第43話─ユージーンの逆襲

 観客席でパラディオンたちとリンカーナイツの構成員たちの大乱戦が行われるなか、銃の魔神となったユウはユージーンに挑む。


 前回の戦いでは、あわや敗北というところを助太刀したブリギットに助けられた。だが彼女は今、ユウを助けに来れない。


 自分一人の力でよみがえったトップナイトを討たんと、ユウはアドバンスドマガジンを腰のホルダーから取り出す。


『今度こそお前を倒します、ユージーン! チェンジ!』


【トリックモード】


『ファントムシャワー! からの……オールボディシュート! こゃーん!』


「一斉射撃か、面白い。だが、ミーを倒すには威力不足だな!」


 左腕と一体化した銃にトリックマガジンを吸い込ませ、力を使うユウ。五人の分身を呼び出し、一斉射撃を行う。


 が、大盾を構えたユージーンにはまるで通じていない。一歩ずつゆっくりと歩を進め、ユウの元へと進んでいくユージーン。


 その姿は、まさに生きる要塞と呼ぶに相応しいものだった。ある程度接近したところで、ついに逆襲の一撃が放たれる。


「食らえいっ! アクスインパクト!」


『わひゃっ!? ぶ、分身が一撃で全滅ですか!?』


「次は本体だ、命は取らんが逃亡阻止のために手脚は何本かいただくぞ。覚悟しろ!」


 ユージーンは斧を舞台に叩き付け、その勢いで衝撃波を発生させる。ユウ本体はかろうじて回避が間に合ったが、分身たちは間に合わず一網打尽にされてしまう。


 今度は自分の番だと、大斧を振るいユウを攻め立てるユージーン。だが、膂力と耐久力では上回っていても機動力では劣っていた。


 攻防が繰り返されるなかでその事に気付いたユウは、ヒットアンドアウェイ戦法に切り替え反撃に出る。恐るべき一撃も、当たらなければ怖くないのだ。


『ていっ! やあっ! このまま斬っていけば、いずれ倒せるかも……!』


「むうっ、やるなボーイ。だが、ミーはまだ本気を出していないぞ!」


 軽快なステップやアクロバティックな動きを駆使し、左腕のバヨネットでユージーンを斬り付けるユウ。だが、魔力の膜で全身をコーティングした相手になかなか有効打を与えられない。


