第38話─乙女は天を舞い、少年は地を駆ける

 帝都ティアトルル北の草原で、シャーロック&ブリギットと憲弘の激しい戦いが始まった。分銅付きの鎖鎌を操り、憲弘は二対一の不利な状況でも互角に立ち回る。


「食らいなさい、ディザスター・アロー【急旋回ブーメラン】!」


「っと、そんなの当たらな……むんっ!」


「死角に回り込んだのに、するっと対応してきマシたか。やっぱり、カテゴリー6は別格な強さしてマスね」


 分銅を振るって矢を叩き落とし、返す刀で死角から不意打ちしてきたブリギットのトマホークを鎌で受け止め攻撃を防ぐ。


 反撃を防ぐため、即座にバックステップしたブリギットはそう呟く。彼女はすでに、何人ものカテゴリー6を相手にしてきた。


 ファティマの命令により、ユウを守る者として相応しい実力を得るため。そして、クァン=ネイドラの外で暗躍するリンカーナイツを止めるために。


 その過程で多くのカテゴリー6と戦ってきたが、そんな彼女でも憲弘の強さは別格に感じられるものであった。


「……十分に身体も温まってきた。ここからはチート能力も交えさせてもらう。卑怯とは言わないな?」


「ええ、もちろん。どんな能力か知らないけれど、私たちは必ず勝つわ!」


「フ、その大口が真実になるか試してやろうではないか! 【目に見えぬ恐怖の鼓動サイレンスグレイモア】発動!」


 憲弘がチート能力を発動した瞬間、不穏な空気が周囲を包む。能力を警戒したシャーロットが一歩後ろに下がった、次の瞬間。


「今だ! 身を焦がす電撃に痺れるがいい!」


「え……あぐっ!?」


「好機! 食らえっ!」


「シャーロット! 大丈夫デスか!?」


「くうっ、今の電撃は一体……」


 何かを踏んでしまったシャーロットの身体を、電流が駆け抜ける。ダメージそのものはほぼなく、身体が痺れるだけ。


 だが、動きが止まり致命的な隙を晒してしまった。分銅が放たれるも、ブリギットが割って入ったことで直撃は避けられた。


「ありがと、ブリギット。気を付けて、あいつ何かを地面にバラ撒いたわ」


「デスデス、なんかヤバい雰囲気をそこかしこから感じマシた」


「先に種明かしをしよう。俺の能力は不可視の電撃地雷を設置するものだ。一度踏めば、さっきみたいに痺れて隙を晒す羽目になる」


「……どういうつもり? 自分から能力をバラすなんて」


「俺はアンフェアなのが嫌いでね、一方的に優位に立つようなやり口はしないようにしてるんだ。それがユージーン様の教えなんでな」


 引き戻した分銅を振り回しながら、憲弘はシャーロットの質問にそう答える。何か裏があるのかと邪推するシャーロットだが、相手にそんな素振りは見られない。


 そこにあるのは、強者だけが持ち得る矜持のみ。そのことをシャーロットもブリギットも理解させられた。


「それにだ、そっちの鳥女は飛べるからそもそも地雷にかからないだろ? 教えなかったところで、警戒して滞空するだろうことは分かってるんだよこっちは」


「む、確かに。危険な罠があるなら、飛んで逃げちゃえばいいだけデスマス。というわけでシャーロット、合体するデス!」


「え? 合体ってな……きゃあ!?」


 ついでに、そんなぶっちゃけたことを口にする憲弘。チート能力自体は強力だが、飛べる相手には致命的に相性が悪い。


 ゆえに、バラそうがバラすまいが今回の戦いで自身のチート能力があまり役に立たないのを最初から理解していたのだ。


 指摘されたブリギットは、両足の爪でシャーロットの肩を掴み空へ舞い上がる。これならば、不可視の地雷も意味を成さない。


「全くもう、いきなりこんなことして……。まあいいわ、これで厄介な地雷は封じたも同然よ」


「デスデス、上から矢をやー! って射って射って射ちまくるデスよ!」


「……今のギャグは聞かなかったことにしてあげる。あなたの名誉のためにね」


「オゥ、辛辣デース」


 ブリギットとコントみたいなやり取りをしながら、上空から矢を放ちまくるシャーロット。憲弘は攻撃を避けながら、新たな武装を召喚する。


「なら、こちらも飛ぶとしよう。フンッ!」


「!? ば、バックパック!? リンカーナイツはそんな装備まで持ってるの!?」


