第32話─女帝クラネディア
翌日の正午少し前、宿場町で一夜を明かしたユウたちは帝都ティアトルルに到着した。星型の城郭に囲まれた、堅牢な都市の威容にユウは目を丸くする。
『わひゃー、ニムテよりもおっきな街ですね!』
「そりゃそうだ、この国の首都なんだから。でも、中に入ったらもっと驚くぜ。ほら、行こうユウ」
『はい!』
例によって、パラディオン権限で正門の審査をパスしたユウたち。中に入ると、紫色の美しい街並みが出迎えた。
『わひゃ! 綺麗なアメジストカラーですね、見惚れちゃいますよこれ』
「むかーし、この国は宝石の採掘が盛んだったんだ。そん中でもアメジストがたくさん掘れてたから、紫を基調にした街並みにしたんだとさ」
「今でも一部の鉱山から宝石が採れるみたいよ。昔ほどの量は出なくなったみたいだけれどね」
『ほえー……』
陽光を受けて輝く、艶やかな家々を見ながら大通りを進むユウたち。まず真っ先に、女帝の住まうシャルネーア城へ向かう。
はぐれてしまわないよう、ユウを真ん中にして手を繋ぐ三人。しばらく道なりに進むと、街の中心にそびえる巨大な城が見えた。
「止まれ! 何者……む、そのマジンフォン……パラディオンの方々でしたか。国防の一端を担っていただき感謝しています」
「見張りご苦労様。先人クラネディア陛下への謁見を申し出た者なのだけれど、今からでも大丈夫かしら?」
「ええ、お話は宰相閣下より伺っておりますよ。どうぞ、ご案内致します。首を長くしてお待ちですよ、陛下が」
正門を守る、褐色の肌を持つダークエルフの衛兵たちに出迎えられるユウ一行。彼女らに案内され、城の中に入る。
紫色の薔薇が咲き誇る、美しい中庭を抜け城内を進むユウたち。しばらくして、玉座の間へと到着した。
「この先にクラネディア陛下がおられる。粗相のないように頼みますよ、パラディオンの皆様」
『ここまで案内してくれてありがとうございました。助かります!』
「……キュン。あ、こほん。で、では私はこれにて……」
九本の尻尾と耳をパタパタさせ、お礼を言うユウ。そんな彼にトキメキつつ、ダークエルフの衛兵は去って行った。
「あんのアマ、アタシらのユウに色目使いやがって……」
「まあいいじゃないの、手を出してないんだから。さ、行きましょ。陛下が待ってるわ」
衛兵を見送った後、大扉を開き玉座の間に足を踏み入れるユウたち。広い部屋の奥にある玉座に、一人の女ダークエルフが座している。
「クラネディア陛下、長い間お会い出来ず申し訳ありません。本日、新たなるパラディオンにして魔神の末子……北条ユウを連れ、参じました」
「うむ、よく来てくれた。さ、近う寄れ。衛兵たちよ、下がってよいぞ」
「ハッ!」
玉座の間を警備している、紫色のハイレグアーマーを着た近衛兵を下がらせ……女帝クラネディアはユウたちを呼ぶ。
顔の左半分を覆う長い赤髪と、好奇心に満ちた金色の瞳が印象的な人物だ。近衛兵たちから目を背けつつ、ユウは仲間と共に玉座の前に進む。
『陛下、お初にお目にかかります。ボ……私は』
「よい、そのようにかしこまることはない。存在の格で言えば、たかが一国の主でしかない私よりも魔神の子たるそなたの方が上なのだからな」
『いえ、そうおっしゃられても……流石に皇帝クラスのお方に砕けた口調というのは……』
「ふふ、謙虚なのだなそなたは。ま、ならばやりたいようにしてくれるといい。さて、改めて名乗ろう。私はクラネディア・パストラッセ=フェダーン三世。この国を束ねる者だ、よろしく頼む」
それなりに良好なファーストコンタクトを終え、早速ユウは尋ねる。騎士団長……ジェニコの現在の状況について。
「あやつか。今は騎士団の任を解き謹慎させている。流石に魔神の子を泣かせてお咎め無し、とはいかぬからな」
『ボクはもう気にしていませんし、どうにか許してはもらえませんでしょうか……?』
「ならぬ。ユウ殿がそうおっしゃられたとしてもだ。リオ様たちが許すとは思えぬからな。死罪にはならぬだろうが、まあ……それなりの罰は科されるだろう」
『うーん……じゃあ、後でパパに連絡を取って出来るだけ罪が軽くなるように──!?』
ジェニコの処遇について話し合っていた、次の瞬間。ユウたちのマジンフォンに、パラディオンギルドから緊急の連絡が来た。
クラネディアに了解を取り、内容を確認しようとするユウたち。だが、その時。
「確認は不要。連絡の内容はこうだ。『フェダーン帝国首都ティアトルルにリンカーナイツ出現。出現可能なパラディオンは直ちに排除せよ』だ」
「!? あなた、何者? どうやってこの玉座の間に!?」
