第42話─不穏なる表彰式

「なるほど、アストラルA……。新たなる脅威の出現ですか。分かりました、各地のパラディオンギルドにも通達しておきましょう」


「助かるぜ、ギルドマスター。アタシの記憶から抽出した映像、役立ててくれよな!」


「ええ、そうします。……しかし、こうなると表彰式の警備体制をさらに厳重にしなければなりませんね。いつどこに現れるか分かりませんから」


 ユウたちがリオに報告している頃、シャーロットとチェルシーもティアトルルにあるパラディオンギルド支部でアストラルAについて報告していた。


 対応をしたエルフの女ギルドマスターは、チェルシーの記憶から取り出された戦闘の映像を見ながら真剣な表情を浮かべる。


 何しろ、相手はこれまでの常識と戦法がまるで通じないのだ。現在打てる手を全て打っても、対抗出来るかすら分からない。


「あと二週間ちょいだもんなぁ、表彰式。お偉いさんが集まるわけだし、そりゃ警備も……あいて!」


「あのねえ、ギルドマスター相手なんだからタメ口はダメでしょうチェルシー。ごめんなさいギルドマスター、うちのチェルシーが……」


「アタシゃ犬猫か! ったく、いいだろ別に。怒られねえ限りはよー」


「まあ、それはともかく。重要な情報の提供ありがとうございました。高ランクですから、お二方にも表彰式での警備任務に就いてもらうかもしれません。その時は頼みましたよ」


 ギルドマスターとの面会を終え、シャーロットたちはギルドを後にする。少しして、ギルドから一人の女が出てきた。


「……ふふ、バカな連中。スパイが入り込んでるのも知らないで。早速ユージーン様に連絡しましょ。表彰式を滅茶苦茶にしてやるわ」


 そう呟き、リンカーナイツのスパイは路地裏へと消えた。しばらく時間が経ち、夕方。ユウとブリギットが帰還した。


『遅くなっちゃいましたね、ブリギットさん。シャロさんたちは報告を終えたでしょうか?』


「多分もう終わってるデスよ、宿に戻って確認するデス」


『そうですね、一応連絡してから宿に帰りましょう』


 行き違いが起きないよう、マジンフォンを使いお互いの居場所を伝え合うユウたち。宿の近くの居酒屋で夕飯を食べているとのことで、そちらに向かう。


「お帰り、ユウくんにブリギット。そっちはどうだった?」


『パパに相談したら、策を練ってくれることになりました。ただ、忙しいのですぐにとはいかないとも言ってましたよ』


「なんでも、アゼル陛下から理術研究院を抑え込むように依頼されてるらしいデス。リオ様も多忙デスねー」


「理術研究院? ああ……言わなくても分かるわ、東の奴らね。前に実家に戻った時、お父様がかなり愚痴をこぼしていたわ」


 少々話が脱線しつつ、アストラル対策や表彰式のことについて話し合う四人。しばらくして、夜が更けた頃宿に帰る。


 何事も起こりませんように、と祈りながら眠りにつくユウ。それから数週間後……ついに表彰式当日がやって来た。


 ユウたちは表彰式の一週間前にティアトルルを経ち、フェダーン帝国の東へ移動していた。国境を接する永世中立都市、ガンドラズル。


 この街こそがパラディオンギルドの総本山であり、表彰式の舞台となる大ホールがあるのだ。当日の朝から、参加者たちが大集合していた。


『わひゃあ、たくさん人が来てますよ。大勢の前に立つのは緊張しますね……』


「大丈夫、リラックスしていきましょ。トロフィーと表彰状を受け取るだけよ、そう緊張することはないわ」


「そうそう、もし緊張してダメだってんならいいおまじないがあるぜ。前に義人から聞いたんだけどよ、こんな時は手のひらに人って書いてそれを呑み込む仕草をするといいらしいぜ」


『なるほど、やってみます。あーん、ぺろん!』


「あ、可愛い……ノーミソがオーバーヒートするデスマス」


 各ギルド支部を束ねるギルドマスターや、本部務めの最高幹部たちが会場入りするなかユウたちもホールの舞台裏にいた。


 本番まで残り十分、ユウはリハーサルの内容を思い出しつつ待機場所へ向かう。シャーロットたちは警備要員として声がかかっているため、ユウと別れる。


「さて、皆様お待たせいたしました。本日、トップナイトを二人も撃破した新進気鋭の小さな英雄……北条ユウ様の功績を讃える表彰式にお集まりいただき、ありがとうございます。これより、表彰式を開始します!」


