第27話─トップナイトの罠
精密検査と食事会を終えた次の日、ユウたちはクァン=ネイドラに帰還した。異常無しのお墨付きに元気を貰い、これまでと変わらずリンカーナイツと戦う。
帰還から四日が経った頃、シャーロットの部屋の郵便受けにユウ宛ての手紙が届く。久音の部下が偽造した清貴からの手紙だ。
「あら? ユウくん、キヨさんからあなた宛てにお手紙が来てるわよ。はいどうぞ」
『わ、こっちに来てから初めてですね! なんだか嬉しいです、どれどれ……』
自身をおびき寄せるための偽物であることなど知ることもなく、ユウは封を切り取り出した便せんを広げる。
『拝啓、北条ユウくんへ。明日、パセルナの村でお祭りがあるんだ。もしよければ遊びにおいでよ。パラディオンギルドの協力者として君との親睦を深めたいからね』
『お祭り! 是非行きたいですね』
「あー、そういやもうそんな時期か。あっこの村、いつもこの時期になると厄流しって祭りをすんだよ。紙の船に人形を乗せて、川に流して穢れを払う祭りをすんのさ」
『そんなお祭りをしてるんですね、ボクも行ってみたいです』
ユウの後ろから手紙を覗き込んだチェルシーは、そう口にする。神の目で大地の全てを見通せるリンカーナイツにとって、各街や村の行事の把握は容易い。
楽にユウを誘き出せるように、祭りの時期を狙って作戦を仕掛けたのだ。祭りそのものは本当だが、その裏には罠がある。
『もし参加するのなら、そのまま村に来てくれればいいよ。みんな楽しみにしてるからね、外から参加者が来るのを。一緒に楽しめることを願っているよ。神宮寺清貴より』
『ですって。シャロさん、お祭りに行きたいんですけど……いいですか?』
「ええ、いいわよ。働いてばかりだと息苦しいし、息抜きにパーッと遊びましょ」
「だな。ユウの父ちゃんがたくさん小遣いくれたし豪遊出来るぜ! へっへっへっ」
「全くもう……あぶく銭だからってムダ遣いしてたらキリがないわよ? チェルシー」
キュリア=サンクタラムから帰る際、ユウたちはリオからお小遣いを貰っていた。何かあった時のために貯金しているシャーロットと違い、チェルシーは早速散財するつもりらしい。
そんな彼女に呆れるも、せっかくの祭りなら少しくらい……とシャーロック・ホームズもお金を使うつもりでいた。
リオから貰ったお小遣いは、一人につき金貨十枚。小さな村の祭りで使い切るには途方もない金額だ。
「さて、お祭りに行くなら今日は早く寝ないとね。寝坊して行けませんでした、じゃ悲しいもの」
『はい! 今日は早めに寝ます! そして明日はいつもよ。早起きしますよ!』
「おーおー、やる気満々だなユウは。アタシも今日は寝酒は控えとくかな」
「健康診断の結果よくなかったのに、早速飲んでるのあなたは……」
チェルシーが飲んべえなのは直らなかったようで、自制のじの文字もない彼女にまたしても呆れ返るシャーロット。
しばらく酒は自分が没収しようと心の中で決めつつ、厄流し祭りへ思いを馳せるユウを見て微笑む。
『お祭り、楽しみですね! 一日遊んじゃいますよ!』
「ふふ、そうね。子どもは遊ぶのも仕事なんだから、目一杯楽しめるといいわねユウくん」
だが、この時ユウたちはまだ知らなかった。すでに久音が動き出して、自分たちを罠に嵌めようとしているということを。
◇──────────────────◇
次の日、少し早めに起きたユウたちはフォックスレイダーとマジンランナーを駆りパセルナの村へと向かう。
村では、朝早くから住民たちが祭りの準備を行っていた。村人総出で紙の船と人形を作り、広場に並べている。
『わあ、凄く賑わってますね。……そういえば、昨日は言いませんでしたけど。日本にも厄流しと同じような風習がありましたっけ』
「へえ、そうなのか? ユウは物知りだな!」
「……知識だけなら、たくさんありますよ。全部、無理矢理詰め込まれましたから」
祭り開始に向けて準備している村人たちを見て、ユウはふとそんなことを呟く。チェルシーの言葉に返事をするも、悲しそうに目を伏せてしまう。
ユウは前世にて、あらゆる知識を母親から無理矢理教え込まれた。大学卒業レベルの読み書き計算は当たり前。
法律や日本史に世界史、科学知識。それらを全て、過剰な暴力と共に覚えさせられた。辛い過去を思い出し、少し元気がなくなってしまう。
「お? どしたユウ。あ……もしかして、なんか聞いたらまずかったか?」
