第48話─溢れ出るビーストパワー! 拳の魔神ユウ!

「フン、姿が変わったくらいでいい気になるなよ。俺のチートスキルを突破出来たパラディオンは未だ一人もいない、お前もここで沈め!」


『そうはいきません、いきなり負けちゃったんじゃボクを鍛えてくれたグランザームさんの顔に泥を塗ることになりますからね。必ず勝ちますよ! フォックススライド!』


 右手にメリケンサック、左手にコンバットナイフを装備したビリーは一旦後ろに跳んでユウから距離を取る。立て直しなどさせないと、ユウは両脚のブースターを点火した。


 くるぶしの上に取り付けられたブースターは、魔力を噴射して加速することが出来る。ただそれだけでなく、ユウの意思一つで噴射口の向きをフレキシブルに変化させることが可能だ。


 噴射中であっても自由自在にブースターの向きを変えられるため、その機動力は鳥系の獣の力を持つパラディオンや魔神をも凌駕する。それが、新たに得た力の一つ。


『行きますよ、こゃーん!』


「来い、俺はネイビー・シールズでも特に格闘戦が得意だったんだ。そう簡単にノックアウトされんぞ! ヌンッ!」


 相手が向かってくるならばと、迎撃態勢を取るビリー。お互いに右腕を振りかぶり、敵を打ち負かさんと拳を叩き込む。


 自分が勝つと絶対の自信を持っていたビリーだったが、次の瞬間自分が宙を舞っていることに気付く。そこから数十秒遅れて、自分がユウに殴り飛ばされたことを理解した。


「がはっ! なんだと……? 俺が、こんなチビにパワー負けした、のか……?」


『わ、やっぱりまだコントロールが完璧じゃなかったみたいですね……。それにしても、今殴った時の感触……明らかに何かおかしい感じが……』


 渾身のストレートを食らったビリーは、勢い余って壁にぶつかりめりこんでしまう。一方、ユウの方は自分の拳を見ながら怪訝な表情をしていた。


 生身のビリーを殴ったはずなのに、硬い金属を殴ったような手触りだったのだ。相手がすでにチート能力を発動しているかもしれないと、警戒を強めるユウ。


「ぐっ……なるほど、一筋縄じゃあいかないか。右腕はやられちまったが、まだ左腕がある。勝負はここからだ!」


『何度でも吹っ飛ばしてやりますよ! 食らいなさい、ブーステッド・ソバット! こゃーん!』


 へし折れた右腕を力無くぶら下げたビリーは、左手に持ったコンバットナイフで反撃を試みる。突進してきた相手に、ユウはブースターでパワーアップしたローリングソバットを放つ。


 今度はガードが間に合い、吹っ飛ばされることは回避したビリー。そんな彼に、ユウは空中に浮いたまま蹴りの連打を浴びせる。


『まだまだ終わりませんよ! ていっ、やっ、こゃーん!』


「むっ、ぬっ、フンッ!」


 対するビリーは巧みにナイフを操り、無傷とはいかないまでも攻撃を捌いていく。その最中、ユウはふとあることに気付いた。


(……? なんだろう、相手の身体が変色してる? もしかして、変な感触の原因はこれですかね?)


 攻撃を受けたビリーの身体が、少しずつ鋼色になっているのだ。へし折れた右腕は肩から指先まで全て、その他の部位も少しずつ変色してきている。


 これこそが相手の持つチート能力なのではないか、と疑念を抱くユウ。蹴りを放つ……と見せかけて裏拳を叩き込み、ビリーを吹き飛ばす。


『ていやっ!』


「うごあっ!」


(さあ、吹っ飛ばしてやりました。ここから相手がどう動くか、観察させてもらいましょうか)


