第24話─ユウの里帰り

 翌日、いつものように出現要請を受けリンカーナイツの略奪部隊を始末してきたユウたち三人。アパートに帰ると……。


「待っていましたよ、ユウ。久しぶりですね、元気にしていましたか?」


『わひゃっ!? ファティマママ、どうしてここにいるんです?』


「ファティマ様!? これは驚きました、もうお越しになられるとは」


 いつどうやって入ったのか、ユウの母の一人ファティマがリビングにいた。キッチリと部屋が掃除されており、新居のようになっている。


『ど、どうしたんですか? まさか、パパたちになにかあっ』


「いえ、我が君は壮健ですよ。ユウ、今日は貴方にしてもらわなければならないことがあり、急遽キュリア=サンクタラムに戻ってもらうことになったのです」


『え? ボクがしないといけないこと?』


「はい、貴方が終焉の者の魂のカケラを埋め込まれそうになったという報告を聞きまして。一度検査をしてもらうために、ね」


 ファティマはそう言いながら、ユウの元へ歩み寄る。安心させるように、優しく頭を撫でた。


『あ、そうなんですね。でも、ちょっと前にグラン=ファルダに呼ばれた時はそんな話されませんでしたよ?』


「あの時は、ユウのお仲間お二方が貴方の捜索に必死でしたから。彼女らを安心させるのを優先しました。それに……貴方については、全てを創世六神に委ねることはしないと我が君が決めていますので」


