第26話─暴かれゆく黒幕

『なるほど、お二方はそんな戦いを繰り広げていたんですね。パパたちからも聞きましたけど、本人から聞くと一気に臨場感が出ますよ!』


「ふふん、そうでしょう? 私とフィルくんの愛と勇気とその他いろいろに満ちた英雄譚を楽しんでくれてよかったわ」


「アンネ様、ところどころ話を盛りすぎですよ……」


 華やかな食堂でファティマの手料理を堪能しながら、ユウたちはアンネローゼとフィルの昔話を聞いていた。


 遠い昔、今ユウたちがいる世界……【基底時間軸世界】にあるアンネローゼたちの故郷と、並行世界にあるもう一つの故郷。


 二つの大地を股にかけた、闇の眷属率いる大企業や並行世界の魔女たちとの戦い。そして、二人の愛の物語を知ったのだ。


「それにしても驚いたな。ユウの父ちゃんたちが二人をぶっ殺そうとしてたなんてよ」


「懐かしいねー、あの頃はとにかくチェストウォーカーの一族! な状態だったから。ひたすら一族を奴らを滅ぼしてったからねぇ。ね、ふーちゃん」


「はい、かの者たちがグラン=ファルダで行ったおぞましいテロ行為にはわたくしも腸が煮えくりかえる思いでしたから。率先してかの者らを狩り、首を我が君に捧げていましたね」


 今から三百年と少し前、旧ウォーカーの一族はとんでもないことをしでかした。それは、神々の大地でのテロ行為。


 何の罪もない神々の子どもたちを標的に、大規模なテロによる虐殺を引き起こしたのだ。事態の収拾に、当然リオも動いた。


「あの時はホント、大変だったよ。一緒に救助活動してた友達は、力の使いすぎと毒の汚染でしばらく車椅子生活になっちゃったし」


「旧ウォーカーの一族として、本当に恥ずべきことです。当時まだぼくが生まれていなかったとはいえ……」


「フィルくんが謝る必要はないよ、あの件はもう終わったからさ」


 そうしたテロ事件もあり、当時のリオはフィルすらも抹殺対象にしていたが……紆余曲折を経て、二人は和解した。


 それ以来、大の親友として二人はそれぞれの仲間を交え親交を深めてきた。それは、フィルとアンネローゼが没してからも変わらない。


「私もお父様から聞いたわ。フィルさんが善なる存在なのか、リオ様の子たちが戦いを挑み確かめたと」


『そんなことしてたんですか!? それは聞いていませんよ、パパ、ママ』


「まあ、わざわざ聞かせるような話ではありませんから。貴方の兄や姉にとっては、手痛い敗北の記憶ですからね」


 思い出話に花を咲かせた後、フィルは本題に入る。ナプキンで口を拭いた後、ユウを見ながら話しかけた。


「さて、事前にリオさんから聞きました。あなたたちと戦っている組織、リンカーナイツの背後に新ウォーカーの一族がいるかもしれないと」


『……かもしれませんし、そうでないかもしれません。シャロさんたちはともかく、まだ彼らとの戦いを始めて日の浅いボクにはなんとも言い難いですね』


「まあ、そうでしょう。ただ、ぼくの方で心当たりが一つあるんですよ。リンカーナイツの裏に潜んでいるだろうウォーカーの一族にね」


「マジ!? 誰なんだよそいつ、教えてくれよ!」


 かつて、とある理由から故郷を離れ次元の狭間を数千年分彷徨ったことがあるフィル。その時に、彼は邂逅していた。


 今いるウォーカーの一族を束ねる最高幹部たる六人の敵。【渡りの六魔星】たちと。


「さっき話した通り、ぼくが【名を忘れた守護者】となって次元の狭間を彷徨ってた頃に襲ってきた連中がいるんですがね……」


「そのうちの一人が……ネイシアだっけ? そいつが輪廻の力を持ってるとかなんとか自慢してきたって話を聞いたわ」


「はい、アンネ様の言う通り……六魔星のうちの何人かが、度々ぼくを襲撃してきたんです。その中の一人が、まあそんなことを言ってたんですよ」


 長い放浪のなか、フィルの持つ力を狙い現れる刺客たち。その中に、ネイシアもいた。他の幹部たちと共に、フィルに挑んだが……ついに諦め、撤退したのだという。


『輪廻……それってもしかして』


「まあ、十中八九テラ=アゾスタルの人たちを転生やら転移させる能力だろうね。創世六神ですら、ユウ相手に初めて成功させられたことをあっさりやってのける……とんでもない奴だよ」


