第40話─アストラルへの対抗策
憲弘を倒してから数十分後、フォックスレイダーとマジンランナーに乗ったユウとチェルシーが北の草原に到着した。
シャーロットたちとお互いの無事を喜んだ後で、それぞれ何があったのかを報告する。話の中心は、新たな脅威に集中する。
「アストラルA……。とんでもない脅威ね、これまでのやり方が通用しないのは困るわ」
『ソウルデリートが通じないんじゃ、対処する方法が限られてきますからね。現状、機械の身体を跡形もなく粉砕すれば問題無しなのかも分かりませんから』
「キカイ、デスか。そいじゃー、餅は餅屋ってコトでおシショー様に聞いてみるのがイイと思うデス」
『はい、ボクもそう思ってました。パパやママたちにも報告して、何か知恵を出してもらおうかと』
突如現れた新たなる脅威……生身の肉体も魂も持たない、アストラル。一刻も早く対抗策を編み出さなければ、次は無い。
そんな予感を抱いたユウは、ブリギット共々再び故郷へ戻ることを決意した。一方、チェルシーは別の理由で落胆していた。
「あーあ、シャーロットたちが相手した奴も知らなかったのかぁ。ここまで収穫がねえと流石にヘコむなぁ」
「ごめんね、チェルシー。役に立てなくて」
「いんだよ、おめぇが謝るこたぁねえ。次のトップナイトから聞き出しゃいいんだ、腐ってても解決しねえしよ。切り替えてこうぜ」
「チェルシーは前向きデスね、見習いたいものデスマス」
妹、エレインの仇に関する情報がまるで集まらないことに落ち込むも、それについてシャーロットたちに八つ当たりせず気持ちを切り替える。
今がダメでも、前に進み続ける限りいつか必ず仇を見つけ出せる。そう信じ諦めないチェルシーを見て、ブリギットは敬意をあらわにした。
「おう、へこたれないのがアタシの長所だからな! ……で、話を戻すぜ。アストラルなんとかの報告はアタシとシャーロットに任せとけ。ユウたちはリオ様たちんとこに行ってこいよ」
「そうね、ギルドの方には私たちが行っておくわ。二人ならアポなしでもすぐにリオ様たちと面会出来るでしょうし」
『二人とも、ありがとうございます。善は急げって言いますし、早速行きますね!』
今回の戦いで、ユウはある予感を抱いていた。アストラルは一体だけではないと。もし一体しかいないなら、わざわざAなど付けない。
おそらく、まだ完成していないだけでB以降も……下手をすればZまでいる可能性があるとユウは睨んでいた。故に、早急に対策を打ち足さねばならないのだ。
「おう、行ってこい! でも、あんまり時間かけすぎるなよ? ギルド本部での表彰式があるんだから」
『はい、もちろん分かってます。そんなにかからないよう気を付けますね! それじゃ、行きましょうブリギットさん!』
「あいあい、お任せデスマス!」
こうして、アストラルへの対策をするためユウたちの奔走が始まった。
◇─────────────────────◇
「今……戻った。ドクター・ウノ……」
「おぉやおや! 見ていましたよぉ、神の目でバッチリとねぇ! いやあ、あそこまでやれるとは思ってませんでしたよぉ! アヒャヒャヒャ!!」
その頃、アストラルAは宇野のラボへ帰還していた。神の目を使ってユウたちとの戦いを監視していた宇野は、上々の成果にご満悦だ。
「ボディの修復が……甘い。改良を……頼みたい」
「もちろんですともぉ! ええ、ええ、造るモノは全て完璧に! それが私のモットーですからねぇ! さあこっちに来なさい、全身改良してあげますよぉ! アヒャヒャヒャ!!」
相変わらず狂った笑い声を上げながら、宇野はアストラルAを連れてラボの奥へと向かう。その途中、無数の培養カプセルが浮かぶ部屋を通った。
部屋の中には、所狭しと脳が納められた円筒状のカプセルが設置されている。装置に納められている脳こそ、アストラルたちに移植されている意識の持ち主。
