第29話─絆と決意で勝利を掴め!
清貴との念話を終えたユウは、起死回生の策に出る。清貴を背負ったまま、今度は自ら久音へ突撃していく。
『てやああああ!!!』
「お、バッカで~。自分から手脚ちょん切られに来るとか! マッジでウケるんですけど~! スカータッチ!」
これまでとは逆に、清貴を背負ったまま果敢に攻めてくるユウを見て笑う久音。一切の情けも容赦もなく、シールを貼り付ける。
ユウが持つ唯一の武装である、銃と一体化した左腕に。シールが実体化し、ユウの腕が切断され地に落ちた。
『あぐっ! い、痛い……でも! キヨさん、今です!』
「ああ、分かった! それっ!」
「うわぷっ! 血の目潰しとかマジできったな~い! ウゲーッ! チョーあり得ないんですケド!」
凄まじい激痛に襲われるユウだが、それをこらえ素早く残った左腕を振る。ほとばしる血を飛ばして相手に目潰しをかました。
同時に、清貴が魔法を使ってユウの血を回収する。そして、自身のチート能力【
『ふー、ふー……よかった、魔神化したおかげで腕が超再生能力を使って元通りになりましたよ』
「す、凄い能力だね……初めて見たよ、腕が生えてくるところ」
予想外の目潰しを食らい、喚きながら走り回る久音を無視してユウは落ちた腕からマジンフォンを回収する。
銃の魔神に進化したことで手に入れた、リオやアイージャたちと同じ再生能力を使って切り落とされた腕を生やす。
魔神形態にちゃんと対応しており、サブマシンガンモードのファルダードアサルトが生えてくる。切り落とされた方は、その直後に消滅した。
新たにファルダードアサルトが再生すると、古い方は消えてしまうようだ。
『キヨさん、さっき言ってた薬は……あ、あれは!』
「見えたぞ、報告通り村が結界に覆われてるな……義人、まずはアレを壊すぞ!」
「分かった、すぐに壊してやるさ。なんとか間に合った……ってとこかな」
作戦を第二段階に進めようと、清貴に話しかけた直後。村の外からやって来るクライヴたちの姿が遠くに見えた。
シャーロットの報告を受けたギルドが緊急招集し、援軍として派遣してくれたのだ。マジンランナーによる体当たりで、容易く結界をブチ砕く。
「うあー、やっと目が……って、なんか来てんじゃん! ほ~ら、出てこいB部隊ども! あいつらを足止めしろ~!」
「ハッ、お任せを!」
「チッ、雑魚どもがわらわらと……そういうのは好きじゃないなあ!」
ようやく目潰し状態から回復した久音は、新たに二十人の部下を召喚してクライヴたち援軍にけしかける。
パラディオンの数はクライヴと義人を含めて八人、とてもではないが敵を瞬殺してユウたちに加勢……とはいかない。
だが、清貴がユウの血を確保出来た時点ですでに二人の作戦はほぼ完成していた。後は最終段階の行程を完遂するのみ。
「お仲間ちゃんたちの加勢なんてさせないもんね~。ほ~ら、またぶった切ってやる~! スカータッチ・シュート!」
『ああもう、あとちょっとなのに! ……こんな時、きっとパパやママならこうしますよね』
「ユウくん? 一体何を……うわっ!?」
クライヴたちを足止めし、久音は手帳から剥がした大量のシールをユウへと投げる。魔力を帯びたシールは、矢のように勢いよく飛翔していく。
清貴を背負ったまま避けてもいいが、全てを避けきれる保証はない。万が一、一つでも頭部や頸動脈に触れればその時点でアウト。
ユウは脳裏にリオたちを思い浮かべた後、清貴を下ろす。彼が創造中の薬が完成するまで、自分が盾になることを決めたのだ。
「ユウくん、ダメだ! いくら再生出来るとはいっても、頭をやられたらおしまいだろう!?」
『大丈夫です、ボクたち魔神は脳と心臓の両方を同時に破壊されない限り死にません。だから……あなたを守り抜きます! この戦いを制するには、キヨさんの力が必要なんです!』
九つの尻尾を広げ、自身も大きく腕を伸ばし少しでも清貴の被弾率を減らそうと健気に努力するユウ。
本来であれば、神に属するユウや他の魔神を被造物である大地の民が殺すことは出来ない。だが、例外もある。
神の血を得て
そして、リンカーナイツに所属する異邦人たちもまた……ネイシアの授けた加護により、神を殺すことが可能なのだ。
「キャハハハ!! ムダムダムダ、突っ立ってお仲間を守っても! ウチのチート能力には勝てないんだよ~、おバカさん!」
『うっ、ぐうっ! そんなこと、ありませんよ。パパが言ってました、どんな存在や力も、絶対無敵はあり得ない。極限の逆境の中で必ず、弱点を見抜くことが出来るって!』
「ナイナイ、ウチの
裂傷、打撲傷、刺突傷に弾丸による傷。様々な傷の形をしたシールがユウに貼り付き、身体を傷付けていく。
