第28話─傷を集める者

 清貴や村人を守りながら、敵のチート能力の正体を暴き撃破する。相手が久音一人『だけ』なら、さほど難しいミッションではない。


 だが、そう簡単に事が運べば苦労はない。そこに関して、久音が何も手を打たないはずがなかった。


「さ~あ、出番だよ~B部隊のみんな~! 村人共を血祭りにあげちゃえ~!」


「あいつ、キヨさんも含めて全員殺すつもりね! そうはさせないわよ!」


『何人呼んでもムダです! みんなやっつけますよ!』


【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


「ビーストソウル……」


『リリース!』


 久音は転移魔法を使い、残る配下たちを呼び寄せた。その数、全部で十八人。たった三人では、非戦闘員を守り切れるか不安になる人数だ。


 だが、それでもユウたちは立ち向かう。ギルドへの応援要請を終えたシャーロットは、ユウと共に獣の力を解き放つ。


チェルシーとも協力し、清貴を守りながら現れたリンカーナイツの構成員を仕留めていくユウたち。その様子を、久音はずっと見ていた。


「オラッ! チッ、あんにゃろ余裕コキやがって。部下の救援すらしねえたあふざけた野郎だ」


『何を考えているのか分かりません、警戒を怠らないようにしましょう!』


「ん~、そろそろい~かな~。んじゃ、いっちょやってこ~。【傷痕の蒐集家スカーコレクター】はっつど~!」


 ユウたちがある程度消耗した頃合いを見計らい、久音がついに動いた。あらかじめ呼び出しておいた手帳を開く。


 手帳の中には、ページじゅうびっしりとあらゆる傷痕を模したシールが貼られていた。裂傷、挫傷、青アザ、銃創。


「ほ~れ、ペインシールをくらえ~!」


「あ? てめぇ何を……!? うぐっ!」


 そこから裂傷の形をしたシールを剥がし、手に持ったまま突撃する久音。チェルシーの懐に潜り込み、すれ違いざまにシールを脇腹に貼った。


 すると、貼り付けられたシールが本物の傷として実体化しチェルシーに無視出来ないダメージを与える。


『チェルシーさん! お前、チェルシーさんに何をしたんですか!』


「え~? ウチのチート能力を使っただけだよ~んだ。傷痕の蒐集家スカーコレクターはねえ、傷をシールに変えてストック出来るバチクソウケる能力なワケ~」


 リンカーナイツのメンバーを全員消滅させた後、ユウはチェルシーの元に駆け寄る。睨まれた久音は、ケラケラ笑いながらそう答えた。


「チッ、面倒くせぇチートだな。……まさか、さっきアタシの攻撃を無力化しやがったのは」


「そ~だよ、このチート能力がある限り! ウチはあらゆる外傷を無効化するんで~す! キャハハハハ!!」


 自らチート能力を明かした久音。例え能力を知られても、全く問題ないと彼女は絶対の自信を持っていた。


 外傷を伴うあらゆる攻撃は、全て自分には無意味。自分を追い詰める攻撃手段をユウたちが持っていないと、彼女は確信していた。


「まずいわね……厄介過ぎる能力よこれは」


「僕の薬があれば死にはしないが……相手を倒せない以上打つ手がないぞ」


 ユウの銃撃、シャーロットの射撃にチェルシーの打撃。全て、何らかの外傷を相手に与える攻撃だ。


 ゆえに、現状では久音を仕留める切り札を欠いてしまっている。清貴の言うように、打つ手無し。


 とはいえ、何もしないわけにはいかない。ここで諦めれば、清貴もパセルナの村民も久音に殺されてしまう。


『それでも諦めません! きっとなにかあるはずです、あいつを倒す方法が!』


「ナイナイ、そんなものはありまっせ~ん。だから諦めてちょ~!」


「そうはいかないわ、本当にお前がいかなる傷も付かないのか試してあげる! 食らいなさい! ディザスター・アロー【レイン】!」


 だが、それで諦めてしまうほどユウたちはヤワではない。負傷したチェルシーを清貴に任せ、シャーロットが攻撃を行う。


 天に向かって矢を放つと、内に秘められた闇の力が解き放たれ矢がどんどん増殖する。矢の雨が降り注ぐが……。


「お~、凄いじゃ~ん。で~も~、ウチには無意味って感じ~? キャハッ!」