 飛行用の小型ジェット二つを両サイドに備えた、ランドセル型のバックパックを身に着けた憲弘はシャーロットたちを追い空へと舞い上がる。


 ついでに分銅を飛ばし、攻撃を叩き込む。ブリギットは急加速し、分銅を避けつつ相手の背後へと回り込み反撃を行う。


「空飛んだくらいでワタシたちに勝てると思うなデス!」


「そうだな、油断はしない。この鎖鎌のサビにしてやろう!」


 舞台を空中に移し、第二ラウンドが幕を開けた。



◇──────────────────◇



『よし、街の外には出られました。ここまで来れば、誰にも迷惑は……うひゃっ!?』


「避けた……か。背後からのジャベリンを。なかなか……やる」


 一方、ティアトルルを出たユウは帝都の南にある森へと向かう。森の中ならば、身を隠しながら銃撃することが出来るからだ。


 逃走中にチェルシーとの連絡も済ませており、森の中で合流までの時間稼ぎをする魂胆でいた。そんな彼を、アストラルAの投げ槍が襲う。


 風切り音で攻撃を見切ったユウは、身を捻り攻撃をかわす。アストラルAは感心したようにそう呟きつつ、槍を手元に引き戻す。


「森には……行かせない。ここで捕らえる。まずは脚を潰す」


『そうはいきません、チェンジ!』


【トリックモード】


『それっ、ファントムシャワー! さあ、誰が本物か当ててみなさい!』


 分身を五人呼び出し、バラバラの方向へと逃げていくユウたち。今はとにかく時間を稼ぎ、チェルシーと合流するのが最優先。


 本物はあえて森の方へは逃げず、相手の裏を掻こうとする。が……彼はまだ知らなかった。アストラルAの力を。


「分身……? ムダだ、私には『視える』のだ。どれが本物かが……な!」


『!? ま、真っ直ぐこっちに来た!?』


「私には解る。お前が……本物だ!」


 即座に本物を見抜いたアストラルAは、ユウに肉薄し槍を突き出す。辛うじて避けることには成功したものの、ユウは狼狽を隠せない。


『ど、どうやってボクが本体だと見抜いたんです!? 簡単に見分けられないように、魔力で分身をコーティングしていたのに!』


「私は……むぐおっ!」


「ッラァ! ユウから離れやがれ、この気味悪ヤロー! 遅れて悪かったな、ユウ! 怪我ァねえか!?」


『チェルシーさん! ありがとうございます、助かりました!』


 そんなやり取りをしつつ、アストラルAの追撃が放たれようとしたその時。ユウの元に馳せ参じたチェルシーがハンマーを振るい、敵を吹き飛ばした。


 窮地を逃れたユウは、チェルシーにお礼の言葉を述べる。そして、アストラルAの底知れなさを彼女に警告した。


『気を付けてください、あいつ……ただの異邦人じゃありません。これまで戦った敵とは何かが違うんです。得体の知れない不気味さがあるというか……』


「ユウがそこまで言うなんて、よっぽどヤベェんだろうな。ま、いいさ。二人なら油断しなきゃなんとかなるだろ」


「新たな敵を……確認。こちらは排除する。私の任務の邪魔は……させない」


 アストラルAは立ち上がり、巨大なタワーシールドを呼び出し左腕に装着する。こちらも二対二となり、戦いが本格化する。


【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


「来やがれ、テメェなんざ返り討ちにしてやらぁ! ビーストソウル・リリース!」


『今回は、ボクも全力です! ビーストソウル・リリース!』


 ユウとチェルシーは獣の力を解き放ち、連携してアストラルAに襲いかかる。ここは相手に何もさせずに倒す方が得策。


 そう判断し、チェルシーが相手を痛め付けている間にユウは奥義の準備を行う。猛攻を防ぐのに手一杯なアストラルAに、ユウは攻勢に出た。


『今です! これを食らいなさい!』


【レボリューションブラッド】


『それっ! デッドエンドストラッシュ! こゃーん!』


 銃剣を振るい、突撃していくユウ。無事にアストラルAを撃破出来るのか、それとも……。

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