 腕が折られてガードが行えないビリーの右半身に巨大アームの一撃をブチ込んだ後、慎重に様子を見るユウ。魔神の再生能力があるとはいえ、油断は出来ない。


 少しして、壁にめり込んでいたビリーが動き出す。全身が鋼鉄のようなメタルグレーに染まったビリーは、やれやれと言わんばかりにため息をつく。


「やってくれたな、全身ズタボロで痛いのなんの。だが、それもすぐ終わる。チートスキル【完全変態鋼鉄甲虫フルメタルリバース】発動!」


『!? か、身体がヒビ割れて……再生、ですか? これは……!』


 ビリーはかろうじて動く左手を使い、己の胸を殴る。直後、全身に亀裂が走り身体が砕け散った。そうして、中から傷が完治したビリーが姿を現す。


 まるで、サナギから昆虫が羽化するかのように完全復活を遂げた相手を見て、ユウはチート能力の正体を悟る。ユージーンに酷似した、再生系の能力だと。


『なるほど、そうやってダメージを帳消しにする能力なわけですね』


「その通り、だがただ傷を治すだけじゃないぞ。鋼鉄のサナギを破る度、俺の肉体は強く強靱になっていく。もうお前の攻撃で傷は付かんぞ!」


『それが本当なのか、試してあげます! 修行で培ったパワーは、まだまだこんなものじゃないってことを教えてあげます! フォックススライド!』


「ムダだ、同じ攻撃は効かん! リベンジドナックル!」


 復活したビリー目掛けて、再び加速パンチを放つユウ。が、今度は相手の宣言した通り逆にユウが吹き飛ばされてしまう。


 それでも壁にぶつかる前にブースターを噴射し、減速して華麗に着地する。逆転されて焦る……かと思いきや、ユウは微笑みを浮かべていた。


「なんだ、余裕だな。まさか、まだ俺に勝てるつもりでいるのか?」


『ええ、もちろんです。あなたのチート能力は把握しました、要は再生限界を超える一撃を叩き込んで戦闘不能にしちゃえばいいだけですから楽なもんですよ。あ、安心してくださいね。今はマジンフォンが無いので殺しはしないですから』


「フン、余裕だな。言っておくが、俺はお前に攻撃される必要なんてないんだ。こうすれば、自力でチートスキルを使えるんだからな!」


 ユウの言葉を嘲った後、ビリーは驚きの行動に出る。手榴弾を呼び出し、即座にピンを抜いて自爆してしまったのだ。


 当然、そうなれば全身が鋼のサナギに覆われることになる。そうしてまたサナギを破って再生し、さらに強く強靱な肉体を得る。


「フフハハハ! どうだ、こうやって自爆と再生のループをすれば! お前を倒すのは簡単というわけだ!」


『なるほど、考えましたね。思わずフリーズしちゃいましたよ、とんでもないことするなあって』


「フン、強がりを。さあ、今度はこっちの番だ! お前を壁に叩き込んでやるぞ!」


 二度のパワーアップを経て、ビリーが攻勢に出る。メリケンサックとコンバットナイフの連撃で、ユウに逆襲せんと畳み掛ける。


 これまでとは逆に、守勢に回ったユウは冷静に相手の攻撃を防ぎ威力を分析する。数分かけて解析したユウは、まだビリーの攻撃を耐えられると判断した。


(あと二、三回分はパワーアップされても耐えられますね。ただ、それ以上は流石に魔神の頑強さでも厳しい……となると、やはり一撃で仕留めるほかありませんか)


 右腕の【ガーディアンアーム】で攻撃を受け止めつつ、体内で魔力を練るユウ。相手を一撃で再生すら出来ぬレベルの戦闘不能状態にし、かつ命は奪わない。


 極めて繊細なパワー調整を行わなければ、せっかく倒したのに転生されて振り出し……という事態になってしまう。そうならぬよう、極限まで魔力を高める。


「どうした、まだ攻めないのか! 拍子抜けだな、このまま押し切って」


『そんなに攻撃してほしいなら、遠慮なくやっちゃいますよ! 魔力チャージは完了しました、一撃でぶっ倒します!』


 ビリーの回し蹴りをしゃがんで避けた後、ユウはブースターを吹かし素早く後退する。着地した後、右手を握り締め前方へ跳ぶ。


「面白い、真正面から来るか! なら叩き潰すまでだ!」


『ボクは負けません、新しい必殺技を食らいなさい! 奥義、イノセンスインパクト!』


 ユウとビリー、二人の拳が三度交差する。互いの攻撃が直撃し……吹き飛んだのは、ビリーの方だった。必殺の一撃により、完全に沈黙することに。


「ば、バカな……がはっ!」


『ボクの勝ちです。凄いでしょう? 修行の成果は』


 めり込んだ壁から床に落ち、気を失うビリー。相手を見下ろしながら、ユウは誇らしげにそう口にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る