第33話─トップナイトの真価

「く、こいつ……とんでもない強さだわ」


『前に戦ったトップナイトより、遙かに強いですね……。正直、勝てるか怪しくなってきましたよ』


 戦いが始まってから、数十分が経過した。久音とは比べものにならないユージーンの強さに、ユウたちは押されていた。


 三人がかりで攻撃しているのに、相手は大山の如くまるで動じていない。格の違いというものを、嫌というほど思い知らされていた。


「クソッ、このままチマチマ戦っててもラチが明かねえ! イチかバチか奥義に賭けてやる!」


「待って、早まったらダメよチェルシー! 十分に弱らせてからじゃないと反撃されてしまうわ!」


「んなことやってみなきゃ分からねえだろ!」


【レボリューションブラッド】


 このままでは消耗し、ジワジワと弱らされ負ける。そう判断したチェルシーは、奥義による一発逆転を狙う。


 シャーロットの制止を無視し、奥義を放つ準備を整える。止めてもムダと判断したシャーロットは、自身も追撃することを決めた。


「仕方ない、一人よりも二人ならあるいは、ね。ユウくん、リカバリー出来るように準備してて。私も奥義を放つわ!」


『はい、分かりました!』


【レボリューションブラッド】


「行くわよ! ディザスター・アロー【猛突進バースト】!」


「食らいやがれ! タイタンズハンマー!」


 シャーロットは矢を握り、闇の魔力を纏わせ腕ごと巨大な槍へ変える。そして、チェルシーに合わせて突撃した。


 対するユージーンは、あろうことかズボンのポケットに手を突っ込んで悠然と立っているだけ。迎撃の構えすら取っていない。


「来るか。だが、ミーには分かる。その技は痛くもかゆくもないということがな」


「るせー! 聞きたいことあっからほどほどにくたばれ!」


『ほどほどってなんですかチェルシーさん!?』


「ムダだ。毎日山盛り三杯のフレークを食べ、トレーニングを積んでいるミーには……勝てん! フンッ!」


 闇の槍と魔力の杭、その二つでユージーンの身体を穿たんとするシャーロットたち。だが、それは叶わなかった。


 腕の一振りだけで跳ね返され、二人は床を転がる。予想以上のダメージを受け、立ち上がることも出来ない。


『二人とも大丈夫ですか!? 今治療します! ヒーリングマグナム!』


「させぬ。回復されたら面倒だからな!」


 倒れ込む二人を回復しようとするユウだが、ユージーンが素早く飛び込み放たれた弾丸を殴り砕いてしまう。


 久音などとは比べものにならない、トップナイトの実力を目の当たりにし……ユウはどう攻めるべきか思案する。


(どうしよう、ブレイクマガジンを使えばなんとかなるかもしれないけど……流石にここで使うわけには……)


「来ないのか? なら、こちらが行こう。子ども相手に手荒なことをするのは気が引けるが、ユーを確保せよと命じられているのでね」


『ボクは捕まるつもりはありませんよ! こうなったら……こうです! チェンジ!』


【トリックモード】


「む……!」


 いくら女帝から玉座の間を壊していいと言われても、限度というものがある。ブレイクマガジンを使えば、有効打にはなるだろう。


 だが、一度使えば最後……玉座の間は修復不可能なことになってしまうのは想像に難くない。そこでユウは、一旦逃げることにした。


 トリックマガジンを使って分身たちを召喚し、ユージーンにけしかけて時間を稼ぐ。その間に尻尾でチェルシーたちを掴み、窓をブチ割って脱出した。


『ボクたちが相手です! 少しでも時間を稼がせてもら…あぐっ!』


「悪いな、逃がすことは出来ん。消えてもらうぞ、さっさとな」


 分身たちはユージーンに挑むも、あっさりと蹴散らされ消滅してしまった。ユージーンはユウが逃げた窓へ向かい、外を覗き込む。


 中庭でユウが待ち構えているのを見つけたユージーンは、しばし考える。逃げずに待っている……それさすなわち、相手が迎撃の策を思い付いたということだ。


(さて、どう出る……。このまま追撃してもいいが、あのボーイが何か仕掛けてくるのは確実。ま……最悪『保険』はある、策に嵌められたとしても問題はない)


