第34話─蒼天に舞え! 瑠璃色の道化師!

 中庭にて、新たなるパラディオン……ブリギットとユージーンの戦いが始まる。銃撃や打撃をものともしなかったトップナイトも、流石に斬撃には分が悪いらしい。


 二枚目と三枚目のラウンドシールドを召喚し、両腕に装備して応戦している。その姿は生きる要塞と言えるものだった。


「ぬぅん!」


「っと、そんな大振りのテレフォンパンチなんて当たらないデス。ノロマな鬼さん、ここまでおいでーデスマス!」


「すげえ、あいつアタシらがまるで歯が立たなかったデカブツと互角にやり合ってやがるぞ」


「ええ、あの身のこなし……凄まじい修行をした末に体得したのが見て取れるわ」


 空中にいるブリギットを捕まえ、地上に引きずり下ろそうとするユージーン。対するブリギットは、制空権を握っていることを活かし息もつかせぬ猛攻を繰り出す。


「食らうデス! ハイスイングチョッパー!」


「ぬうっ! やるな、バードガール。だが、そう簡単にミーは負けぬ! シールドスロー!」


 頭上から振り下ろされるトマホークを盾で防ぎ、空いている方の盾をブン投げるユージーン。ブリギットは飛翔し、攻撃を避けた。


(あいつ、まだ全力を出してないデスね。手応え的には二、三割ってとこデスかね? 本気を出してくる前に、マジンファクトリーが先行アプデしてくれた新機能で仕留めておくデスよ)


