第30話─戦いの後のお祭り

 死闘の末に久音を打ち倒し、消滅させてから三日が経過した。戦いでぐちゃぐちゃになった広場の修復も終わり、改めて厄流しのお祭りが行われる。


『壮観ですね、たくさんのお船が川を流れていきますよ』


「懐かしいものだね、僕が日本にいた頃……子ども時代に流し雛をしたっけ。こっちの世界でもやれるなんて、なんだか不思議な気分だ」


 パセルナの村を救ったユウたちは、村人たちから盛大な歓待を受けていた。心のこもったご馳走でもてなされ、川を流れていく紙の船を見送る。


 広場に戻った後は、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだ。チェルシーは健康診断のことなどすっかり忘れ、酒浸りになっていた。


「ワッハハハハ!! もっと酒持ってこーい! ぜーんぶ飲み干してやるぜ!」


「おおー、凄い飲みっぷり! いよっ、もっと飲め飲めー!」


「まったくもう……。チェルシーったらすっかり乗せられちゃって。こりゃ、明日は二日酔いで地獄行き確定ね」


 村人たちに囲まれ、浴びるように酒を飲んでいるチェルシーを離れたところから見ていたシャーロット。


 呆れ果てている彼の隣には、ちょこんとユウが座っていた。村人が作ったパンを、はむはむ食べている。


『あぐあぐ……』


「美味しい? ユウくん。三日前の戦いでたくさん活躍してくれてありがとうね」


『あぐあぐ……ごくん。いえ、そんな。ボク一人だけじゃ勝てませんでしたよ。シャロさんやチェルシーさん、キヨさんにクライヴさんたち……みんなの協力があったからこそ、ですよ』


