第52話─唸る白炎の竜

 翌日の朝。大いに飲んで食って大騒ぎしまくったパラディオンたちは……二日酔いに苦しめられていた。あまりにもハメを外し過ぎてしまったようだ。


「うう……おええ~!」


「全くもう、みんなこういう時にすぐ調子に乗るんだから……。はい、二日酔い解消の水薬を作っておいたから飲んでね」


「ありがとよ、キヨさん。あんたの薬にゃあいつも助けられてるぜ」


 表彰式とパーティーにギルドの幹部枠で参加していた清貴は、どうせこういう事態になるだろうと酒をほぼ飲まずに過ごしていた。


 そのおかげで、悪酔いしたパラディオンたちは彼のチート能力によってすぐに二日酔いから解放されることとなった。未成年ゆえに悲劇を回避出来たユウたちは、苦笑いしながら成り行きを見守っている。


「あー、ひでぇ目に合ったぜ。ったく、ギルドの連中ヤスモンの酒仕入れてきやがって。こんな悪酔いする酒初めて飲んだぞ」


「あ゛ー、ダミ声になってるデスマス。喉の不調までは治らなかったデスね」


『あはは……二人とも災難でしたね。……そういえば、ミサキさんは?』


「さあ、起きた時にはいなかったわ。たぶん街のどこかにはいると思うけど……」


 清貴が作った二日酔い解消の水薬を飲み、不調から解放されたチェルシーとブリギットはぐでーっとしていた。そんななか、ユウはミサキの姿が見えないことに気付く。


 どうやら、シャーロットも姿を見ていないらしい。話題の中心であるミサキがどこにいるのかというと……現在、ガンドラズルの防壁の外にいた。


「やあ、来たね。リンカーナイツがユウくんを奪還しようも何かしてくるんじゃないかと思っていたけれど。意外と遅かったね、夜には仕掛けてくると思ってたんだけどね」


「……」


「だんまりかい? まあいいさ、私の役目はお前を狩ることだからね。さあ……白き闇の炎に抱かせて灰になるがいい。ショータイムだ!」


「……シネ!」


 彼女はただ一人、ユウを狙う追跡者の存在に気が付いていた。ユウが知る前に滅殺せんと、こっそりガンドラズルを出ていたのだ。


 久音の姿をした漆黒の影……シャドウチェイサーはそう口にし、右手を拳銃に変化させ発砲する。狙う場所は一つ、ミサキの心臓。


「フ……銃は剣よりも強し、ということわざがある。だがね、私が相手の時は真逆になるんだよ。剣こそが銃よりも……強いのさ!」


 弾丸が放たれた刹那、ミサキは左腰にいていた刀の柄に手を伸ばす。そして、鞘から引き抜くと同時に弾丸を切り裂き砕いてみせた。


「……!」


「驚いたかい? でも、こんなのはまだ序の口さ。私の力はこんなものじゃない、伝説の騎士アーサー王の生まれ変わりたる私の実力を、よーく見るといい!」


「……コシャクナ!」


 一刀のもとに弾丸を斬り捨てられた追跡者は、左腕を大ナタに変化させミサキに斬りかかる。それに対し、ミサキは回避に徹し反撃に出ない。


 フェイントを織り交ぜた相手の苛烈な攻撃を、全て皮一枚で避けていく。お前の攻撃などまるで当たらないぞ、とでも言わんばかりに。


「おやおや、どうしたんだい? その大ナタ、重心が安定してないんじゃないかな。私にまるで当たらないよ?」


「……ダマレ!」


 ミサキに煽られた追跡者は、至近距離ならば防げまいと再度弾丸を放つ。が、なんとミサキは超人的な身のこなしで無理矢理離脱、弾丸を避けてみせた。


「……コレモサケルカ」


「私の胴体視力を甘く見ない方がいい、弾丸程度なら余裕で見切れるからね。……それじゃあ、そろそろ反撃させてもらおうかな。九頭龍剣技、壱ノ型。菊一文字斬り!」


 準備運動は終わりだとばかりに、突如ミサキが仕掛ける。瞬間移動染みた跳躍によって一瞬で距離を詰め、身体ごと刀を回転させ追跡者を両断した。


 これにてあっさりと決着……そう思われたのが、ミサキは即座に後ろへ跳ぶ。直後、上半身と下半身に両断された追跡者がそれぞれ再生して二体に増えたのだ。


「へえ、驚いた。増えるんだね君は。まるでワカメみたいだ」


「ワタシハホロビヌ。マリョクガツキヌカギリムゲンニフエルノダ。レイノコドモヲサシダセ。ソウスレバ、オマエノイノチハホショウシテヤル」


