第50話─ユウ、帰還する
アストラルAをも下し、ユウは保管室に戻り変身を解き、一緒に保管されていた服と防具を身に着ける。これでもう、忘れ物は一つもない。
ユージーンが到着する前に基地を脱出し、仲間たちの元に帰るだけだ。出入り口まで行くのが面倒だったので、ユウは適当な部屋に入り窓をブチ破る。
『よっと! こういう時に魔神の身体は便利ですね、ちょっとした怪我もすぐ治』
「おや……君が例のパラディオン、北条ユウくんだね? これは驚いた、こんなダイナミックに登場するとは」
『! 何者です、リンカーナイツ……ではなさそうですね。マジンフォン持ってますし』
華麗に着地してフォックスレイダーを呼び出し、いざ出発しようとした……その時。基地の出入り口が開き、一人の女が現れた。
女は艶やかな濡れ羽色の髪をポニーテールで纏め、赤い紋付き袴の上から西洋鎧の胸当てを着けているトンチキな格好をしている。
「フフフ、私は
『お、おお……? なんだか凄そうですね』
「ああ、そうとも。私は君の父君の友人、フィル様……の戦友だった剣豪、オボロの子孫でもあってね。先日夢枕に立ったご先祖様とフィル様の啓示により、君を守りに来たのさ。今回は出遅れたようだがね」
人の良さそうなタレ目をウィンクさせながら、女……ミサキはそう口にする。彼女の言葉を聞き、ユウは以前行った食事会のことを思い出す。
フィルとアンネローゼの友人の子孫が、武者修行を兼ねてパラディオンとして活動していると話していたことを。目の前の人物こそがその人だと、少年は確信する。
『そうだったんですか、じゃあこれからは一緒に戦う仲間ですね!』
「ああ、そうなるね。よろしくたの……うっ!」
『ど、どうしたんですか? 腕が痛いんですか?』
「フッ、気にすることはない。私の腕には以前討ち果たした邪悪なる存在、暗黒邪炎竜デストロイスターゲイザーの力たる白き炎が封じられていてね。たまにこうして疼くのさ」
『なるほど……美咲さんって凄く強いんですね!』
話の途中、突如包帯を巻いた右腕を抑え呻きはじめる。もしや怪我をしているのか、と心配するユウに対しミサキはそう答えた。
が、実のところ彼女の腕にそんなご大層なものは封印されていないし、そもそも暗黒邪炎竜も実在しない。それ以前にアーサー王の生まれ変わりですらない。
夏目ミサキ、十五歳。現在バリッバリの中二病真っ只中であった。剣豪の子孫たる父と日本出身の異邦人たる母の血が交わり、めでたく発症していたのだ。
「さ、ムダ話はここまでにしておこう。いつリンカーナイツの構成員やトップナイトが来るか分からないからね」
『そうですね、早いとこおさらばしちゃいましょう!』
二人はフォックスレイダーとマジンランナーを呼び出し、基地を後にする。ミサキに先導してもらい、南西にあるガンドラズルへと向かう。
その頃、ユウ奪還に向けて準備を進めていたシャーロットたちは手がかりとなる左手に変化が現れていることに気付いた。
「おいシャーロット、なんかユウの手から出てる光……強くなってね?」
「あら、ホントだわ。一体どうしたというのかしら? もしかして、ユウくんの身に何かあったんじゃ……あ、ごめん着信だわ……ってユウくんから!?」
奪還計画の総責任者としてユウの腕を預かっていたシャーロットたちは、腕から発せられる光が強くなってきていることに気付く。
チェルシーにそのことを指摘され、不思議そうにしているシャーロット。その直後、彼女のマジンフォンにユウから着信が。
「もしもし!? ユウくん、大丈夫なの!? 今どこにいるの!?」
『シャロさん、心配かけてごめんなさい。実はですね、今……』
フォックスレイダーを自動操縦モードに切り替え、ユウは拉致されてから現在までに起きたことを事細かにシャーロットに説明する。