 そうして激闘を繰り広げるうち、観客席サイドでは戦況が変わりつつあった。リンカーナイツの構成員が駆逐されていくなか、アストラルAが牙を剥き始めたのだ。


「この、なんだこい……ぐあっ!」


「真っ二つにしてからソウルデリートしてやったのに、なんで消滅し……うおっ!」


「……ぬるい。パラディオンの実力……この程度か。脅威にはならない」


 ジャベリンを振るい、投てきし、パラディオンたちを撃破していくアストラルA。少しずつ舞台に近付き、ユージーンとの合流を目論む。


「ここまでくれば十分。一気に跳躍し……飛び込むのみ! ハッ!」


「どこに行くのかなぁ? お前が行くのは地獄だけだ! フンッ!」


「む……ぬうっ!」


 足止めしようとするパラディオンたちを蹴散らし、ある程度距離を詰めたアストラルAは勢いよくジャンプする。そのまま舞台に飛び乗ろうとするが、そうはいかなかった。


 表彰式に出席し、なおかつ天井の崩落に巻き込まれずに済んだ義人が妨害したのだ。ウィップブレードを脚に巻き付け、アストラルAを墜落させる。


「……何者だ。私の邪魔をするのは……許さない」


「俺は日下部義人。お前はそれだけ知っていればいい。ここでスクラップにされるんだからなぁ!」


「……退かぬか。ならば……お前も排除する」


「へえ、強気だなぁ。俺をそう簡単に倒せると思わないことだなぁ、ええ!?」


 アストラルAを足止めするべく、挑みかかる義人。舞台の上と外、それぞれで激しい戦いが始まる。……だが、それも長くは続かない。


『かはっ! つ、強い……。以前にも増して、力が上がってる……』


「そうだ、ミーは常に鍛えている。同じ手に二度敗れぬように。ヒサネは自分のチートスキルに溺れていたが、ミーは違うぞ」


『ええ、戦い方を見れば分かります。どうせ生き返れるからと、慢心なんて全くしていません。嫌というほど分かりますが……だからって負けるわけにはいきません!』


【レボリューションブラッド】


 圧倒的な力の差は埋められず、ユウは劣勢に立たされていた。各種アドバンスドマガジンは効かず、体術を駆使しても歯が立たない。


 残るは己の奥義のみ、というところまで追い詰められたユウ。起死回生の望みを賭け、神の血を覚醒させ必殺の一撃を放つ。


『これで逆転してみせます! デッドエンドストラッシュ!』


「来い、返り討ちにしてやろう! バニッシュメント・ブレイク!」


 ユージーンは斧の刃に魔力を宿らせ、渾身の力を込め真横からフルスイングする。斜め下からの袈裟斬りを放つユウと、奥義がぶつかり合う。


『やああああああ!!』


「ぬうううううん!!」


 二人はお互いに負けるまいと全力で相手を押し込んでいく。最初こそ互角の勢いだったが、すぐに優劣が決まることに。


 単純な膂力の差によって、ユウが敗れた。斧の一撃によってバヨネットが砕け散り、そのまま銃のバレルが斜めに両断される。


「ぬうううおおおりゃああああ!!」


『うああああ! ぐ……ボクの、完敗です……。今のままじゃ……勝て、な……』


 ホールの壁に叩き付けられ、ユウは魔神化が解けてしまう。床に崩れ落ちた少年の左腕は、傷口が塞がっているものの再生する気配がない。


 ユージーンの奥義で尋常ではないダメージを身体の内外に受け、腕の再生を行う余力が残っていないようだ。ユージーンは気を失ったユウに近付き、抱え上げる。


「おい、見ろ! あの大男、英雄を連れ去るつもりだぞ!」


「そうはさせるか、すぐに助けに……」


「そうはさせるか! 俺たちを倒してからにしやがれ!」


「くそっ、邪魔するなリンカーナイツのカスどもめ!」


 部隊の近くにいたパラディオンたちがユウの敗北に気気付き、助けに行こうとする。だが、生き残っていたリンカーナイツの構成員たちが足止めにかかる。


 頭一つ抜けた実力者である義人はまだアストラルAと交戦しており、このままではユウが攫われてしまう。誰もがそう思っていた。


「さて、後はボーイを回収すればミッションコンプリートだ」


「そうはさせないわ! 食らいなさい、ディザスター・アロー!」


「おかわりも食らえ! ビーストクラッシュ!」


「むっ!」


 だが、ユージーンの手が伸びた次の瞬間。壁をブチ破り、闇の矢とハンマーを振りかぶったチェルシーが現れ敵対者を吹き飛ばす。


 裏の通路に待機していたシャーロットたちが、ギルドの幹部たちを隠し通路から逃がすため奮闘した後戻ってきたのだ。


「来たか、ボーイのフレンズよ。だがもう決着はついた。ミッションはもうすぐ完遂される、その邪魔はさせんぞ」


「ハッ、そうはいかねえんだよ。今だ、やれブリギット!」


「デスマス! こいつを食らうデスよデカブツ! またぶっ殺してやるデス!」


【ポジトロンスロー】


 チェルシーの合図を受け、を潜行してユージーンの背後に回り込んでいたブリギットが飛び出した。そして、以前の戦いで勝利の機転となったマジンフォンの新機能を使う。


 瑠璃色のラウンドシールドを投げ、再びユージーンを拘束してトドメを刺せば勝利。そう思っていたが、彼女らは思い知ることになる。


 トップナイトの中でも有数の実力者、ユージーンに同じ手は二度と通用しないということを。


「残念だったな、ミーはすでにその不意打ちをやられている。同じ手口には二度かからない、戦いでも詐欺でもな! フンッ!」


「!? 盾で相殺した……!? まずい、行くわよチェルシー!」


「ああ、ユウをまも」


「悪いがもうゲームセットだ! アクスインパクト・スチームコール!」


 大盾を犠牲にし、ポジトロンスローを相殺してみせたユージーン。素早く斧を叩き付けて、刃に纏わせていた魔力を全て蒸気に変換し目眩ましにする。


「しまった……ユウくん!」


「だいじょぶデス、シャーロット! うぐっ……テヤッ!」


 シャーロットたちが怯んでいる隙に、ユウを抱え上げそのまま転移魔法を発動する。だが、姿が消える直前。ブリギットは自身の爪を剥がし相手に向かって投げた。


 爪はユージーンの服に張り付き、溶けて一体化する。それに気付くことなく、トップナイトはユウを攫うことに成功した。


「……時間か。お前との決着はいずれつける。今回は……お前に勝ちを譲ってやろう」


「舐めた口を……! いいさ、次に会った時は必ずこの手で仕留めてやる。忘れるな、お前は俺の獲物だ!」


 一方、ユージーンの撤退に気付いたアストラルAも生き延びた構成員たちと共にホールから逃げる。互角の戦いを繰り広げた義人にそう言い残し、ガルドクアッドを呼び寄せ天井の大穴から去って行った。


「ユウくん……また、守れなかった……!」


 まんまとしてやられ、シャーロットは悔しそうに拳を握り締める。表彰式の戦いは、ユージーンの勝利で幕を降ろすこととなった。

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