「当時、ぼくに襲いかかってきた六魔星は四人。そのうち、素性を暴けた……というか自分からペラペラ喋ってきたのもそいつだけなんですけどね」


 当時、人外の存在になり果てていたフィルになら聞かれても平気だろうとネイシアはいろいろ話したようだ。


 人ならざる者になれど、理性は健在であることなど知らず。結果、三百年後にツケを支払う羽目になったのである。


「ネイシア……もしそいつが異邦人を呼び寄せて、リンカーナイツを裏で操っているのだとしたら」


『目的を暴かないといけませんね、シャロさん。なんだってあんな酷いことをやらせるのかを』


「……ふふ。なんだかフィルくんと似てるわね、君。その強い正義の心……遠い昔を思い出すわ」


 理不尽に蹂躙されるクァン=ネイドラの民を救うべく、決意を新たにするユウ。そんな彼を見て、アンネローゼは微笑む。


 遠い昔、夫や仲間と共に双子の大地を救うため戦った日々のことを思い出す。多くの出会いと別れを経た冒険を、懐かしんでいた。


「ねえ、ユウくん。困ったことがあったらいつでも私たちに頼っていいのよ。これでも先輩ヒーローだもの、出来る限りのことはするわよ」


「ええ、死者には死者としての協力の仕方ってものがありますから。……あ、そういえば。ぼくの仲間の子孫が、確かパラディオンしてましたね」


『え、そうなんですか!? どんな人なんです、その人』


 かつての自分たちとユウを重ね、協力を約束するアンネローゼ。フィルは同意した後、ふとそんなことを口にした。


「ええ、ぼくたちの仲間にオボロという剣豪がいましてね。その子孫がぼくらの故郷……カルゥ=オルセナを離れているんです」


「九頭龍剣術の腕を磨く武者修行のためにね。私たち、暇してる時には自分や仲間の子孫の様子をこっそり見てるのよ」


「なるほどなー、じゃあそのオボロって奴の子孫に会えれば協力してもらえるわけか」


「ええ、今日にでもぼくたちが夢枕に立ってお願いしてみますよ。渋るようならオボロ本人を連れてきて説得しますので」


『ありがとうございます、フィルさんにアンネローゼさん!』


 惜しみなく協力してくれる二人に、ユウはお礼を言う。そこからはまた過去の思い出話に花を咲かせ、楽しい食事会を続けるのだった。



◇─────────────────────◇



「さて、次は誰を転生させようか。ここしばらくは強い魂の持ち主が……む?」


「失礼する、ネイシアよ。お前にまた一つ頼みたいことが出来た」


「……【謀略星】のタナトスか。なんぞ、またテラ=アゾスタルから人を呼んでほしいのか?」


 同時刻、次元の狭間にある自身の拠点にてネイシアが地球の様子を見ていた。次なる転生者を物色していたところに、一人の人物がやって来る。


 漆黒のローブと、白い髑髏の仮面を身に着けた人物。ネイシアの同志にして、渡りの六魔星の一角……タナトスだ。


「ああ、以前君に呼び寄せてもらった女……天王寺てんのうじアスカは我々の元から離反してね。新しい戦力が必要になったのだよ」


「ふぅん……。お前の言う【サモンマスター】なる存在への適性だけでチョイスしたが、やはり善人だったのが仇になったか」


「ああ、脳破壊による洗脳を施したが不完全だった。次は我々に協力してくれる悪人を呼び寄せてくれ」


「よかろう、だがその代わりまたわらわに寄越せ。お前が開発したサモンマスターになるための装置……【サモンギア】を」


 タナトスもまた、クァン=ネイドラとは違う大地で暗躍を重ねていた。だが、結果が芳しくないらしい。


 さらなる戦力強化のため、新たに地球人を呼んでほしいと頼みに来たのだ。頼みを聞く代償に、ネイシアはそんな要求をする。


「前にも一つ渡したがまだ足りぬか?」


「うむ、一つだけでは実験にも回せぬ。万一壊れた時に換えが利かぬからな。だからもう一つバックアップ用を寄越せ。さすれば我が輪廻の秘術を貸してやる」


「やれやれ、仕方あるまい。早く新戦力を連れてこいとボルジェイが苛立っているからな、背に腹は変えられん」


 交渉が成立し、早速輪廻の秘術で候補を探すネイシア。彼女が呼び寄せた人物は、遠い大地でユウとはまた違う英雄と長い死闘を繰り広げることになる。


 ユウたちの知らないところで。

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