第37話─挟撃する刺客たち
帝都ティアトルルに滞在を初めてから、三日が経過した。ユウはクラネディアの元に通って政策を進言したり、マジンフォンでリオと連絡を取ったりと大忙しだ。
シャーロットたちの方も、ただだらけているわけではない。パラディオンギルドに足繁く通い、表彰式の打ち合わせ等をユウに代わって行っていた。
「はー、今日も話し合いばっかりで頭痛くなってきたぜ。ああいうの、アタシにゃ向かねえよ」
「デスデス、ずっと座って話してると爆睡するデス」
「よく言うわ、ほとんど私に丸投げしてたくせに……。ま、ユウくんの役に立てるから別にいいけど」
今日もまた、ギルドでの打ち合わせを終え正午少し前に宿の前に戻ってきたシャーロットたち三人娘。そんな彼女たちを、天から神の目が見下ろす。
「……頃合いだな。ミスター・コウサカ。手筈通りあの三人を街の外に誘き出してくれ」
「かしこまりました、ユージーン様。この
フェダーン帝国内にあるリンカーナイツの支部にて、ユージーンが部下を交えトライアルAと共に指令を下していた。
ユージーンとお揃いの黒いスーツに身を固めたマッシヴな男……憲弘はオールバックに固めた髪を掻きながら答える。
「頼もしい返事だ。ミーはここでアストラルAの動向を監視せねばならん、アクシデントが発生した時は迅速に連絡する。その時は即座に撤退するのだ」
「かしこまりました。では行って参ります、ユージーン様」
「グッドラック、コウサカ。ミッションの成功を祈る」
一足先に、シャーロットたちの誘い出しと足止めを言い渡された憲弘が支部を出る。続いて、ユージーンはボケッと突っ立っているアストラルAに声をかけた。
「さて、次はユーだ。アストラルA、ユーには別行動しているボーイを襲撃しここに拉致してもらいたい。やれるな?」
「……りょう、かい。私の任務……は、北条ユウの拉致……」
「ある程度なら痛め付けても構わない、とレオンは言っていたが……。実際、無傷で捕まえるのは無理だろう。相手はそれだけ強い、油断はするな。オーケイ?」
「理解……した。こちらもすぐに……出発する」
口調はまだぎこちないものの、意識はハッキリとしておりアストラルAは己の成すべき事を完全に理解していた。
これまたぎこちない足取りで部屋を去り、ティアトルルにいるユウの元へ向かう。宇野が創り出した兵器の力が、解き放たれようとしていた。
◇──────────────────◇
「……! この気配……チェルシー、ブリギット。どうやら私たちをご指名なようよ。敵さんがね」
「アタシらにだけ分かるように殺気飛ばしてくるたあ、ずいぶんと器用な真似するじゃねえの」
宿に戻り、ユウが帰ってくるのを待っていたシャーロットたち。のんびりとお茶でもしながら……とはいかなかった。
ユージーンの放った刺客、憲弘が動き出し三人を誘い出そうと仕掛けてきたのだ。だが三人娘も、即座に突撃するほどアホではない。
「んじゃ、誰がユウに知らせに行くかじゃんけんで決めようぜ。フェアにな」
「デスデス、コーヘーなのが一番デスマス」
「じゃあいくわよ、じゃーんけーんぽん!」
全員で向かうと、ユウに報連相が出来なくなる。最悪、実は殺気を飛ばしてきた相手は陽動で本命はユウの拉致……ということもあり得る。
というより、シャーロットたちは最初からそれが敵の作戦だという前提で動いていた。そういうわけで、じゃんけんで迅速にユウを迎えに行く係を決める。
「ん、アタシか。じゃサクッと行ってくるわ。たぶんまだ城にいるだろうからよ」
「ええ、頼んだわよチェルシー。さ、行きましょブリギット。私たちにケンカを売るような身の程知らず、さっさと退治しちゃいましょ」
「あ、それならアタシの代わりに聞いてきてくれよ。例の頬傷男のことをさ」
「リョーカイしたデス、そいじゃー行ってくるデスよ」
じゃんけんで勝ったチェルシーにユウのことを任せ、シャーロットとブリギットはティアトルルの外へと駆けてゆく。
殺気をたどり、帝都を出た二人は草原を進んでいく。北へと向かうこと十数分、ついに殺気の主と相対することに。
「……来たか。もう一人いるはずだがどこに行ったのかな?」
「生憎、知り合いでもなんでもないあなたに答える義務なんてないの。……あら、そのバッジ。カテゴリー6……実際に見るのは初めてだわ」