「……なあ、シャーロット。アタシら完全に蚊帳の外だなこれ」


「そうね、でも割って入る感じでもないし静観しときましょう」


 ユウとファティマが話し込んでいる間、シャーロットたちはおとなしくしていた。話し合いの結果、これからすぐユウを魔神の大地に連れて帰ることに。


 丸一日検査を行い、問題がなければニムテに戻れるとのことだった。またしても仲間としばしのお別れ、と思いきや。


「いい機会ですから、お二方も健康診断をなされては如何でしょう。直近で最新の医療機器を導入したので、そのテストも兼ねて……という形で」


「健康診断ねえ。確かに、私はともかくチェルシーはしてもらった方がいいかもね?」


「ぐっ、確かにまあ……最近酒ガパガパ飲んでるしな」


「もちろん、機材テスト協力の謝礼はしますよ。どうします? おやりになられるならお連れしますが」


「そうね、ユウくんとまた離れるのも寂しいから一緒に行かせていただきます」


「アタシも!」


 ファティマの取り計らいで、シャーロットたちも同行することに。四人揃ってキュリア=サンクタラムに行こうとする、が。


「ああ、その前に。ミス・シャーロット。ユウがお世話になっているお礼にと、貴女の部屋を軽く掃除させていただきましたが……」


「ぎくっ!」


「……あの散らかりようはいただけませんね。貴女は我が君の盟友たる、偉大な魔戒王の息女なのですから部屋が汚くては示しがつきませんよ?」


「あー……そのことは、マリアベルの叔母様には……」


「お伝えしますよ、一度あの方からみっちりと掃除の仕方を学ばれた方がよろしいかと」


「そ、それだけは嫌ぁぁぁぁ!! 叔母様のスパルタはもう……ひええ……」


 何かトラウマがあるようで、シャーロットがダウンしてしまった。チェルシーは呆れつつ、そんな彼女を背負う。


 改めて出発準備を整えた一同は、キュリア=サンクタラムへと転移していった。そうして、彼らが向かったのは……。


『わひゃっ! 凄く大きな病院ですね、こんなのありましたっけ?』


「ええ、つい最近建設しましたからね。この聖ラグランジュ病院を。あらゆる診療科の名医が属する、病魔撲滅の聖域です」


 リオとアイージャが準備を進めていた、聖ラグランジュ病院だった。すでにユウが来ることは知らされているようで、受け入れ体制が整っていた。


 中央入口から中に入り、待合所を通り抜け検査用のフロアへ向かう。エレベーターに乗り込み、八階へ降り立った。


「ここから先は、ユウとお二方は別行動になります。お二方には、テラ=アゾスタル式の健康診断を受けていただきますので案内に従って移動してください」


『え、大丈夫なんですかそれ』


「ええ、信頼の置ける異邦人の医師からレクチャーされたものですので大丈夫ですよユウ。さ、貴方はこちらへ」


「また後で会いましょ、ユウくん」


「さぁーて、どんな結果が出るかなー」


 エレベーターを出たところで二手に別れ、ユウとファティマは右へ、シャーロットとチェルシーは左へと向かう。


 ユウが向かった先では、大部屋の中に巨大な筒状の装置が鎮座していた。部屋の上の方から見える、ガラス張りの別室にいる医師たちが忙しなく準備するなか……。


「ユウ~、久しぶり~! 元気にしてた? ちゃんとご飯食べてる? 寂しくなかった?」


『パパ! はい、ボクはクァン=ネイドラで元気にしてますよ!』


 あらかじめ待機していたリオがユウに飛び付き、久しぶりの親子のスキンシップを行う。周囲からすれば、兄弟のじゃれ合いにしか見えないが。


 一通りユウから近況を聞いた後、リオは愛息子が達者でやっていることを知り安堵の表情を浮かべる。


「そっかそっか、元気にやってるみたいでよかったよ。でも、終焉の者……【フィニス】の魂のカケラを埋め込まれかけたのは見過ごせないね」


『はい、融合しかけたおかげで予想より遙かに早く魔神化出来たってメリットはありましたけど……』


「不幸中の幸い、ってやつだね。ただ、今後悪影響が出ないとも限らないからじっくりと検査しようね! 終わったらご褒美にみんなでご飯食べようね、今日はユウの好きなものいっぱ」


「我が君、そろそろ始めますのでモニター室に移動しますよ」


「わーん、もうちょっとだけユウといたいよー!」


『い、いってらっしゃい……』


 甘やかしパパモードに突入したリオをお姫様抱っこし、ファティマは別室へと向かった。こうなると、リオが存分に甘やかし尽くすまで止まらないことを嫌というほど経験していた。


 やだやだとダダをこねるリオを不意打ちのディープキスで赤面轟沈させつつ、モニター室に異動したファティマはユウに指示を出す。


『それではユウ、その装置の中に入ってください。バイタルや魔力の量、魂の状態を一律チェックしますので』


『はい、分かりました!』


 二人揃って念話でやり取りしつつ、装置のカバーを開き中に入るユウ。カバーが自動で閉じ、検査が始まった。


「装置を起動してください。もし異常な数値が見つかった時は、すぐにわたくしに知らせるように」


「はっ、かしこまりました!」


 ファティマの指示を受け、医師たちはモニターに表示される様々なデータをチェックしていく。


 血圧、心拍数、呼吸の乱れに魔力の数値……ファティマも個人用のミニモニターを使い、自身の目で確かめる。


(さて、何もなければいいのですが……。あのフィニスの魂のカケラが、もし僅かでもユウの中に残っていたら。無視出来ない影響をのちにもたらすでしょうからね)


 心の中でそう考えながら、ファティマはチェック作業を行うのだった。



◇──────────────────◇



「久音様、頼まれていたものが仕上がりましたのでご報告に参りました」


「お、案外速かったじゃ~ん。どれどれ……見してみ?」


「はい、こちら……を完璧に模倣した、北条ユウ宛ての手紙です」


 その頃、久音はユウの捕獲と清貴の抹殺を同時に行うための作戦を進めていた。招集した部下のチート能力を使い、清貴からの手紙を偽造したのだ。


 それをユウに送り、彼をパセルナの村へとおびき寄せるつもりなのだ。手紙を確認した久音は、満足そうに笑う。


「おー、文書もパーペキじゃ~ん。これならあのガキんちょも騙されるっしょ~」


「お褒めにあずかり光栄です。防護結界の準備も進んでいると、担当者から連絡が来ています」


「そかそか、んじゃあと四、五日もしたら計画を発動出来んね。待ってなよ~、今度こそ取っ捕まえるから~」


 そう口にしながら、久音はやる気を見せる。トップナイトとの決戦の時は、近い。

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