第39話─魔術の真価を見せ付けろ!
『てやあああああ!!』
「ぐ……おおっ!」
「っしゃあ! やったぜ、ユウは相変わらずつええな!」
ユウの奥義が炸裂し、アストラルAの身体を両断した。後はいつものように、魔神の紋章が浮かんだ敵が銀色のチリになる……はずだった。
だが、何分経ってもアストラルAがチリになる気配がない。最初は大喜びしていたチェルシーやユウも、この異常事態に気付く。
『ど、どうなってるんです? いつもならとっくにチリになって消滅してるはずなんですが……』
「こいつ、一体なにが」
「致命的損傷を……確認。ボディの修復を開始する」
困惑するユウたちをよそに、アストラルAは自己修復機能を使ってキカイの身体を元通りにしてしまう。あっという間に復活を遂げてみせた。
「ありえねえだろ!? テメェらはマジンフォンの力で魂を消滅させられるはずなのによぉ!」
「私には生身の身体も、魂も存在しない。あるのは……素体から移植された精神のみ。ゆえに、私を消滅させることは……不可能。それがこの私……【
『そ、そんな……! こんなとんでもない存在、どうやって倒せばいいんです!?』
「私を滅ぼす方法は……無い。諦めろ、降伏し……む? まずい、完全に修復出来なかったか……」
薄々相手が単なる異邦人ではないと気付いていたユウだが、予想以上に厄介な相手だと分かり驚愕することに。打つ手無しと思われたその時。
ボディの修復が不完全だったようで、アストラルAは転移魔法を使い撤退していった。九死に一生を得たユウたちは、安堵の息を漏らす。
「なんか知らんが助かったな。にしても、参ったもんだな……リンカーナイツのクソども、えれぇモン造りやがってよ」
『そうですね、これはパラディオンギルド……いや、パパたちにも報告しておいた方がいい案件だと思います』
「ああ、こいつはちょっとまずいからな。……あ、そうだ。実は今、シャーロットたちが北の方で戦ってんだ。加勢行けるか?」
『そういうことなら行きますよ! シャロさんたちを助けます!』
思考を切り替え、ユウはチェルシーと共にシャーロットたちの元へ向かう。一方、帝都の北で憲弘と戦っている二人は……。
「ふう、こう揺れると狙いを付けるのも大変ね!」
「そろそろ諦めたらどうだ? お前を運んでる女も、いつまでも体力が続くまい。大人しく地面に降りたら楽に死ねるぞ?」
「やーデス。ワタシの体力は無尽蔵なのデスよ! そう簡単にギブアップしてたらおシショー様に半殺しにされるデス!」
一進一退の空中戦を繰り広げ、逆転のチャンスを狙っていた。分銅による遠距離攻撃をかわし、矢による反撃を行う。
だが、バックパックを装備した憲弘に避けられてしまい当たらない。鎌と分銅を繋ぐ鎖を切断しようと一度狙ってみたものの、魔力で強化されており失敗してしまった。
「さて、そろそろあいつを地面に叩き落としてやりたいところだけど……今の私が使える闇魔法じゃ、追尾能力を矢に与えるのは無理ね」
「そいじゃーどうするデスマス? ワタシのトマホーク使うデス?」
「それは最後の手段に取っておくわ。……まだ未完成だけれど、一つだけ。お父様から受け継いだ闇魔法がある。それを使えばあいつを倒せるかもしれない。あなたに協力してもらうのは、それをしくじった後にするわ」
「りょーかいデス! そいじゃー飛ぶのに集中するデスマス!」
シャーロットの父、コーネリアスは闇の魔法の天才として同法たちに知られている。彼が編み出した魔法は、どれも強力なものだ。
その分、習得の難易度は尋常なものではない。父の才覚を受け継いだシャーロットでさえ、アレンジしてようやく一部を会得出来たレベルなのだ。
(大丈夫、私なら出来る。お父様との特訓を思い出すのよ!)