「フッ、そんな頼みを聞くとでも? 私の使命はユウくんを守ること。そのために私は託されたんだ、英雄の遺産をね。見せてあげよう、私の力を!」


 いくらでも増殖出来ると豪語する追跡者はそれを証明すべく、さらに二体増えて合計四体になった。降伏するよう告げるも、ミサキは歯牙にもかけない。


 そして、懐にしまっていた真っ白なマジンフォンを取り出す。ユウたちのようにテンキー入力して獣の力を解放する、と思われたが……。


「このマジンフォンはね、この世で唯一の特性を持っているのさ。それを見せてあげよう、光栄に思いたまえ!」


「ナニヲゴチャゴチャト……? ナンダ、マジンフォンをハラニアテテイル……?」


「さあ、刮目せよ! 大いなる魔神と天才的頭脳を持つ英雄のミラクルコラボレーションの産物を!」


 ミサキはマジンフォンを横向きにし、へその下あたりにセットする。すると、マジンフォンの両サイドからベルトコンベアのような模様の黒い帯が伸びてきた。


 マジンフォンをバックルにしたベルトが完成した後、ミサキは初めて画面をタッチする。すると、マジンフォンが光に包まれ円形に変化した。


「ナンダ、ソレハ。ソンナモノ、ワレハシラヌゾ」


「だろうね、これは遠い昔にフィル様が創り出した変身装具【ダイナモドライバー】の機能を有する、この世でただ一つのマジンフォンだからね!」


「ナニ……!?」


 ダイナモドライバー。それは、遠い昔……まだフィルが存命だった頃に創り出した、ヒーローになるためのベルト型変身アイテム。


 無限の魔力を生み出す小型永久機関【ダイナモ電池】を組み込んだバックルに格納されたアーマーを展開・装着することで魔神に匹敵する力を得られる。


 だが、それだけでは輪廻の加護を与えられたリンカーナイツに対抗することは不可能。そこで、リオとフィルは試行錯誤を重ね生み出したのだ。


「英雄たちの叡智を組み合わせ、生まれたガジェットの力を知れ! ダイナモギア・ソウルアクセス。……マギドラマヴリオン、スタンバイ」


「ナニヲスルツモリカシラヌガ、ヤラセハセヌゾ!」


「残念ながらもう遅い。さあ、我が腕に宿る白き邪炎よ! その力を存分に振るえ!」


「ム……グオッ!」


 バックルと化したマジンフォンから、魔力を変換して構築されたアーマーが出現しミサキの身体を覆っていく。とはいえ、全身を覆うわけではない。


 純白のアーマーが覆うのは、四肢と背中、腰回りだけのようだ。背部に回ったアーマーが展開され、ドラゴンを思わせる巨大な翼に。


 腰回りのアーマーからは、太い尾のような赤いケーブルが伸び地面に垂れる。最後に、ミサキは魔力を用いて金色の王冠を作り出し頭に被った。


 大きく広がる翼にぶっ叩かれた追跡者たちは、吹き飛ばされた後どうにか着地する。その少し後、大きく様変わりしたミサキの姿を見ることとなる。


「やあ、待たせたね。どうだい? ケモノとキカイ、二つの力を合わせることで生まれた機巧装甲……【マギドラマヴリオン】は」


「フン、クダラヌ。タダノキカイデデキタダケノ、ドラゴニュートノヨウナモノデハナイカ。オソルルニタリヌワ!」


「ソノトオリ、コチラハヨンタイ。オマエハヒトリ。カズノサハ」


「歴然、って言いたいのかい? 悪いね、数なんて関係ないのさ」


「ナ、ン……」


 追跡者たちが攻撃しようとした刹那。人型の白龍の如き姿になったミサキが、敵対者の一人の目の前に現れた。瞬間移動したとしか思えない、とんでもない速度で。


 あまりの驚きに、追跡者たちは一切反応することが出来ず……それぞれ異なる場所に立っていたにも関わらず、全員纏めて斬られてしまった。


「バカナ、ナゼ……」


「ゾウショク、デキナ……」


「キサマ、ナニヲシタ……!」


「答える必要はないさ。消えなよ、もう二度とユウくんに近付こうだなんてするんじゃあないよ?」


 原理は不明だが、増殖を封じられた追跡者ちは驚愕の表情を浮かべ消滅していく。そんな彼女らに、ミサキは茶目っ気たっぷりに答えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る