスならなんとか使えないことも……いえ、多分ネクロクリスタルと競合してとんでもないことになりそうですね。ちょっとぼくには手に負えません」


 魔神ゆえの再生能力があるユウはおろか、死を超越した命の王ですらサジを投げる曰く付きの代物になってしまっているようだ。


 ユウとシャーロットがコリンの方に視線を向けると『無理』というジェスチャーを返された。せっかくの装具がガラクタに……と思われたが、リオはまだ秘策があるらしい。


「んー、じゃあ僕が預かっとく。まだアテはあるからね、そっちもダメなら破壊しちゃえばいいんだし」


「なんだか不安じゃの……ま、別によいか。というわけでユウ、約束通りお駄賃をやろう。ささ、近う寄れ」


『はーい』


 リオに全部丸投げするという、適当極まりないやり方でとりあえず問題にケリをつけた一同。コリンに呼ばれ、ユウは彼の元に歩み寄る。


「お駄賃として、わしとフィルたちで開発したコレを授けよう。お主が再び、あの腐れ魔魂片と邂逅した時に役立つ『封魂のランタン』をの」


『わ、凄い力を感じます……。もしかして、ボクの魂と共鳴しているんでしょうか?』


「ほう、目聡いのう。うむ、お主の魂とシンクロさせ、中に閉じ込めた魂を封印する力を強めるようにしてあるのじゃ。それがあればお主も安心じゃろ?」


 魔法を使って、フィルやアンネローゼと共に完成させた封魂のランタンを呼び出すコリン。ウィンクしながら、ユウに手渡した。


「ああ、あの時の相談にこんな答えを……。ありがとう、お父様」


『ボクからもお礼を言わせてください、ありがとうございます。コリンさん』


 ヴィトラへの強力な対抗手段を手に入れたユウとシャーロットは、コリンにお礼の言葉を述べる。その様子を、リオが羨ましそうに見ていた。


 自分も何か役立つ『お駄賃』をあげて、ユウに喜んでもらいたいらしい。が、生憎そのようなものを持っていなかった。


「うー、いいないいな。僕もユウに喜んでほしーい! 今度何か作ってプレゼントしちゃお!」


「……ぼくが言うと盛大なブーメランになりますが、リオさん相変わらず凄い子煩悩ですよね」


「ええ、わたくしも肯定します。我が君は……家族というものに強いコンプレックスを抱いているのも一因でしょう」


 変なところでやる気を出しているリオを見ながら、アゼルとファティマはそんな会話を行う。リオには一つ、癒えぬ傷がある。


 彼が人間だった頃、とある国の王族として生を受けた。だが、生まれてすぐに国が滅亡してしまい両親と死別してしまった。


 それからずっと、天涯孤独の人生を送ってきたリオには『家族』というものに対する強い渇望とコンプレックスが芽生えていたのだ。


(我が君自身すら気付いていない……いえ、気付いているがゆえに目を背けているのでしょうね。それだけ、癒えがたい傷ということですから)


 リオがどんどん自らの子を、孫を増やしていくのも潜在意識に根付いている家族への渇望が要因の一つとなっている。彼は自分を愛し、そして愛を注げる者を欲しているのだ。


 両親から与えられるはずだった無償の愛……それを与え合える存在を求めている。リオが必要以上に家族を愛するのも、そうした過去の苦しみが原因となっている。


「しかし、一族が増えることは母として喜ばしいことではあります。我が君は決して、我が子をないがしろにしませんからね。力を受け継いでいようがいまいが、等しく無限の愛を注ぐ。とても素晴らしい方ですよ」


「ええ、ユウさんや他のきょうだいを見ているとそれがひしひしと伝わってきます。たまに羨ましくなりますよ、リオさんの子どもや孫たちが」


「およ、じゃあアゼルくんも僕んちの子になる? パパがたくさん甘やかしてあげるよ!」


「わあっ、聞いてたんですか!? いきなり割って入ってこないでくださいよ、心臓に悪いので!」


 ファティマと話しをしていたアゼルの背後に、リオがいつの間にか回り込んでいたようだ。冗談めかしてそう口にしつつ、親友に飛び付いた。


 突然のことに驚き、アゼルは思わず叫んでしまう。そんな彼を見て、ユウたちは大笑いするのだった。



◇──────────────────◇



『む……』


「どうした、ヴィトラ」


『追跡者の気配が消えた。返り討ちにされたようだな……。こうなれば、やはり我が直々に出向かねばならぬようだ』


 同時刻、リンカーナイツの基地でユウ確保に向けて動いていたヴィトラは分身の消滅を察知していた。分身がダメな以上、自分が出向かねばユウを確保出来ないと判断したらしい。


 共に一夜を明かし、事態を見守っていたユージーンもまた彼女に付き合う意思を固めていた。再度部隊を編成し、ガンドラズルを襲撃するつもりだ。


「なら、二日ほど待っていてほしい。ミーが潜入させているスパイに指示し、ボーイがあの街から去れないよう工作する。その間に部隊を集め、再度襲撃を行う」


『ふむ、よかろう。その間、我はさらに力を蓄えておくとしようか。今度こそ奴の肉体を奪い、復活を遂げてくれる!』


 自身の復活のため、やる気をみなぎらせるヴィトラ。だが、彼女はまだ知らなかった。今やユウの手には、彼女への対抗手段があることを。


 一方、ユウの方はシャーロットと共にガンドラズルに帰還していた。やることを終え、チェルシーたちに連絡を取り居場所を聞く。


「まだ呑んでたわけ? 次悪酔いしたらキヨさんにお説教されるわよ?」


「いーじゃねーか、こういう時くらい飲んだくれてもよう」


「デスデス、はしご酒はサイコーなのデスよ。あ、ミサミサにはジュース飲ませてるかれそこは安心してほしいデスマス」


「フッ、我が内に宿る竜が欲しているのさ。この偉大にして深遠なるぶどうジュースネクタルをね」


 いつの間にやらミサキと合流していたチェルシーたちは、この数時間ひたすら酒場を回って飲み食いしていたらしい。流石のシャーロットも呆れてものも言えないようだ。


『そういえば、ミサキさんは何をしてたんです? 姿を見なかったので心配してたんですよ』


「なぁに、たいしたことじゃあないさ。君の周りをうるさく飛び回るハエを潰していただけのこと。気にする必要はない」


『はあ……。その様子だと駆除出来たようですし、まあいいでしょう』


 相変わらずムダに壮大で迂遠な言い回しをするミサキに、ユウはそう返事する。本当に知る必要があるなら話してくれるだろうし、そうでないなら重要なことではないのだろうと判断したのだ。


『とりあえず、ボクたちもご飯にしましょうシャロさん』


「そうね、ということで少し詰めてちょうだいブリギット」


「あいあい、よーこそデスよ。次はゆーゆーたちが何をしてたか聞きたいデスね」


『ええ、実はですね……』


 ユウとシャーロットも加わり、報告会が始まる。そんな彼らと、ユージーンたちの決戦の時は……少しずつ、確実に近付いてきていた。

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