第21話─ワーデュルス顕現

 ワーデュルスが監視するなか、そうとも知らずトレントの群れを殲滅していくユウと義人。少しずつ数が減っていくが……。


「まだ出てくるのか、鬱陶しい。さっさと全滅させないと合流どころじゃあなくなるな」


『なら、ボクに任せてください! ただ、チャージが必要なので……』


「フッ、時間を稼げばいいんだろう? それくらいならお安いご用さ。グランホーンタックル!」


 第四のアドバンスドマガジンを用いて、トレントたちを一網打尽にして決着をつけようとするユウ。だが、それには少し時間がかかる。


 わらわらと敵が襲いかかってくる状態では、安全に魔力のチャージを行えない。そこで、義人に少しだけ時間を稼いでもらうことに。


「オオアアァ……!」


「どうだい? 木の化け物はこうやって削られるのがお似合いだなぁ。えぇ!?」


「オ、オオァ……」


『あと少し……よし! 義人さん、チャージが終わりました! 攻撃するのでしゃがんでください! チェンジ!』


【ブレイクモード】


 それまでファルダードアサルトに装填していたマガジンを、ブレイクマガジンに交換するユウ。そして、溜めた魔力を全て注ぎ込む。


『行きますよ! ナインフォールディバスター! こゃーーーーん!!!!』


「オォ……? アアアアアアア……!!!」


「うわっと! これは……凄い威力だ」


 義人が身を伏せた次の瞬間、ファルダードアサルトの銃口から紫色の輝きを放つした極太のレーザーが発射される。


 ユウはぐるりと回転しながら、レーザーを用いてトレントたちを薙ぎ払う。ものの数分で、敵は全滅した。


 ついでに、パルフォートの森も木々が消えてツルッパゲになった。


『わひゃ……初めて使いましたけど、こんな威力あるんですね……』


「末恐ろしいなぁ、こんな武器の使い手が敵に……む!」


「いや、実に見事だったよ。私の差し向けたトレントたちを、こうも豪快に薙ぎ払い全滅させてみせるとはね」


「貴様……何者だ? 素直に正体を明かした方がいいんじゃないかな」


 無事トレント軍団を全滅させ、後はチェルシーたちと合流するだけ。そう思っていた二人の元に、ついにワーデュルスが現れた。


 左右非対称な、派手なカラーリングが施された悪趣味な衣装に身を包んだ状態で姿を見せたワーデュルス。


 彼が纏っているケバケバしい衣装こそ、ランツクネヒトの証。明日をも知れぬ傭兵に許された数少ない娯楽であるおしゃれなのだ。


「私はワーデュルス・クワイツ。リンカーナイツに属する者だ。……異邦人だったかな、周囲の者たちは私をそう呼ぶ」


『やっぱりリンカーナイツの仕業でしたか。なんの目的でこんなことを!』


「私の上司から、君を再び捕らえてほしいと指令があってね。こうやって、君の実力を測りつつ捕縛しに動いたわけさ」


 ワーデュルスは穏やかかつ丁寧な態度で、ユウにそう告げた。相手を見たユウは、即座に理解させられる。


 相手は、これまで戦ってきたリンカーナイツの者たちとは遙かに次元の違う猛者だと。


(この人、強い……! オーラが違いますね、これは苦戦は免れられないかも……)