『は、始まりますね。よーし、やりますよ!』


 十分後、ついに表彰式が幕を開けた。万雷の拍手に出迎えられ、ユウは司会の言葉に従って舞台へ姿を見せる。


 プログラムは順調に進み、トロフィーと表彰状の授与が終わった。この後、パラディオンギルド本部を束ねるグランドマスターの挨拶で有終の美を飾る……はずだった。


「さて、本日はお忙しいなかお越しくださりありがとうございました。これにて表彰式を」


「ストップ、まだサプライズが残っている。我らリンカーナイツからの特大のプレゼント、受け取るがいい!」


『!? こ、この声は!?』


 グランドマスターである初老の男が挨拶を始めた、その瞬間。突如ホールの外からユージーンの声が響き、間髪入れず爆音と振動が襲う。


 観客席側の天井が崩落し、ガルドクアッドを駆る無数のリンカーナイツの構成員たち……そして、ユージーンが姿を見せた。


『ユージーン!? お前はあの時ブリギットさんに倒されたはずじゃ!?』


「そうとも、確かにミーは敗れた。だがよみがえったのだ、ミーの持つチートスキル【不死鳥の生命保険フェニックスリロード】によって! 部下たちよ、パラディオンギルドの幹部たちを最優先に狙え! 全員仕留めよ!」


「ハッ!」


 撃破されたはずのトップナイトの襲撃と、天井の崩落による多数の死傷者の発生でパラディオンたちは対応が遅れてしまった。


 空より襲来するリンカーナイツのメンバーの魔の手が、壇上の幹部たちに伸びる。


「手柄一番乗りだ! 死……あぎゃっ!」


『そうはさせません! みんな、逃げてください! ボクがあいつらを抑えます!』


「済まない、ここは任せた! 警備のパラディオンたちよ、余裕のある者は勇気ある少年のサポートに回れ! 我々の代わりなどいくらでもいる、英雄を助けるのだ!」


 グランドマスターはそう叫んだ後、舞台袖に控えていた専属の護衛や他の幹部と共に緊急避難用の通路へと走って行く。


 彼らが逃げ延びるための時間を稼ぐため、ユウはファルダードアサルトを抜きリンカーナイツの構成員たちを撃ち抜いていく。


『これ以上勝手な真似はさせません! 全員落っこちなさい!』


「このガキ……うぎゃっ!」


「やられ……ぐあっ!」


『よし、今のうちにボクのチート能力でみんなを』


「そうはいかないな、ボーイ。あの時のリベンジをさせてもらおう! フンッ!」


『あぐっ!』


 ある程度数を減らしたところで、庇護者への恩寵を発動しようとするユウ。だが、そうはさせじとユージーンが突っ込んできた。


 ガルドクアッドを蹴り出し、ユウに直撃させてダウンさせる。華麗に降り立ち、身の丈を超える巨斧と円盾を呼び出す。


『う、ぐ……。やっぱり、嫌な予感が当たっちゃいましたか。何か起きるんじゃないかとは思ってましたが……』


「想像以上だったかな? ま、無理もない。ボーイからすれば、ミーはすでに消滅したと思っていたのだから」


『ええ、驚き過ぎて何て言ったらいいのか分かりません』


「そうか、プレゼントは喜んでもらえたようだ。……そうそう、残念ながらアストラルAはまだここに到達出来ない。後方でユーのフレンズを足止めしているのでな」


『用意周到ですね、本当に……嫌んなっちゃいますよ!』


「むっ!」


 話を引き延ばし、怪我を負った肉体を再生する時間を稼いだユウはお返しとばかりに一輪バイクを相手に蹴り返す。


 ユージーンが盾による防御動作を取っている隙を突き、マジンフォンを操作して銃の魔神へと覚醒を遂げ反撃に移る。


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


『ビーストソウル・リリース! 不死鳥パワーで復活したのなら、また息の根を止めるまでです! 復活出来なくなるまで何度でも!』


「そうだ、そう来なくては面白くない。来たまえ、ボーイ。ミーを楽しませてくれることを期待しよう!」


 観客席の方から聞こえてくる怒号や悲鳴、勇ましい雄叫びをバックにユウは左腕のバヨネットをユージーンに向ける。


 阿鼻叫喚の地獄絵図と化した表彰式の会場で、ユウとユージーンの二度目の激闘のゴングが高らかに鳴り響いた。

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