第25話─英霊との邂逅
一時間後、先に結果が出たシャーロットとチェルシーの姿が休憩室にあった。二人とも入院患者用の病衣を着ている。
健康診断をするに当たって、専用のものに着替えさせられたのだ。身体測定から始まり、視力や聴力検査……。
心電図に採血、X線の代わりに魔力を用いた胸部検査、肝機能検査など。一般的な健康診断では行わないアレコレも、全部纏めて行った。
「はあー、しっかしまあすげぇカネかけてんだろうなぁこの病院。老後はこんなとこで暮らしてえもんだなー」
「あなたね、病院じゃ老後の世話はしてくれないわよ? 入院でもしないと」
「歳とりゃどっかしらガタが来るだろ。にしても、お前はいいよなー。闇の眷属は寿命がクソ長いんだろ? 老化なんてこの先何万年も縁がねえのは羨ましいぜ」
「あら、そうでもないわよ? 外見が変わらなくても、中身は確実に老けていくもの。たからこそ、日々健康に気を付けて……」
広い休憩室の一角で、そんな話をしていた二人の元に歩み寄る者が一人。検査を終えたユウだった。
『シャロさんにチェルシーさん、ここにいましたか。看護師さんに教えてもらいましたよ』
「ユウくん、そっちももう終わったの?」
『はい、検査の結果問題は無し! ヴィトラによる汚染の影響はゼロでした!』
二人に少し遅れたものの、ユウも無事検査を終えていた。なんの悪影響もなかったことに、チェルシーは大喜びだ。
「おお、そりゃよかった! ところで、その封筒はなんだ?」
『あ、これですか? 二人の健康診断の結果が書いてあるシートが入ってます。どうぞ!』
「おー、そっか。ちょいと怖いが確認してみるかな。どれどれ」
最新医療と魔法が合わされば、本来数ヵ月かかる診断結果の判定も一瞬だ。二人は封筒を受け取り、結果を見る。
なお、今回は尿検査は行っていない。流石に、血液を空腹時の状態にするのは魔法でも無理なのだ。
「私の方はオールA判定ね。全部問題なしよ」
「アタシは……ゲッ、やっぱ肝臓の数字がよくねえな。BとCばっかじゃねえか」
「ダメねえ、せっかくならここで療養していったら? 酒絶ちすれば数値もよくなると思うけど」
『チェルシーさん、大丈夫なんですか?』
「今は、な。療養は……まあ、考えとく」
結果として、日頃の生活習慣の差が如実に表れることになったようだ。チェルシーがトホホと落ち込んでいると、そこにリオがやって来る。
「やっほ、二人とも健康診断楽しかった?」
「いや、そんな遊園地のアトラクションじゃないんですから……。でも、自分の身体の状態を知れてよかったです。ありがとうございます、リオ様」
「特にトラブルもなかったって報告が来てるよ、二人とも協力ありがとね。ふーちゃんの約束通り、お礼させてもらうよ!」
滞りなく検査を終えられたことを喜び、機材テストに協力してくれたシャーロットたちにそう伝えるリオ。
チェルシーはパンと手を叩き、満面の笑顔を浮かべている。この時のため、大嫌いな注射を耐えたのだ。
「いよっ、待ってました! で、そのお礼ってなんだ……いてっ!」
「あなたね、偉大な魔神相手にそんないつも通りの口調で……」
「あはは、いいよいいよ気にしないで。お礼に二人を食事会に招待するよ!