「たぶん、前世のことを何か思い出しちゃったのかもね。大丈夫? ユウくん」
『えっと、その……』
「ごめんな、迂闊だったわ。お詫びによ、今日はアタシがなんでも欲しいもの買ってやっからさ。たくさん遊んで辛いこと忘れちまおうぜ。な?」
『二人とも、ありがとうございます。ボクを気遣ってくれて』
いち早くユウの変化に気付いたシャーロットや、気まずそうに謝るチェルシーに元気付けられるユウ。
そこに、村人の手伝いをしに来た清貴がやって来た。
「おや、君たちもお祭りに参加しに来たんだね。今日は楽しんでいっておくれよ」
『あ、キヨさん! 昨日はお手紙ありがとうございます! せっなくなので遊びに来ましたよ!』
「え? 手紙? おかしいな、僕はユウくんに手紙なんて出してないけど……」
『え? でも、この手紙が……!?』
お互いの認識の食い違いに、ユウが首を傾げたその時。パセルナの村を、ドーム状の巨大な結界が覆い隠した。
突然のことに騒然となる村人たちや、ユウらが目を丸くするなか……村の広場に、一人の女が姿を現す。
「い~っちゃったいっちゃた、作戦が上手くいっちゃったよ~んだ。こ~れ~で~、一石二鳥ってすんぽーよね~」
「なんだぁ、てめぇ……!? 金色のウロボロスバッジ……なんだ、そんなの見たことねえぞ!」
「私たちすら知らない、高カテゴリーのリンカーナイツの構成員ってこと……!?」
「そーそー。ウチは永宮久音ちゃんどぅえ~っす。リンカーナイツの頂点、トップナイトの一人なのだ~。驚いた~?」
久音が胸に付けているのは、金色の下地を持つウロボロスのバッジ。彼女がリンカーナイツの最上位の存在たる、【カテゴリー7】……トップナイトの証だ。
『なるほど、親玉が直接乗り込んできたってわけですか。もしかして、この手紙……』
「そそ、ウチの部下に書かせたニセモノ~。本人そっくりの筆跡と中身っしょ~? これでも~、チミらは逃げらんないってワケ」
「ひえええ!! り、リンカーナイツが出たぞぉぉ!」
「みんな、逃げろ! 家の中に立て籠もるんだ!」
楽しそうに久音がネタばらしをするなか、村人たちは大慌てで逃げ出していく。広場にいれば殺されてしまう。
そ考え、各々の家に向かって走る。それが気に食わなかったのか、久音は舌打ちしつつ懐から一冊の手帳を取り出す。
「うっさいな~、未開種の足音マジキモいし。しんぐーじ処すついでにぶっ殺しちゃおっかな~!」
「んにゃろ、させっかよ! シャーロット、ユウ! おめーらはキヨさんを守りながらギルドに応援要請しろ! あいつはアタシが抑え込む!」
「ええ、分かったわ!」
【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】
「いくぜ、ビーストソウル・リリース!」
村人と清貴を守るため、真っ先に飛び出していくチェルシー。鎚の獣へと姿を変え、愛用のハンマーを振るう。
「オラッ、こいつを食らいやがれ! ストロングスイング!」
「へぼっ! ぐぷぅ、やるじゃ~ん」
「んだよ、あっさり吹っ飛ばされやがったな。拍子抜けす……ん? なんか違和感があるな……なんだ?」
先制攻撃をぶっ放し、久音にハンマーをクリティカルヒットさせるチェルシー。身構える間すらなく、直撃を食らった久音は吹き飛ばされる。
迎撃すら間に合わない相手の雑魚っぷりに肩透かしを食らうチェルシーだが、すぐに何かがおかしいことに気付く。
「お~、やるじゃ~ん。ウチをこんなに吹っ飛ばすなんてさ~」
『ど、どういうことなんです? あんな派手に殴られたのに傷一つないですよ!?』
「これは……一体どうなってるの?」
ハンマーで殴られ、思いっきり地面に叩き付けられたというのに久音は無傷だった。掠り傷や青あざ一つなく、ケロッとしている。
「ウチはさ~、リンカーナイツの最高幹部なワケよ。チート能力も雑魚なんかと比較にならないんよねぇ~」
「まずいな、僕がいると足手まといになる……どうにかして逃げないと」
『大丈夫です、キヨさん。ボクたちがあなたや村人たちを守りながら戦います! それがパラディオンの使命ですから!』
正体不明のチート能力を操る、トップナイトが一角永宮久音。これまで裏で暗躍したきた彼女との、決戦が幕を開けた。
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