 美味しそうにパンを頬張るユウの頭を撫でながら、お礼を言うシャーロット。それに対し、ユウはそう答えた。


 念話によるテレパシーなので、パンを食べながらでも余裕の回答だ。実際、少年の言うように一人で勝てる相手ではなかった。


 ユウの覚悟と清貴の閃き、そして彼らをアシストしたシャーロットたちパラディオン。全員が力を合わせたからこそ、掴み取れた勝利なのだ。


「ふふ、ユウくんは謙虚ね。リオ様に凄くよく似ているわ。あの方も、普段はお調子者なのにこういう時はとても謙虚だし」


『えへへ、パパに似てるって言われると凄く嬉し……ひょわっ!?』


「よーお、ユウ! なぁーに話してんだよ、アタイだけのけ者にすんなよなぁー? ヒック!」


「う、お酒クサッ! どんだけ飲んでんのよあなたは」


 二人が話していると、酔っ払いがやって来た。ユウを抱え、肩に乗せて無意味にぐるぐる回り出す。完全に酔っているらしい。


 もはや止めるだけムダと、シャーロットが呆れ果てていると……そこに、清貴を伴ったクライヴがやって来た。


「やあ、とても楽しそうだね。厄流しのお祭りを堪能してくれているようでなによりだ」


「そうね、ラーカほどじゃないけど楽しめてるわ」


「おいおい、闇の眷属の祭りと比べたら可哀想だろ……ま、それはいいや。ちょっと話があるんだよ」


「話? 一体なにかしら」


 清貴やクライヴと他愛のない話をするシャーロット。そんななか、クライヴがとある話を聞かせてくる。その内容は……。


「今回の戦いで、リンカーナイツのリーダー格の一人を倒せたわけだろ? それについて本部から表彰式をしたいって話がニムテ支部に来たんだ」


「まあ、そうだったの。でも考えてみれば当然の話ね、トップナイトの撃破なんてこれまで誰も成し遂げられなかったんだもの」


「ああ、そんなわけで1ヶ月後くらいに本部から通達が来る予定なんだ。それまでは、ユウとそのお仲間は休暇を楽しんでいいってギルドマスターが言ってた。ご褒美だってさ」


 クライヴが持ってきた話を聞き、シャーロットは長い耳を上下に揺らす。一ヶ月も休暇を貰えるとは思っていなかったのだ。


「あら、そんなに休んでいいのかしら……ん、そうだわ。なら長期休暇を利用して、ユウくんをお父様に会わせてあげようかしら」


「いいんじゃないか? 後ろ盾は多いほどいいからな。……で、ここからは真面目な話だ。他の大地で失踪事件が度々起きてるんだが知ってるか?」


「そうなの? クァン=ネイドラのことで手一杯で知らなかったわ」


「ここだけの話なんだけどね、どうやらリンカーナイツが関わっている可能性があるようなんだ。僕も詳しいことは聞かせてないんだけど……」


「今度、その事件について調査することが決まってな。……なんだか嫌な予感がするんだよな、幸先の良さをかき消すよ……おわっ!?」


「ハッハハハ! なぁーに辛気くせえ顔してんだよクライヴにキヨさん! ほら、おめーらも飲め飲め! 祭りなんだからパーッと騒げ!」


 真剣な話の最中に、酔っ払いがまたしても乱入してきた。目を回したユウを降ろし、クライヴたちの襟首を掴んで広場の中央へ歩いていく。


「おーい待て待て! まだ話が終わ……」


『行っちゃいましたね、チェルシーさんたち。ところで、何話してたんですか?』


「えーとね、実は……」


 少しして、回復したユウがシャーロットから話の一部始終を聞く。本部で表彰したもらうことになったと聞き、目を丸くしていた。


『わひゃー、なんだか大事になってきましたね!』


「ええ、何しろトップナイトの討伐っていう前人未到の功績を成し遂げたんだもの。むしろ表彰しないわけがないわ」


『そういうものなんでしょうか? でも……褒めてもらうのって、嬉しいです』


「ふふ、そうね。これからもっと、ユウくんを必要とする人がたくさん現れるわ。まだまだ、リンカーナイツの脅威は続いているもの」


 シャーロットの言うように、久音を倒して全てが終わるわけではない。まだ他のトップナイトたちが健在であり、各地で猛威を振るっている。


 彼らをも打ち破り、リンカーナイツを完全に滅ぼさない限り……クァン=ネイドラに平和は訪れない。


『なら、残りのトップナイトもみんなやっつけちゃいます! そのために、ボクはこの大地に来たんですから』


「ええ、頼りにしているわ。もちろん、私やチェルシーも力を貸すわよ。ユウくんの仲間だもの」


 お互い寄り添って座り、見つめ合うユウとシャーロット。遠くから聞こえてくる賑やかな声を聞きながら、祭りを楽しむのだった。



◇──────────────────◇



「そうか。永宮久音が倒れた……か。分かった、報告ご苦労だった」


「ハッ、失礼致します!」


 同時刻、リンカーナイツ本部。トップナイトたちのリーダー、レオン・リーズもまた久音の敗北と消滅を知った。


「まったく、あれだけ大口を叩いておいてこれとはな。やはり、もっと早くトップナイトの称号を取り上げるべきだったか」


「Brother, there's no use saying things like that now. Now that things are like this, I have no choice but to move on to the next strategy(アニキ、今更そんなこと言っても仕方ないだろ。こうなっちまった以上は、次の作戦に出るしかないさ)」


「……シュナイダーか。それもそうだな、次の刺客を選ぶ方がよっぽど建設的だ」


 レオンが呟いていると、一人の男が現れる。スマートな長身の男……シュナイダー・リーズの言葉にレオンは頷く。


「幸い、他の大地に派遣している部下のおかげで実験は進んでいる。予想より早く始動出来そうだ。【アストラル計画】をな」


「Oh, I'm looking forward to it. If that plan succeeds, I'll be able to make those hateful Palladians laugh(ああ、楽しみだな。あの計画が成功すれば、憎らしいパラディオンどもをギャフンと言わせてやれるよ)」


「そうだな、弟よ。……見ているがいい、パラディオンとその元締めども。我らは必ず、この世界を掌握してやるぞ」


 一つの戦いが終わり、束の間の平穏が訪れる。だが、それもいずれ破られるだろう。ユウの戦いは……まだ続くのだから。

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