脳以外の不要なモノを解体・破棄することによって、アストラルたちは生み出されているのだ。あまりにもおぞましい、改造手術によって。
(あの脳は……私、か。だが、今となってはどうでもいいこと。もはや……私は元に戻れぬのだから)
例えキカイの身体が粉砕されても、ラボに保管されている脳さえ無事なら何度でもよみがえる。それが宇野による、アストラル計画のコンセプト。
装置の中に浮かぶ己の脳を一瞥した後、アストラルAは緩慢な動きで保管室を通り過ぎていくのだった。
◇─────────────────────◇
「……ふむ。これでどうかのう? フィルにアンネローゼ。わしの理論が正しければ、どんなに強大な力を持つ魂も脱出など出来ぬようになっておるはずじゃ」
「それじゃ、テストするわよ。あー、実験記録……テスト147スタート。……これ、毎回やるのめんどくさいわね」
ユウや宇野たちが動くなか、かつての英雄たちの一部もまたとある計画を進めていた。死者たちの眠る冥府、鎮魂の園。
その一角に建てられたフィル専用の研究所に、四人の人物がいた。そのうちの二人は、フィルとアンネローゼの夫婦。
残る二人のうち、片方は漆黒の髪を持つ小柄な少年。やや老人くさい古風な話し方が特徴的だ。もう片方は、その少年に付き従う紫色の肌を持つメイド。
少年の名はコーネリアス・ディウス・ギアトルク=グランダイザ。シャーロットの実の父であり、闇の眷属を束ねる序列一位の魔戒王だ。
「うむ、ではランタンに入ってたもれ。……よし、入ったな? では閉めるぞよ、ガッチャンコっとな!」
「準備はいいですね? ではアンネ様、十分の間思いっきり暴れてください。こちらの計測マシンに異常数値が出なければ成功です」
「おっけー、それじゃ遠慮なく大暴れしちゃうわよ!」
四人は今、とあるアイテムを造り出すためのテストを行っていた。彼らの目的、それは……ユウを狙う魔魂片ヴィトラを、逆に捕らえてしまうアーティファクトの創造だ。
「うおりゃりゃりゃりゃりゃ!!! はー、大暴れするのって気持ちいいわね! もう二百年近く死んで大人しくしてるから新鮮な気分だわ!」
「確かにのう、鎮魂の園は平和そのものじゃからな。下層にある罪人の牢獄は、グランザーム殿が目を光らせておるから脱獄もまず無いしの」
「勝手に生者の世界に出てフラストレーションを発散することも出来ませんからね、そんなことしたらいくらぼくたちだってムーテューラ様にチェストされちゃいますよ」
現在、人魂状態になったアンネローゼが入って暴れているのは【封魂のランタン】と呼ばれるアイテムだ。その名の通り、魂を捕らえ封じ込むためのもの。
「わたくしたちの経験がこんな形で活きることになるとは、流石に思いませんでしたね旦那様」
「全くじゃよマリアベル。いやぁ、二十年前の魔魂片ギュザー襲来には逆に感謝せねばの、うむうむ」
それまで沈黙していたメイド……マリアベルは主であるコーネリアスにそう語りかける。実は、シャーロットが生まれる三年前……コーネリアスは別個体の魔魂片の襲撃を受けていた。
彼の故郷、イゼア=ネデールの大地に現れた魔魂片ギュザーは、かの地に眠る災いの記憶をよみがえらせ惨劇を繰り返そうとした。
コーネリアス率いる星騎士たちの活躍と、当時造られた風魔のランタンの原型となったアイテムによってギュザーは滅び消滅した。
そうして現在、魔魂片ヴィトラの存在と目的を娘から聞かされたコーネリアスはこの時の経験を役立てられないか、と考えたのだ。
「今のところ、計測数値に異常はありませんね。この分なら、八割がた完成したと言ってもいいでしょう」
「うむ、それは良き。急ぎこのランタンを完成させねばならぬからの。シャーロットの驚く顔が楽しみじゃ、わあっはっはっはっ!」
ユウたちの知らないところで、魔魂片対策が静かに進行していた。
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