遙か昔に死したる魔戒王、グランザームとの邂逅と彼への師事。修行によって目覚めた本来の魔神の力。アストラルAの完全撃破、そしてミサキとの出会い。
「……この数時間でいろいろあったみたいね。正直、内容が突拍子もなさすぎてまだ三割くらいしか理解出来ないわ」
『あはは、ですよねえ……。とりあえず、ミサキさんに案内してもらってガンドラズルに向かってます。入れ違いにならないように、先に連絡させてもらいました』
「ありがとう、ユウくん。無事でよかったわ、本当……みんな心配してたのよ。戻ってきたらお祝いしなくちゃね」
「おう、ユウ! まぁた凄えことやってんなぁオイ! 帰ったら土産話聞かせてくれよな!」
「デスデス、楽しみにしてるデスよ」
シャーロットがスピーカー機能をオンにする気遣いを見せたおかげで、ユウの話はバッチリ側にいるチェルシーたちにも聞こえていた。
想定外の形ではあったが、ユウが無事帰還することが分かり大喜びだ。早速このことをグランドマスターに報告するため、シャーロットは部屋を飛び出していった。
◇──────────────────◇
「お~やおやぁ? いつの間にかアストラルAの素体に使った脳が消滅しちゃってますねえ。ははあ、さてはパラディオンたちの仕業かなぁ? 全く、酷いことをしてくれますねぇ」
同時刻、ラボにあるアストラルシリーズの素体管理部屋のチェックをしていた宇野はある異変に気付いていた。培養カプセルの中にあるはずの、アストラルAの脳が消えていたのだ。
「ま、いいでしょ。こっちはあと二五体のアストラルがいるわけですしねぇ。というわけで、カモン! アストラルB!」
やれやれとかぶりを振った後、アストラルAの脳が保管されていたカプセルを台から叩き落としつつ宇野は叫ぶ。直後、保管室の奥の扉が開く。
そうして姿を現したのは、第二のアストラル。スカイブルーの特殊繊維製のスパッツの上から赤いパンツとブーツを履いた、下半身だけならプロレスラーのような見た目をしている。
だが、上半身は違う。毒々しい紫色とワインレッドをした屈強な斜め縞模様の胴体、ツギハギだらけの頬が痩けた不気味な顔。そして、左肩から生えたやっとこ状の手を持つサブアーム。
「お呼びで? ドクター・ウノ」
「アストラルAが再起不能にされてしまいましてねぇ。後任として君に起動してもらったんですよぉ、アストラルB。不甲斐ないAに代わり、パラディオンたちを抹殺してほしいんですよぉ。やれますね?」
「勿論。俺のサンダーロッドとミステリアスアームがあれば、誰が相手でも始末してやれる」
宇野の言葉にそう答え、アストラルBは背中に背負っていた巨大な警棒を引き抜く。身の丈ほどもあるソレの表面を、バチバチと紫電が駆け巡る。
同時に、左肩から生えたアームが動き開閉を繰り返す。相変わらず狂ったように笑いながら、宇野はアストラルBの右肩に手を置いた。
「いやはや、頼もしいですねぇ! ああ、そうそう。もし手こずるようでしたら連絡してくださいねぇ。すでにアストラルCとDがスタンバイ状態になってますからねえ!」
「覚えておく。ま、そいつらの助力がいるようなことにはそうそうならないだろうがな」
自信満々に告げた後、アストラルBはきびすを返して去って行った。一人残された宇野は、残るアストラルシリーズの完成を急ぐべくラボの奥へ向かう。
「さてさて、意外と早くアストラル対策をされましたがぁ! この私は世紀の大・天・才ですからねぇ! 対策の対策をしてやりますよぉ! アヒャヒャヒャヒャ!!」
そう口にし、うきうきしながら歩いて行った。
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