心の中でそう己を鼓舞しつつ、シャーロットはつがえた矢に闇の魔力を纏わせる。そして、かつて父と行ったやり取りを思い出す。
『よいかシャーロット。わしの編み出した闇の魔法はどれも一級品、習熟すればどんな困難も切り開いてくれよう』
『はい! 私もお父様のような、偉大な魔術師になれるよう頑張ります!』
『ほほほ、よい心がけじゃ。では今日は……わしが次元の狭間を彷徨っていた頃に編み出した魔法を教えるとしようか。お主はわしとテレジアの子、聡い頭脳の持ち主じゃ。必ず会得出来ると信じておるぞよ』
『もちろんです! お父様に恥じない魔術師になるために……必ず会得してみせます!』
それからずっと、シャーロットは闇魔法の習得に時間を費やしてきた。時にはアレンジを加え、オリジナルの魔法を編み出し。
独り立ち出来るだけの実力を得て、彼女はこのクァン=ネイドラへと降り立った。父の誇りにかけて、世界を救うために。
「見せてあげるわ、逆転の切り札を! ディザスター・アロー【
矢じりにありったけの魔力を注ぎ込み、シャーロットは矢を放つ。真っ直ぐ飛来してくるソレを、憲弘は鎖鎌を振るい叩き落とそうとするが……。
「そんなもの、また叩き落とし……なにっ!?」
「かかったわね、一度触れたら最後……あなたはもう侵蝕から逃れられない!」
「オオゥ、あれはスライム? ベトベトなのが纏わり付いてるデスよ」
分銅が触れた瞬間、矢がスライムのような物体に変化し素早く憲弘の方へ這っていく。そして、バックパックに取り付き破壊を始めた。
「くっ、なんだこれは!? まずい、このままだと墜落し……うおおっ!」
「ふふ、どう? お父様が会得している闇魔法、ディザスター・スライムを私流にアレンジした……はあ、はあ、魔法なのよ。……ダメね、一発撃つだけで魔力がすっからかんだわ……ブリギット、トドメはお願い」
「あい、かしこまりデス!」
シャーロットの父、コーネリアスが生み出した闇魔法……ディザスター・スライムはあらゆるものを貪り尽くす極悪なものだ。
一度食らい付かれたら最後、骨まで残さず食べられてしまう。が、シャーロットはまだそこまで高度な魔法を使うことが出来ない。
そこで、自己流にアレンジして身に付けたのが先ほど放った魔法、【
「ぐう、う……バックパックをやられたか。これじゃあもう飛べないな」
「そーいうことデス。ここで往生するがいいデスよ! トマホークシュート!」
「うぐおっ!」
バックパックを食い破られ、墜落した憲弘にブリギットが追撃を放つ。トマホークを四つ投てきし、四肢を両断する。
これでもう、憲弘に打つ手は無くなった。決着がついたも同然と地上へ降下し、シャーロットは相手に質問を行う。
「さて、あなたを消滅させる前に一つ聞きたいことがあるの。頬に抉れたような傷がある男を捜してるの、私の友人の妹を殺した仇でね。何か知ってたら教えてちょうだい」
「……あいにく、俺は知らないな。だが、俺の主……トップナイトであるユージーン様なら知っていたのだがね」
「あの大男が情報を握ってたのね……。これはちょっとやらかしたわね、ブリギット」
「アチャー、まあ殺っちゃったもんはしゃーないデス。切り替えて次のトップナイトに聞くデスよ」
ユージーンが復活していることを知らないシャーロットは、ブリギットとそんなやり取りをする。彼女らを見て、憲弘は心の中でほくそ笑んだ。
「もう用は無いか? なら遠慮なく俺を消滅させるがいい。それが勝者の権利だ」
「ええ、言われるまでもなく。……惜しいわね、あなたみたいに潔い人がパラディオンになっていれば……心強い仲間になれたかもしれないのに」
【4・4・4・4:ソウルデリート】
最後の言葉を交わした後、シャーロットはマジンフォンの力を使い憲弘を消滅させた。チリになって消えた後、乙女たちは地に降りる。
北と南、二つの戦いは幕を閉じたが……不穏の種は、まだ消えていない。そのことを、ユウたちは知ることになる。
来たる表彰式の場にて。
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