それに再生能力で対抗し、手脚が飛ぼうが目が潰れようがユウは耐え、清貴を守るため立ち続ける。
『ボクは……ボクは負けない、膝をつかない、お前なんかに屈しない! パパやママみたいに、みんなを守れる【ベルドールの魔神】になるんだ!』
「くっ、こんのガキんちょめ~! さっさとと倒れ」
「ディザスター・アロー【
「わひょっ!?」
いつまでもしぶとく再生し続けるユウに、久音が苛立ちはじめた次の瞬間。ヒーリングメイルで傷を癒やし、復活したシャーロットの一矢が放たれる。
『シャロさん!』
「ごめんね、ユウくん。やっと傷が癒えたわ、ここからは私と」
「アタシが復帰するぜ! あのクソアマに借りを返してやるよ!」
「むおおお~、動けな~い!」
チート能力により、久音に傷を付けることは出来ない。だが、それ以外ならやりようはある。シャーロットも、ただダウンしていたわけではない。
起死回生の策を、彼女なりに練っていたのだ。父と母から受け継いだ頭脳をフル回転させて。
「あなたに傷を負わせることは諦めたわ。その代わり、徹底的に動きを封じさせてもらうわよ!」
「とにかく動きを封じちまえばよ、千日手に持ち込めっからな!」
「というわけでどんどん射つわよ! ディザスター・アロー【
シャーロットが放った矢は、相手にダメージを与えるものではない。着弾の衝撃で細いロープのようにバラけ、相手に巻き付き動きを封じるのだ。
その結果、久音は指一本動かせない状態に追い込まれた。だが、それでも余裕の態度を取り続ける。
自身のチート能力がある限り無敵だと自負しているからだ。だが、それももう終わる。
「待たせたね、ユウくん。血から薬を作るのは初めてだったから時間がかかってしまった、ごめんよ」
『いいんです、おかげであいつを仕留める準備が全部整いましたから! いきますよ、チェンジ!』
【メディックモード】
『それっ、ヒーリングマグナム発射! ……に加えて!』
【1・8・2・4:ヒーリングメイル】
清貴の合図を受け、ユウはついに反撃の狼煙を上げた。メディックマガジンの力を左腕の銃に纏わせ、癒やしの弾丸を放つ。
その弾丸に、さらにマジンフォンの機能を使って再生能力を付与する。清貴は転移魔法を使い、弾丸の軌道上に自作の薬を送る。
「おい、何やってんだ!? 弾で薬を砕いて……いや、それ以前に治癒の弾丸じゃ逆効果だろ!?」
『いえ、いいんですよチェルシーさん。ボクたちの狙いは一つ、過剰な再生能力を相手に与えることですから!』
当然、弾丸の軌道上に現れた薬は撃ち抜かれることとなり中の薬液が弾を濡らす。血迷ったとした思えないユウの行動に、チェルシーがツッコミを入れる。
それに対し、ユウは自信満々にそう答えた。
「おぶっ! こんな弾丸、痛くもかゆく……も? あれ、なんか……身体が変……う、うぶあっ!?」
弾丸が直撃し、最初こそ平然としていた久音に異変か起きる。突然苦しみ出し、顔を歪めながら吐血したのだ。
「ユウくん、一体何をしたの!?」
『簡単ですよ、シャロさん。あいつは外傷には無敵……逆に言えば、
「ああ、そこでユウくんが閃いたんだ。過剰な再生能力を相手に与え、体内を破壊することで倒してしまおうとね」
「おおう、えげつねえ作戦だなおい」
理想を言えば、毒薬やガスを使えればスムーズに事が運んだ。だが、あいにくどちらも使う手段がない。
そこで、ユウはあえて久音に凄まじい再生能力を与えることを思い付いた。毒も転じれば薬となるように、その逆もしかり。
欠損すら治癒してしまう魔神の再生能力も、度を過ぎれば恐るべき破壊の力になる。その作戦が今、発動したのだ。
「うぐ、あ……ウソだ、ウチが……こんな、こんな……げ、おげぇぇぇ!!」
「このまま放っておいたら普通に死ぬわね、でもそれだとまた復活する……それは阻止しないと!」
『相手が弱ってる今なら、チート能力による守りを突破してトドメを刺せるはずです! ここで……ケリを付けます!』
【レボリューションブラッド】
あらゆる内臓を破壊され、地獄の苦しみを味わう久音。彼女にトドメを刺すべく、ユウはその血を進化させる。
『これで終わりです! 奥義……シルバーテイルドリラー!』
「う、ぐあああああ!! ウソだ……ウチが……サイキョーのトップナイトが、負け……」
大きく跳躍したユウは、九本の尾で自身を包み銀色のドリルとなる。動けない久音を貫き、その身に銃の魔神の紋章を刻む。
末期の言葉を残し、久音は銀色のチリとなって崩れ去り……身体も魂も完全に消滅する。激闘を制したのは、絆と覚悟を力に変えた……ユウだった。
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