「ふぅん、お前たちが何の目的でユウを狙うのかは……ま、どうでもいいかな。俺を不快にさせる奴は邪魔なんだよ……消えろ!」


「はは、これはこれは手厳しい。安心したまえよ、すぐに何も感じなくなる。私が君たちを倒すからね」


『! 義人さん、気を付けてください! 攻撃が来ます!』


 肩に担いだツーハンデットソードを構え、ニコリと笑うワーデュルス。ユウが念話で叫んだ直後、ワーデュルスの姿が消えた。


 相手が超スピードで突進してきた、そう理解したのは義人が咄嗟に構えた剣で攻撃を防いだ時だった。


「くっ、お前……!」


「防いだね、素晴らしい。あの速度に対応出来ると……むっ!」


『それ以上はやらせません! 庇護者への恩寵、再発動!』


『庇護者への恩寵を与えます。動体視力の強化並びに、斬撃への耐性を上昇させます』


「ありがたいね、これで……互角に戦える!」


 クールタイムに入ったブレイクマガジンを抜き取り、通常の弾丸を連射してワーデュルスを後退させるユウ。


 相手に合わせて庇護者への恩寵を最適な効果へと更新し、義人のサポートを行う。二人の力を合わせ、強敵と戦うのだ。


「ふむ、面白い。では二人纏めてお相手しよう、来なさい」


『凄い余裕ですね、ボクたち負けるつもりはありませんよ!』


「倒してやるさ。俺がお前たちリンカーナイツを……な! ウィップダンスソード!」


 接近戦では力負けする可能性があるのと、追尾弾丸が使えるとはいえ相手に密着しているとユウが攻撃しにくいだろうと考えた義人は中距離で戦うことを選ぶ。


 剣を鞭モードに切り替え、ワーデュルスを叩き斬らんと攻撃を行う。それに合わせ、ユウは相手に弾丸を放つ。


「ふむ、いい連携だ。だがね、攻撃というものは避けてしまえば何の問題もないのだよ」


「くっ、こいつ!」


『全部避けるつもりならこうしちゃいます! チェンジ!』


【トラッキングモード】


 怒濤の波状攻撃を叩き込むも、ワーデュルスは歴戦のカンと身体能力で全てをかわしてしまう。老いてなお、戦神と呼ばれた傭兵の実力は健在なのだ。


 ならば追尾する弾丸を、とユウは再度トラッキングマガジンを装填する。六発の弾丸を放ち攻撃するが……。


「ふむ、そう来るか。だがね、その攻撃はすでに観察させてもらっている。追尾してくるのなら……」


『へっ!?』


「斬り捨ててしまえばいいだけのこと!」


 ウィップソードによる攻撃に加え、追尾機能付きの弾丸で今度こそダメージを与えようとするユウ。


 だが、ワーデュルスは剣を避けつつ大剣を軽々と振るい弾丸を叩き斬ってしまう。ここに来て、ユウは悟る。


 相手はこれまで戦った敵よりも遙かに技量が高く、強い。出し惜しみしていたら負けてしまうと。


「じいさん……あんた、何者だ? ただの老人がそんなに強いわけないからなぁ」


「私かね? 私はただのしがない傭兵だよ。戦場で散れず、天寿を全うしてしまっただけのね」


「傭兵……その格好から見るに、あんたは昔のヨーロッパで活躍していたランツクネヒトか。世界史の授業で習ったものだよ」


「ほう、後世の者たちにも私たちの……ふっ!」


 相手の隙を引き出すため、攻撃しながら話しかける義人。ほんの少し相手の気が緩んだ隙を突き、剣を通常形態に戻す。


 そして、稲妻のような速さで突撃して心臓に刃を突き立てようとする。だが、不意打ちすらも避けられてしまった。


「チッ、これもダメか!」


「いい攻撃だ、だが私と君では戦いの年季というものが違う。数多の戦場を駆けてきた私に、簡単に勝てると思わぬことだ! バーティカルリッパー!」


「ぐうっ!」


『これ以上はやらせません! はあぁぁ……ビーストソウル・リリース!』


 反撃を食らい、吹き飛ばされる義人。その時、ユウが獣の力を解き放ち銃の魔神へと姿を変えた。


 左腕と一体化したファルダードアサルトを構え、ワーデュルス目掛けて連続射撃を行う。


『ていやあああーーー!!!』


「ほう……! やはり切り札を隠していたか! 何かを出し惜しみするような感じがあったゆえ、もしやとは思ったが」


『義人さんをこれ以上傷付けさせません! ボクが相手です!』


「よかろう、では私の剣を受けてみるがいい!」


 魔神となったユウへ、ワーデュルスは大剣を構え突撃する。銃剣部分で攻撃を受け止めるユウだが、相手の勢いに負け弾き飛ばされてしまう。


『わひゃっ! なんの、まだ負けませんよ!』


「いいぞ、立ち向かってこい! 二人纏めて相手しよう!」


「言うじゃあないか、なら……遠慮してもらえるとは思わないでほしいなぁ!」


 復帰した義人も加わり、激しい接近戦が繰り広げられる。斬撃の応酬が続くなか、勝利を掴むのは果たしてどちらか。


 その答えは、まだ出ない。

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