 一進一退の戦いを繰り広げるなか、ブリギットは相手がまだ本気を出していないことに気付く。何か裏があるのか、と思考を巡らせる。


 最終的に、相手が本気を出したり戦いが長期化する前に仕留めてしまえばいいと結論を出した。そして、相手を倒すための準備に移行する。


「そいじゃー、そろそろ決着を」


「まだ早いな、ミーと遊べ。ここしばらく、歯応えのある敵がいなかったからな! むぅぅぅ……フンッ!」


『わひゃっ!? と、跳びましたよ! もの凄く!』


「ホワッ!? ここまでジャンプしてくるのは想定外デス! もっと高く……ゲッ!」


「捕まえたぞ、このまま地上に叩き落としてやる! フンヌラッ!」


 が、ユージーンはそんな気配を感じ取り潰しにかかる。身を屈め、ググッと力を溜めて思いっきり跳躍した。


 上空十メートルほどの場所にいるブリギットの足首を掴み、落下しながら身体を捻る。そうして、相手を地面に叩き付けた。


「オブウッ! オオオ、流石にこれは堪えるデスマス! おシショー様にチューニングしてもらってなかったら、今のでバラバラになってマスデス!」


「ペラペラとよく喋る。だが、そろそろ終わりにしよう。まずは腕をもがせてもらうぞ!」


『そうはさせません! ここからはボクたちも加勢し』


「ノンノン、その必要はないデスマス! この距離の方が好都合……狙いを外さないデスから!」  


【ポジトロンスロー】


「なに……ぐうっ!?」


 叩き落とされ、まな板の上に乗せられた魚のように悶絶してピチピチ跳ねるブリギット。ユウが助けに入ろうとするも、その必要なかった。


 ブリギットは片方のトマホークを消失させて、空いた手でマジンフォンを操作する。画面を横にスライドさせ、新たな画面を出現させた。


 現れたのは、瑠璃色のサークルの中に正面を向いたインコの顔が納められたアイコン。それをタッチした瞬間、瑠璃色のサークルシールドが顕現する。


「これは……!?」


「驚いたデスか? マジンファクトリーが開発した新機能、その名も【ポジトロンスロー】デスマス!」


 ブリギットは素早く盾を掴み、本家本元である盾の魔神リオのように、ユージーンへと勢いよくブン投げ直撃させた。


 すると、ユージーンの胴体にマジンフォンの画面に表示されているものと同じシンボルマーク【ビーストサークレット】が刻まれ、動きを封じてしまう。


「おお、すげぇ! あのデカブツが全く動かなくなったぜ!」


『ソロン兄さん、いつの間にそんな機能を……凄いです!』


「今ならやれるわ、トドメを刺せる!」


「はいはーい、ではご期待に応えて! 一気にトドメを刺させてもらうデスマス!」


【レボリューションブラッド】


 不意を突いての新機能により、ユージーンを封じ込めることに成功したブリギット。ユウたちがエールを送るなか、奥義が放たれる。


「行くデス、奥義! ディバインアクスライザー!」


「ぬ……おおおおお!!」


 再びトマホーク二刀流になったブリギットは、翼を広げ飛翔する。思いっきり後退した後でUターンし、加速して相手に突っ込む。


 そして、斜め十時の斬撃を叩き込みながら相手の背後へと突き抜けた。奥義の直撃を食らったユージーンは、瑠璃色のチリとなり崩れ去る。


『わあ……凄い! ボクたちがあんなに苦戦した敵を、鮮やかに倒しちゃいました!』


「ええ、強いわね……。助かったけど、一体何者なのかしら? あんなに強いパラディオンがいるなんて、聞いたことないけど……」


 一時は敗北も覚悟していたユウは、ブリギットの強さと勝利を喜ぶ。一方、シャーロットは謎の助っ人の正体を訝しむ。


 変身を解除したブリギットは、元の道化師姿……ではなく、黒いゴスロリ風のドレスアーマーを身に着けた姿になった。


「おい、さっきとえらい違うカッコじゃねてかよ。百八十度違うだろ、なんだそれは」


「ワタシはこっちが私服なのデス。あの衣装は昔の仕事着デスよ、パラディオンになる前は大道芸人してたのデス」


「なるほどね。……まずはお礼を言うわ、助けてくれてありがとう。さて、あなたは一体何者なのかしら?」


 助けてくれたことへのお礼の言葉を述べた後、ブリギットの正体について問う。すると、彼女らにとって驚きの答えが返ってきた。


「ワタシはブリギット、ファティマ様に創られた自動人形オートマトンにしてあの方の弟子デスマス!」


『えええええ!?』


「ファティマ様の……」


「弟子ィ!?」


 変なポーズをしながら、ブリギットは誇らしげにそう答え胸を張る。一方、ユウたちは予想外の正体に驚いてしまう。


 ユウは驚きすぎて、尻尾の毛がブワッと広がってしまっていた。少しして落ち着いた後、街にいるリンカーナイツの構成員を討つため中庭を出る。


 それから数分後……。


「……不意を突かれたとはいえ、敗北するとは。ミーもまだ鍛錬が足りないな、今回の敗北を糧に精進せねば」


 風に乗って中庭に散っていたチリが集まり、人の形を成していく。そうして、ブリギットに倒され消滅したはずのユージーンが復活を遂げた。


「ミーのチート能力……あまり頼りたくはなかったが。任務を果たすにはどうこう言っていられん。部下たちに撤収命令を出して一旦引こう、敵の新しい能力対策を考えねば」


 連絡用の魔法石を使い、ティアトルル市街で陽動をしている部下に撤収の指示を出した後ユージーンは転移魔法で姿を消した。


 ユウたちはこの時、まだ知らなかった。強大な敵、ユージーンとの戦いは終わってなどいない。まだ始まったばかりなのだと。



◇──────────────────◇



「諸君らの働きにより、民草に大きな被害が出ることはなかった。この国を統治する者として礼を言う、ありがとう……パラディオンたちよ」


 ティアトルル在住のパラディオンたち、そしてユウ一行の活躍で大きな被害が出ることはなく。リンカーナイツの構成員を撃退出来た。


 女帝クラネディアは城に併設された大聖堂に全員を集め、礼を述べた後謝礼金を渡す。ユウ一行を残し、他の者らは帰って行く。


 残ったユウたちは女帝に誘われ、城の食堂でご飯をご馳走してもらうことに。


「いや、君たちにはいつも助けられているよ。パラディオンがいるからこそ、我が国はリンカーナイツに屈さずにいられるのだからね」


『いえ、そんな……。今回活躍してくれたのはブリギットさんですよ。ボクたちは実質負けたようなものですし……』


 食事をしつつ、クラネディアとやり取りするユウ。今回の戦いを機に、もっと強くならなければと決意を新たにしたようだ。


「ところで、だ。私は異邦人に会った時に毎回聞くことにしているのだ。ずばり聞こう、テラ=アゾスタルの知識を授けてはくれないだろうか? 国政に活かしたいのだよ」


『ええ!? そ、そうおっしゃられても……』


「陛下、ユウくんはその……大変申し上げにくいのですが、前世では五歳で命を落としたので……ご期待に応えるのは難しいかと」


「む? そうなのか……済まない、今のは忘れてくれ」


 気まずい空気が流れるなか、ふとユウは思い出す。前世では、苛烈な虐待と共にあらゆる知識を詰め込まれた。


 ならば、何か一つくらいは今世で役に立つものがあるはずだと。しばし考えた後、少年は口を開きクラネディアに伝える。


『……いえ、一つだけあります。ボクから陛下にお伝え出来る、地球の知識が』


 果たして、ユウが伝えようとしていることは……。

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