「ワタシは何人か始末したことあるデス。どいつもこいつも骨の折れる相手でシタよ、気を付けた方がいいデスねこれは」
「ああ、俺も一応上から二番目の実力の持ち主だと認定されてるんでね。お互い相手を舐めるのはやめておこうじゃないか、なあ?」
上着を脱ぎ、軽くストレッチしながら憲弘はそう口にする。相手の雰囲気から、ただ者ではないことを汲み取りシャーロットたちも気を引き締めた。
なにしろ、相手は銀のウロボロスバッジを持つカテゴリー6。舐めてかかれば返り討ちにされるのは目に見えているからだ。
「そうね、忠告通りにさせてもらうわ。だから二対一でも卑怯だなんて言わないわよね? こっちは街の人たちの命を守る身だもの」
【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】
「デスデス、いついかなる時も全力全開がワタシのモットーなのデスマス!」
【2・4・2・4:マジンエナジー・チャージ】
「というわけで、最初から全力よ! ビーストソウル……」
「リリースデスマス!」
シャーロットとブリギットは、それぞれの獣の力を解き放ち姿を変える。そんな彼女らを見ながら、憲弘は嬉しそうに笑う。
「ここ最近、骨のあるパラディオンに会えてなくてな。楽しませてくれよ? 秒殺なんてオチじゃあつまらないぜ」
「安心しなさい、逆にお前を秒殺してあげるから!」
「ドタマカチ割ったるデス! 覚悟するデスマス!」
ティアトルル近郊の草原にて、二対一の戦いが始まった。一方、クラネディアへの進言を終えたユウは宿へ戻っていた。
『もうお昼になっちゃいましたね、シャロさんたちもうご飯食べてるんでしょうか。ちょっと連絡し……』
『もしもし、ユウか! 今どこに入るんだ? 迎えに行くから目印になるもん教えてくれ!』
『わひゃっ!? いきなりどうしたんですかチェルシーさん。そんな慌てて電話し……あ、もしかして』
『ああ、アタシら……というよりユウを狙ってるだろうリンカーナイツのメンバーが動いてやがるんだ。だから急いで合流してえんだよ』
マジンフォンで連絡しようとした瞬間、チェルシーの方から電話があったためユウはびっくりしてしまう。が、すぐに事情を知り居場所を伝える。
『はい、今ボクは帝都の……えーと、三番地にい……うぶっ!?』
「見つけたぞ、北条ユウ。共に来てもらおうか」
『おい、ユウ!? どうした、何が……クソッ、別働隊か! 三番地だな、すぐ行くから待ってろよ!』
今自分のいる番地を伝え、何か目立つモニュメントのある場所に移動しようとする。だが、その刹那。建物に挟まれた路地裏から、突然アストラルAが飛び出し体当たりしてきた。
不意を突かれたユウは倒れ込み、通話が中断されてしまった。そのまま脚を掴まれ、路地裏に引きずり込まれていく。
『痛いですね、いきなりそういうことするのは嫌いです! これでも食らいなさい!』
「む、ぐ、おお……?」
奥の方へと引きずり込まれるのはまずいと、すぐに我に返ったユウはファルダードアサルトを引き抜き連射する。
背中に銃弾を受け、アストラルAは怯む。脚を掴む手が緩んだ隙を突いて、ユウはなんとか逃げだし大通りに戻る。
『はあ、はあ……。今のは一体なんなんです? こんな街中にリンカーナイツのメンバーがいるなんて、今までありえ』
「北条ユウ、お前の存在は許されない。ここで捕縛……させてもらう。抵抗は無意味だ、リンカーナイツ製人型兵器……アストラルAがお前を捕らえる」
息を整えているところに、再度ユウを捕らえんとアストラルAが現れる。お昼時のため、往来に人の姿はない。
だが、戦闘を行えば街や住民に被害が出てしまう。それを嫌ったユウは、心の中でチェルシーに謝りながら走り出す。
『ここで戦うつもりはありません! ボクを捕まえたかったらこっちについてきなさい!』
「いいだろう。北条ユウ、お前の存在は……許されない。何者にも。ゆえに、捕らえ……器にする」
南へと走っていくユウを、アストラルAは緩慢な動きで追いかける。帝都の北と南、それぞれの場所で戦いが始まる。
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