第51話─影の追跡者
「……なんだ、これは。ウォルニコフたちに何が起こったのだ?」
ユウとミサキがとんずらしてから数十分経った頃、ヴィトラを伴ったユージーンが基地に到着した。が、連絡に誰も応じず出迎えも無いことを訝しみ、すぐに管理室に向かう。
基地内に設置された隠し水晶でくまなく監視映像をチェックしていたユージーンは、地下牢での出来事……グランザームによるウォルニコフたちの拉致を知ることに。
『ユージーンよ、この様子ではやはり……』
「何があったかは分からないが、逃げられてしまったようだ。監視映像を見るに、あのボーイ……新たな力を発現させているな。この数時間で何が……」
さらに映像をチェックし、ビリーと戦う拳の魔神形態のユウを見て呟くユージーン。真っ先に本部に報告した後、管理室にて思考する。
(さて、どうしたものか。今から捜索すれざ発見出来るかもしれないが、未知の力を身に付けている以上警戒は怠れぬからな……)
『ユージーンよ、何を考え込んでいる。追跡が必要ならば我に任せればよい。かつてフィニスだった頃の力の残滓を用いれば、あやつを追うくらいは簡単なこと』
「そうか、ならば頼みたい。恐らく、パラディオンたちの拠点……ミーたちが襲撃した街に戻ろうとするはず。理想を言えば、到着される前に捕まえたい」
『ふむ、その要望が叶うかは分からぬが……。腐っても終焉の力より生まれし
監視映像が記録された時刻とマジンランナーの速度を逆算すれば、十分ユウに追い付くことは可能だと判断するユージーン。
だが、不確定要素が多い現状で刺客を放っても返り討ちにされる可能性が高い。リンカーナイツの人材……それも高カテゴリーは無限ではない。
今回はこのまま撤退……と考えていた彼に、ヴィトラがそう告げる。そして、かつて終焉の者だった頃に振るっていた力の一部を行使した。
「ほう、これは。ヒサネの偽者か」
『喋りはしないが、このシャドウチェイサーの視覚と聴覚は我とリンクしている。あやつの得た力の秘密、追跡ついでに暴いてくれようぞ』
「頼もしい限りだ。では、本部に戻るとしよう。いつまでもここにいても無意味だ、次の作戦を練る方がよほど有意義というもの」
そんなやり取りをした後、ユージーンたちは基地を去る。そして、後日ユウたちが戻ってきて機密情報を持ち去られないように、基地に設置してある自爆装置を遠隔起動させた。
「これでよし、ボーイが機密文書を見つけていないのは監視映像で確認出来たからな、迷いなく爆破出来て助かるものだ」
『うむ、ここからは我の仕事だ。行け、シャドウチェイサーよ! 我が器を見つけ出し捕獲するのだ!』
ヴィトラに命じられた、久音の姿をした追跡者は溶けるように消えた。魔力の痕跡をたどり、ユウを追い始めたのだ。夕焼けに照らされた人魂が、不気味に輝いていた。
◇──────────────────◇
「ユウくーん! よかった、本当に無事でよかったわぁぁぁ!!」
『心配かけてごめんなさい、シャロさん。チェルシーさんにブリギットさんも』
「いーんだよ、んなこたぁ。ユウが帰って来てくれてよ、もー嬉しくて嬉しくて!」
「デスデス、準備がムダになりマシたがそんなのは些細なことデスマス!」
夜のとばりが降りた頃、ユウとミサキは無事ガンドラズルに帰還することが出来た。奪還作戦に参加する予定だったパラディオンやギルドの幹部たちは、ユウの帰還を喜ぶ。
「ところで、ユウくんと一緒に来た貴女。一体何者なのかしら? マジンフォン持ってるのを見るに、パラディオンなのだろうけど」
「フッ、私は夏目ミサキという者だ。面倒くさいから端折るが、リオ様のご友人のフィル様のさらに友人の子孫にして異邦人とのハーフだ。よろしく頼むよ」
「なんだその友達のいとこの妹の甥みてぇなめんどくせぇ関係性は……。まあいいや、アンタがユウを助け出してくれたんだろ? 礼を言うぜ」
「いや、私が基地に乗り込んだ瞬間に彼が窓をブチ割って脱出してきてね。あいにく、我が愛剣を振るう機会はなかった。いやぁ、残念なものだね」
ついでにミサキとの顔合わせも済ませ、そこからはもうユウの自力帰還を祝うお祭り騒ぎの始まりだ。それまでの緊張感は、完全にどこかに飛んでいってしまっていた。
「やあ、ユウくん。話は聞いたよ、アストラルAを倒したんだって?」