「そ、そんな! 本当に攻撃が効いてないだなんて……!」


 数十本の矢の雨を受けても、久音は傷一つ付いていなかった。その代わり、手帳の白紙だったページがぎっしりと埋まっていた。


 本来ならば、シャーロットの攻撃の直撃で負うはずだった傷の形をした無数のシールによって。これには、その場にいた全員が唖然としている。


「おいおい、これはマジでやべえぞ……」


「くっ……こうなったら最後の手段よ! ユウくん、私たちが時間を稼ぐわ! その隙にキヨさんを連れて逃げ」


「させるわけないじゃ~ん? トップナイト舐めんなっつ~の! スカータッチ!」


 自身の攻撃でもどうにもならない。そう悟ったシャーロットとチェルシーは、ユウに清貴を連れて逃げるよう指示する。


 が、そうはさせまいと久音が二人に迫る。先ほど増えた射撃のシールを二人の腹部に貼り付け、さらに拳を叩き込む。


「あそ~れっ!」


「うがっ!」


「あぐあっ!」


『シャロさん! チェルシーさん!』


「さ~て、これで後はチミらだけじゃん? まずはあんたから消すよ~、しんぐーじ。も~二度とリンカーナイツに逆らえないよ~にね!」


「くっ……!」


『そうはさせません! ボクが相手だ!』


 広場の奥へと吹き飛ばされ、動かなくなるシャーロットたち。急所のすぐ側に傷を付けられたため、ダウンしてしまったようだ。


 一人残ったユウは、清貴を守るため久音に立ち向かう。そんな彼にも、恐るべき傷痕のシールの魔の手が伸びる。


「い~よ~、じゃあこれまで散々ウチをコケにしてくれたから……片腕くらいはもらっちゃおっかな~! スカータッチ!」


『うわっと! このっ!』


 シャーロットらに使ったものよりも、より鋭く深い傷口を持つシールをユウに貼り付けようとする久音。


 もしそんなものを貼り付けられ、傷を実体化されればタダでは済まない。彼女が言った通り手足の一、二本は斬り落とされてしまつだろう。


「ほ~れ、こいつを貼り付け……おふぉっ!?」


『あんまりボクを甘く見ない方がいいですよ? これでもパパやママたちに鍛えてもらったんですからね!』


「いっつつ、やるじゃ~ん? なら、も~容赦しないも~ん!」


『キヨさん、掴まっててください! あいつの攻撃、回避に専念します!』


「うん、分かった!」


 相手の攻撃をかわし、ユウはカウンターの回し蹴りを叩き込む。そのまま追撃しようとするも、久音は軽やかな動きで逃げてしまう。


 反撃に転じた久音から清貴を守るため、彼に肩を貸し縦横無尽に跳び回る。だが、逃げているだけでは勝てない。


 シャーロットたちはダウンし、援軍もまだ到着する気配が無い。相手がまた部下を呼べば、ユウだけでは対処出来なくなる。


『一体、どうしたら……』


『ユウくん、少し考えてみたんだ。もしかしたら、あいつのチート能力……攻略出来るかもしれない』


 銃を連射して久音が近付けないよう牽制しつつ、ユウはどうやって相手を攻略するか思考を巡らせる。


 そんななか、少年に清貴が念話で語りかけてきた。久音に話の内容を聞かれてしまわないように。


『本当ですか!? キヨさん!』


『うん、彼女は……そう言っていたよね? つまりだ、逆に言えば外傷によらないダメージなら……』


『なるほど、相手の傷痕の蒐集家スカーコレクターを無力化出来るかもしれないということですね! よし、それなら……』


 清貴からのアドバイスを受け、ユウの頭の中に勝利への筋書きが出来上がりはじめた。まずは実験するのみ。


 覚悟を固め、ユウは清貴にを頼む。彼の言葉を聞いた清貴は、力強く頷いた。


『それくらいならこの状況でも出来るさ。でも大丈夫かい? 君は……』


『パパが言ってました。時には、勝利のために痛みを味わわなくちゃいけない時があるって。今がその時なんです、なら! ボクは覚悟を決めて行動あるのみ! です!』


 永宮久音を打ち倒すため、ユウと清貴は反撃に出る。果たして、その策とは……?

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