第41話─知恵を求めて

 ブリギットが所有している、特別な転移石テレポストーンを使いキュリア=サンクタラムに戻るユウたち。着いた先はリヴドラス……ではなく。


 リヴドラスから三十キロほど北に離れた空域に浮かぶ天空都市、リードフェイに何故か転移することに。首を傾げるユウに、ブリギットが答えを言う。


『あの、ここはリヴドラスじゃ……』


「せっかくデスから、リヴドラスまでドライブするデスよゆーゆー。どんな時も心に余裕を持つ! それがワタシのモットーなのデスマス」


『ど、ドライブですか?』


「もちろんデスマス! テラ=アゾスタルと暗域の知識を合わせて造った、ゴッツいのがこの街に置いてあるデスよ!」


 せっかく故郷に戻ったのだから、たまにはドライブしようという腹積もりらしい。ユウを連れ、ブリギットは愛車を格納している車庫区画へ向かう。


 曰く、仕事用のマジンランナーとは別にオフの日用のバギーを持っているらしい。果たしてどんなものか、ユウはドキドキだ。


 立体格納庫に入り、警備員に何やら話しかけるブリギット。愛車の鍵を預けてあるようで、警備員と共に建物の五階へと進む。


「いつでもアクセル全開で出発出来るよう、手入れをしてあります。久しぶりのドライブを堪能してください」


「オー、いつもサンキューデス。さあ乗るがいいデスよゆーゆー! オンザマイカー! デスマス!」


『こ、これは……随分と個性的ですね。かなり目立ちますよこれ、いろんな意味で』


 ブリギットの愛車は、奇想天外な見た目をしていた。カーキ色の車体に、所狭しとピエロの顔やシルクハット、ジャグリングのピン等のステッカーが貼られている。


 それだけならまだマシで、車体の正面にわりと大きめな道化師の顔面の飾りが付けられていた。目の部分がライトになっているらしい。


 あまりにも悪目立ちする外見に苦笑しながら、ユウは助手席に座る。バギーは四人乗り用になっており、屋根は無い。


「このまま天国への道ヘブンハイロードへ転送しますね。くれぐれも交通事故には注意してくださいよ? ブリギットさん」


「分かってマス、次に違反切符切られたらおシショー様に半殺しにされてしまいマス。そいじゃー行ってきマスデス!」


 警備員の転移魔法で、リードフェイとリヴドラスを繋ぐ高速道路へ送ってもらったユウたち。キーを差し込み、魔力メーターが満タンなのを確認したブリギットは愛車クラウンローダーを発進させた。