『あ、義人さん。はい、前回のリベンジをしてやりましたよ』
「それはよかった。でも残念だなぁ、あいつは俺が倒してやるつもりでいたんだが。ま、完全にくたばったのならそれでよしとしておこうかなぁ」
『あ、もしかして今の……駄洒落ですか?』
「フ、バレたか」
ガンドラズル一のホテルのホールを貸し切りにし、作戦に参加予定だったパラディオンたちを交えパーティーが行われる。
その間、街には厳重な警備が敷かれ万が一のリンカーナイツ再襲来に備える。二度も中枢部を叩かれたとあっては、リオに会わせる顔が無いのだ。
会場にてユウと義人と雑談をする一方、シャーロットたちは新顔のミサキと親交を深めていた。
「……というわけで、私はかの伝説の王の力を使えるというわけだ。どうだい、凄いだろう?」
「おおー、ミサミサは凄いデスマス。期待のニューカマーってやつデスよ」
「ブリギットが変なあだ名付けてら……。でもまあ、ミサキが凄え奴ってのは伝わったぜ。なあシャーロット」
「ええ、そうね。それにしても、異邦人と大地の民のハーフねぇ……。初めて見たわ、私」
ミサキの語る中二病感たっぷりなアーサー王の生まれ変わり話に感心するシャーロットたち。褒められたミサキは、ドヤ顔をしていた。
「フフフ、照れ……おや?」
「ン? なんだ、マジンフォンにメッセージが……って、マジンファクトリーの総責任者からだぁ!? 一体何だってんだ?」
さらに話を続けようとしたその時、会場にいたパラディオンたちのマジンフォンが一斉にメッセージ受信を知らせる音を鳴らす。
メッセージの差出人は、マジンフォンの製造とバージョンアップを担当する組織。マジンファクトリーの総帥にして、リオの嫡男……ソロンからのものだ。
「えーと、なになに。『親愛なるパラディオンの皆様、如何お過ごしでしょうか。本日はマジンファクトリー総帥のソロンより、アップデートのお知らせがあります』……ですって」
「ほー、そりゃいいや! で、えーと……『ここ最近確認された新たな脅威、アストラルへ対抗するためのアプリ【モータルエンド】が完成したため、皆様のマジンフォンをバージョン17.06にバージョンアップし配布致します』……かぁ」
方法は不明だが、ファクトリーは先行実装しユウとアストラルAの戦いを見て配信に当たって問題は無いと判断したらしい。全てのパラディオンの戦力増強のため、アプリ配信に踏み切ったようだ。
「おー、これはありがたいデスマス。ワタシたちもあのヘンテコ共に対抗出来るようになるデスよ」
「ってもよぉ、もうユウが倒しちまったんだろ? 今更いるのかぁ? これ」
『あ、多分必要になると思います。アストラルがあの一体で終わるとは到底思えませんから』
「俺もそう思うね。まず間違いなく、最低数体はいるんじゃないかなぁ」
アプリ配信を知らせるメッセージを読み終えたチェルシーは、そんな疑問を抱く。そこにユウと義人が合流し、話に混ざる。
なんとなくではあるが、ユウはある種確信めいた予感があった。アストラルとの戦いはこれで終わりではない。むしろ、ここからが始まりなのだと。
『たった一体感しかいないなら、わざわざAなんて冠さないと思うんですよ。まず間違いなく、キリよくGくらいまではいるんじゃないでしょうか?』
「私もその意見に賛成だよ。ま、安心しておくれよユウくん。先祖代々受け継いできた剣技と、前世の経験があれば私が勝てぬ敵はいないからね」
「へえ……なるほどねぇ」
自信満々に胸を張るミサキを見ながら、義人はニヤニヤしていた。異邦人ゆえ、彼は知っているのだ。アーサー王が実在の人物ではないということを。
ミサキが単に中二病を拗らせているだけなのも当然見抜いており、しばらく泳がせてから盛大にネタバレしてイジッてやろうと目論んでいるのだ。
「ま、話はこれくらいにしてよ。立ち食いパーティーなんだ、そろそろ飯食おうぜ! 早くしないと肉全部食われちまうぞ!」
『わわわ、引っ張らないでくださいよチェルシーさーん!』
「やれやれ、相変わらず食い意地張ってるんだから」
食欲全開のチェルシーと、彼女に連れ出されるユウを見てクスクス笑うシャーロット。ヴィトラの放った追跡者が迫っていることを、ユウたちはまだ知らない。
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