 そう結論を出した後、ユージーンは窓枠から身を乗り出す。一方、中庭で待ち構えていたユウは銃口を敵に向ける。


『今です! チェンジ!』


【ブレイクモード】


【レボリューションブラッド】


『食らいなさい! ナインフォールディバスター!』


 ユージーンが中庭に飛び降りようと身を躍らせた、次の瞬間。自由落下中という完全に無防備になるタイミングを狙い、ユウは奥義を放つ。


 不可避のタイミングでの、必殺の一撃。以前ワーデュルスが生み出したトレントたちを消し去ったように、ユージーンを倒せる……ユウはそう思っていた。


「……危ないところだった。盾を召喚するのが少し遅れていたら消し炭になるところだったよ」


『そ、そんな!? あの攻撃を……防いだんですか!?』


 だが、ユージーンは攻撃を食らう直前……全身を覆う巨大な灰色のラウンドシールドを召喚していたのだ。


 焼けただれ、半分溶解した盾を投げ捨てユージーンはサングラス越しにユウを見つめる。もはや打つ手無し、完全に追い込まれた。


「降伏しろ、ボーイ。そうすれば仲間には手を出さない。街に放った部下たちもすぐに引き上げさせよう。どうする?」


『……本当に、シャロさんたちには手を出しませんね?』


「ミーは約束は守る。さあ、来るがいい」


 仲間を回復させてあるとはいえ、劣勢であることに変わりはない。いたずらに戦いを長引かせて被害を大きくするくらいならと、ユウは降伏を選ぼうとする。


『分かりました、なら……』


「ユウくん、ダメ! あなたが犠牲になる必要なんてないわ!」


「ああ、そうだ。あのデカブツにだって付け入る隙はあるはずだろ? まだ諦めるにゃ早すぎるぜ!」


 だが、そうはさせまいとシャーロットたちが立ちはだかる。ユウを守ると誓ったからには、例え命を落とそうと戦わねばならない。


「美しい友情だ。だが、ミーに勝つことは……む?」


『な、なんですかこれ? 紙吹雪……?』


 ユージーンが一歩踏み出した、その時。どこからともなく、色とりどりの紙吹雪が降ってくる。全員が困惑していると……。


「はいハーイ、お立ち会いお立ち会い! リギー・ザ・クラウンの大道芸の時間デスよー!」


「な、なんだあいつ!? デカブツ、テメェの仲間か!?」


「違う。ミーの部下にはこんなトンチキな道化師クラウンはいない」


 明るいかけ声と主に、真っ赤なボールに乗った道化師の女自動人形オートマトンが降りてきた。四つのピンをジャグリングしながら、ケラケラ笑っている。


『えっと、あなた誰です? 一般の方なら、危ないから逃げてください!』


「おー、ゆーゆーは優しいデスね。でも心配無用デス。何故ならワタシは……」


【2・4・2・4:マジンエナジー・チャージ】


「ゆーゆーを守るために遣わされたパラディオンデスから! ビーストソウル・リリース!」


 ジャグリングのピンを全て真上に放り投げた女……ブリギットは左の脇腹に収納していた瑠璃色のマジンフォンを取り出す。


 そして、パスコードを入力し獣の力を解き放つ。目の前に現れた斧のアイコンが納められた瑠璃色のオーブを取り込み、その姿を変えていく。


「ジャンジャジャーン! ワタシの姿を見てひれ伏すがいいデスマス! トマホークの雨でズンバラリンと切り刻んでやるデス!」


「……こりゃたまげたな。こんな土壇場で援軍が来るとはよ」


『もしかしたら……あの人なら勝てるかもしれません。あの大男に!』


 オーブを取り込んだブリギットは、ルリコンゴウインコを思わせる鮮やかな青と黄色に彩られた鎧を身に着けた姿に変わった。


 背中には大きな翼が生え、両足は鋭く力強い爪を備えた鳥のソレになっている。両手に持ったトマホークを打ち鳴らしながら、ブリギットはユージーンを見下ろす。


「さあ、ショーの始まりデスマス!」


「面白い、ミーを楽しませてみろ!」


 突如現れた助っ人、ブリギットとユージーンの戦いが始まった。

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