「目指すはリヴドラス! レッツゴーデスマース!」


『わひゃー!? い、いきなり飛ばしすぎですってばブリギットさーん!』


 先ほどの言葉などコロッと忘れ、ブリギットはアクセル全開で道路をカッ飛ぶ。四つあるレーンを、すいすい移動しつつ先へ進む。


 キュリア=サンクタラムでは、リオが重用している異邦人の知識により自動車が開発され、空前の車ブームが巻き起こっていた。ブリギットもまた、それに乗った一人だ。


『わー、いい景色……雲海が見えますよ、綺麗です!』


「そうデショ? たまにはこうやって、景色を楽しむのも大事デス!」


 各都市を結ぶ天空道路を初めて利用したユウは、雄大な景色に感動する。れんな彼の頭を撫でつつ、ブリギットは愛車を駆る。


 一時間もしないうちに天空のドライブは終わりを告げ、リヴドラスに入った。格納庫に車を停車させた後、リオたちの元に向かう。


「はあ、今日も平和で飯が美味……おや、ユウ坊ちゃま! それにブリギット殿も。珍しいですね、事前の連絡もなくお帰りとは」


『こんにちは、衛兵さん。実は、パパに報告しないといけないことがありまして……今、お城にいます?』


「ええ、ご在宅ですよ。ただ、今の時間はアーシア様と打ち合わせをしていまして。もうすぐ終わる頃だと思うので、城内で待つのがよろしいかと」


『え、アーシアさん来てるんですか。珍しいですね、何の用でしょう?』


 グランゼレイド城に到着し、衛兵にリオがいるか尋ねるユウ。いることはいるが、どうやら先客と打ち合わせをしているらしい。


 とりあえず城に入り、打ち合わせが終わるまでくつろぐことにしたユウとブリギット。城に入り、エントランスを抜け奥へ進むと……。


「やや!? ユウ、お帰り! どうしたの? 珍しいねえ、連絡も無しに。あ、さては寂しくてパパに会いたくなっちゃったとか!?」


『パパ! さっき衛兵さんに話し合いしてるって聞いたんですけど、もう終わったんですか?』


「うん、ついさっきね。ぶーちゃんも久しぶりだね、元気してた?」


「ハイ! おシショー様の言い付け通り、ゆーゆーをサポートしてマス!」


「うんうん、ありがとねえ。さ、立ち話もなんだしおいでおいで。おやつ食べながら話聞くよ!」


 廊下を歩いてきたリオとぱったり会い、そのまま応接室に行くことに。部屋に入ると、紫色の肌を持つ闇の眷属の女がいた。


「む、貴殿は……ユウか。久しいな、余のことは覚えているか?」


『こんにちは、アーシアさん。衛兵さんからパパに会いに来てるって聞きましたよ』


「そうか、ついさっき話し合いが終わってな。貴殿の父君にあるお願いをしたところだ」


「オー、気になるデスね。何をお願いしましたデス?」


「なに、近々暗域にある東の理術研究院へ潜入することになってね。北と南の理術研究院が干渉しないよう、抑えてもらおうと我が夫に代わりお願いしに来たのさ」


 凛々しい顔付きをした女……アーシアはそう口にする。彼女はリオの友人である、アゼルという少年の妻の一人にして闇の眷属の貴族……【大魔公】の一角。


 現在はギール=セレンドラクという大地に住んでおり、夫と共にとある組織の運営を行っている。そんな彼女がやってきた理由を、ブリギットが問う。


 すると、そんな答えが返ってきた。


『パパ、理術研究院ってなんですか?』


「んー、簡単に言うと暗域の東西南北に一つずつある研究施設のことだよ。そのうちの一つ、東の理術研究院がちょっとやらかしてね」


「我が夫の友人……キルトという少年がいるのだがな。その両親の霊を使役し、キルトを苦しめているのだ。その非道を止めるための作戦を、アゼルが練っているのだよ」


『酷いことを……許せませんね、そんなことする人は』


「ああ、アゼルもカンカンに怒っていてな。直接乗り込んで壊滅させてやると言って聞かぬのをなんとか宥めたところだ。そんなことをすれば全面戦争になるからな」


 どうやら、アーシアたちも大変な事態に直面しているらしい。やれやれとかぶりを振る彼女に同情しつつ、ユウとブリギットはソファーに座る。


「そうだ、貴殿らが帰ってきたということはリオ殿に何か用があるのだろう? 余のことは気にせず、用事を果たすといい」


『あ、そうでした。パパ、実は……』


 ここでようやく、ユウは自分たちが帰ってきた理由をリオに伝える。新たなる脅威、アストラルAの存在を聞かされたリオは真剣な面持ちになる。


 マジンフォンの魂消滅機能が通じない、不死身の敵。今後パラディオンたちがリンカーナイツと戦う上で、脅威となる存在へどう対抗策を打ち出すか早くも考えはじめていた。


「……アストラルA、ね。リンカーナイツの奴らも、面倒なのを造ってきたもんだねぇ。よし、ふーちゃんや創世六神と相談して対抗策を考えるよ。二、三週間くらいあればアイデアが纏まると思う」


『分かりました。いつも力を貸してくれてありがとう、パパ』


「いいんだよ、大切な家族の危機を助けるのはパパの役目だからね!」


 お礼の言葉を口にするユウの隣に座り、リオは微笑む。アストラルへの対抗策は、果たしてどのようなものになるのか……それはまだ誰にも分からない。

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