「てめぇ、そのバッジ……カテゴリー7ってことは……トップナイトか!?」
「そうだ。ミーはユージーン。ユウ・ホウジョウ。お前を確保するためこの場に参じた。抵抗は無意味だ、諦めろ」
玉座の間の扉にリンカーナイツのシンボル、ウロボロスの魔法陣が浮かぶ。その中から、第二の刺客……ユージーンが現れた。
帝都に放った部下たちを使ってパラディオンたちを遠ざけ、直接城内にいるユウを連れ去ろうとやって来たのだ。
『まさかこんな早く来るなんて……いや、それ以前にどうやってボクたちがここにいることを知ったんです?』
「我々には神の目がある。この世界の全てを見渡す目が。……ムダ話はここまで。任務を達成させてもらう」
多くを語ろうとせず、ユージーンはゆっくりと歩を進める。ユウたちはクラネディアを守るべく、敵に立ち向かう。
「近衛兵たち、陛下を連れて逃げなさい! ここは私たちに任せて!」
「ハッ! 陛下、こちらへ!」
「ああ、私がいては気が散るだろう。玉座の間はどれだけ壊してもかまわん、存分に暴れるがいい!」
「へっ、ありがてえこった。おいデカブツ、覚悟しやがれ。あのクソギャルの時にやれなかった分、テメェを尋問してやるよ」
【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】
【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】
【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】
「行くわよ! ビーストソウル……」
「リリース!」
『勝負です、ユージーン! お前をここで倒します! 庇護者への恩寵発動!』
『庇護者への恩寵を与えます。筋力及び耐久力を大幅に向上させます』
部屋の奥にある隠し通路から女帝を逃がした後、ユウたちは一斉に獣の力を解き放つ。それを見たユージーンは、闇の力を解き放ち身に着けているスーツを強化する。
「楽しみだ。これまで倒してきたパラディオンたちはみな、五分以内に殺してきた。そこの二人は何分保つだろうかな」
『二人を殺させはしませんよ! これでも食らいなさい! チェンジ!』
【トラッキングモード】
まずは小手調べにと、ユウは追尾機能付きの弾丸を連射する。軌道を操り、手脚を撃ち抜いて行動不能にしようとするが……。
「ぬるい。フンッ!」
「ハァ!? ありえねえだろあいつ、弾丸を
「なら、私がやるわ。質量の少ない弾丸がダメでも、矢ならいけるはず! ディザスター・アロー!」
恐るべきことに、ユージーンは放たれた八発の弾丸を全て殴って破壊してしまった。それならばと、シャーロットが攻めるが……。
「ムダだ。ミーには矢も弾も無意味! フンヌッ!」
『わひゃっ!? 矢もダメなんですか!?』
「となりゃあ、直接ブン殴るしかねえな! 下がってろ二人とも、ジャガーノートであいつをぶっ潰す!」
こちらもさも当然とばかりに殴り砕かれ、無効化されてしまう。遠距離攻撃ではダメだと判断し、チェルシーが殴り込む。
ユウはメディックマガジンに切り替え、いつでもサポート出来るようスタンバイする。シャーロットも、二の矢をつがえチャンスを狙う。
「オラッ、食らいやがれデカブツ……!?」
「何かしたか? この程度、痛くもかゆくもない」
「ウソだろ、フルスイングしてやったのに効いてねえのかよ!?」
「フルスイング? 全然なっていないな、ちゃんとモーニングにシリアルを食え。手本を見せてやろう。フンッ!」
「ぐはっ!」
「まずい! ユウくん!」
『はい! ヒーリングマグナム!』
全力の攻撃を放つも、ユージーンにはまるで効いていなかった。逆にチェルシーを殴り飛ばし、返り討ちにする。
即座にユウが癒やしの弾丸を放ったことで、大怪我を負うのは免れた。だが、苦境に立たされていることに変わりはない。
『あの男……前に戦った久音とまるで違います。ワーデュルスのような、ガチガチの戦闘派ですよ』
「ッツツ……そう言ってもよ、どうせチート能力でも使ってんだろ? あいつは」
「いいや? ミーは現時点でその力を使っていない。全て鍛錬によって身に付けたものだ。この剛力も、耐久力もな」
「ウソでしょ……!? これは、ちょっとまずいわね……」
ユージーンの衝撃のカミングアウトに、驚愕するユウたち。直後、彼らは知ることになる。トップナイトの本気を。
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