『ディナー! やっぱり、ファティマママの手作りですか?』
「もちろん! ユウの好きなものたくさん用意してあるからね!」
リオの用意したお礼は、食事会への招待状だった。現物で何か貰えると思っていたチェルシーだったが、これはこれで嬉しいらしい。
「ユウの母ちゃんの手作り料理かー。そんじょそこらのシェフが裸足で逃げ出すようなモンが出て来るんだろな」
「そうねえ、ファティマ様はマリアベルの叔母様との最強メイド決定戦十番勝負で全引き分けした猛者だから」
「すげぇのかすごくねぇのかよく分かんねえなそれ。つーかお前の叔母なにしてんだよ……」
『あ、あはは……』
話が脱線してきたため、一度お開きとすることに。グランゼレイド城に泊めてもらうことになり、一行は城へ向かう。
『そういえば、特別ゲストが来るって言ってましたけど。誰ですか? パパ』
「もしかして、お父様を呼んでいる……とか?」
「それは会ってのお楽しみ。僕の大親友、とだけ言っておくよ」
『なんだか気になりますね。パパのお友達……どんな人なんでしょう』
食事会に呼ばれたゲストが誰なのか、アレコレ予想しながら城での時間を過ごすユウ。夜になり、楽しいディナータイムとなる。
オシャレなスーツやドレスで着飾ったリオやユウ、ファティマにシャーロットたちが食堂に会しゲストの到着を待つ。
『シャロさんにチェルシーさん、そのドレス似合ってますよ!』
「イイトコの令嬢だけあって、絵になるくらいキマッてんなー。アタシはどっからどう見てもミスマッチだろ。ゴリラがドレス着てるようなもんだし」
「そう自身を卑下することはありませんよ、ミス・チェルシー。人は誰でも磨けば光る原石なのです。その磨き方を知らないだけで、ね」
「うんうん、ふーちゃんはいいこと言うね! あ、ゲストが来たみたい」
シャーロットが着ているのは背中が大きく空いた白いドレス。優雅な佇まいと合わせて、魅力を引き出していた。
一方のチェルシーは、薔薇の飾りが付いた紅のドレスを身に着けている。普段こういうものを着ないということもあり、恥ずかしそうにしていた。
ユウやファティマの言葉に照れていると、食堂の扉が開く。そうして、入ってきたのは……。
「久しぶりね、リオくんにファティマさん。最後に会ったのは
「お元気そうでなによりです。ぼくたちは……まあ、死人なので元気もなにもないですけど」
腰まで伸びた銀色の髪を持つ女性と、ライトニングブロンドの瞳を持つ少年の二人組だった。どちらも、左手の薬指にお揃いの指輪をしている。
透き通った半透明な身体を持つこの二人こそが、リオの呼んだゲスト。ユウに会わせたかった、魔神の親友夫婦だ。
「!? あ、あなた方は!?」
『シャロさん、知り合いなんですか?』
「直接会うのは初めてだけれど、お父様から名前は聞いているわ。まさか、あの英雄と会えるなんて……」
「ごきげんよう、私はアンネローゼ・フレイシア・アルバラース。隣にいるフィルくんの妻よ」
「ぼくはフィル・アルバラース。隣にいるアンネ様の夫です。以後お見知りおきを」
夫婦……アンネローゼとフィルは名を名乗り、恭しくお辞儀をする。そんななか、チェルシーがおずおずと挙手した。
「なあ、一つ聞いていいか? なんでアンタら、身体が透けてんだ?」
「簡単ですよ、ぼくたちは鎮魂の園に眠る死者ですからね。一時的に外出させてもらってるだけで」
「そうね、だから今の私たちはゴースト……あるいはレイスってわけ」
『あ、やっぱりそうなんですか。なんとなく、そうじゃないかなーとは思っ』
「いやいやいやいやいや、待てよユウ! ってことは、こいつらはゆ、幽霊……」
「そうなるわね」
「そうなりますね」
どうやら、チェルシーは幽霊の類いが苦手なようだ。デカい図体そのままに、ユウの座る椅子の後ろに隠れようと縮こまっていた。
「ひえええ!! あ、アタシそういうのダメなんだって! ガキの頃からホントこえーんだよ幽霊とかが!」
「大丈夫よチェルシー、この方たちは危害を加えるようなことはしないわ。だって、お二人は三百年前に二つの大地を救った英雄なんですもの。ね?」
『パパからちょっとだけ聞いたことがあります。白き戦乙女と、黒き英雄のお話を』
そう口にするユウを見て、アンネローゼは誇らしげに胸を張っていた。
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