第20話─深き森の罠
クライヴに触発されたユウがやる気を出したことにより、あっという間にコカトリスを十羽狩猟してしまった一行。
自分の出る幕はないと判断し、結局義人が獣の力を使う機会はなかった。そこを少しだけ残念に感じつつも、帰還しようとするユウたちだが……。
「おい、おかしくねえか? こっちの方から来たはずなのに、いつまで経っても外に出られねえぞ?」
「変だな、道に迷わないように木の幹に傷を付けながら進んできたんだが。一体どうなってるんだ?」
真っ先に異変に気付いたのは、チェルシーとクライヴだった。すでに何度もコカトリスやその他のモンスターを狩りに森に来ているだけあって、すぐに違和感を覚える。
いつまで経っても、どれだけ歩いても森の外にたどり着くことが出来ないのだ。二人にとって、パルフォートの森は庭のようなもの。
まず間違っても、遭難することなどあり得ない。最悪の事態に陥ったかもしれないと考え、チェルシーはユウに耳打ちする。
「ユウ、気を付けろ。もしかしたら、リンカーナイツの連中が何かしてきやがったのかもしれねえ。油断するな、何が…うおっ!?」
『わひゃっ! チェルシーさ……ひえっ!』
「まずい! クライヴ、あの子は俺に任せろ!」
「分かった、オレはチェルシーを追う! そっちは頼むぞ!」
その直後、木々の間を縫って植物のつるが勢いよく伸びてきた。つるはユウとチェルシーの身体に巻き付き、二人を引き離すように森の奥へ連れ去った。
攫われずに済んだクライヴと義人は、それぞれ仲間を助けるために動く。その様子を見る者が一人、黒幕たるワーデュルスだ。
「さてさて、まずは分断に成功……と。さあ、我がトレントたち相手にどう戦うかな? じっくりと分析し、対策を練らせてもらうよ」
初老の紳士は、トレント化した樹木を通してユウたちの様子を見る。神の目よりもさらに間近で見ることで、相手の戦い方をより詳細に見るつもりだ。
クァン=ネイドラの民やパラディオンたちを未開種と蔑み、ハナから格下と決め付け慢心する者が多いリンカーナイツの中では異例の慎重派だ。
「やっと追い付いた! 大丈夫かチェルシー!」
「ああ、こんなモン……オラッ! 自慢の怪力で引きちぎってやるぜ」
下半身が蛇のため、這いずりによる高速移動であっさり追い付いたクライヴ。自力でつるを引きちぎったチェルシーと合流するが……。
「うおっ!? なんだこのトレントの群れは! クソッ、やっぱリンカーナイツの連中がなんかしてきてやがるな! この森にはトレントなんかいねえし」
「だろうな、恐らくオレたちを分断して始末するつもりだろう。まったく、副業しに来た先で本業をすることになるとはなぁ」
【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】
「ま、給料が増えるんだからいいじゃねえか。……それに、今回こそ知ってる奴かもしれねえしな。アタシの妹を……エレインを殺したクズの正体を。ビーストソウル・リリース!」
チェルシーも獣の力を解放し、包囲せんと集まってきた無数のトレントたちを睨み付ける。鎚と槍、二人の獣のタッグが結成された。
◇──────────────────◇
『わひゃー!? ど、どこまで連れて行くつもりなんですかー!』
一方、ユウは森の奥深く……コカトリスたちですら住み着かない、最深部へと連れて行かれていた。ガッチリとホルスターをつるで塞がれ、反撃が出来ない。
どうしたものかと考えていたその時、木々の間を縫って
つるを切断してユウを助けた後、ひとりでに戻っていく。しばらくして、義人が姿を現した。右手には、蛇腹状の刃を持つ長剣を持っている。
この剣を分割して鞭のように伸ばして、ユウを助けたのだろう。つるを払い、立ち上がりつつユウは義人にお礼を言う。
『ありがとうございます、義人さん。助かりました』
「なに、気にしなくていいのさ。どうだい、俺の武器……『ウィンドリッパー』は。怪我はしていないかな? 何分、リーチが長いから制御が難しくてね」
『ボクには当たってないです、だいじょ……むっ!』
「……囲まれたな。これでハッキリした、やはりリンカーナイツのなにがしかが関わっているようだ」
こちらも、大量のトレントがユウと義人を包囲していた。この包囲網を突破しない限り、チェルシーたちとの合流は出来ない。
そう判断した二人は、マジンフォンにそれぞれのパスコードを入力していく。獣の力を解き放ち、包囲網を突破するために。
【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】
【9・9・9・9:マジンエナジー・チャージ】
「どうやら、俺の力をお披露目する機会が巡ってきたらしい。見せてあげよう、俺の実力を。ビーストソウル・リリース!」
『はい、頑張りましょう義人さん!』
「オオオォ……!!」
義人の目の前に、剣のアイコンが納められた黄色いオーブが出現する。それを取り込み、コーカサスオオカブトの力を持った【剣の獣】となった。
黄色の鎧兜に身を包み、両肩と兜に一本ずつ……計三本生えたツノ状の飾りを見せ付けるように得物を構えた義人は笑う。
「さて、始めようかな。狩りを……なぁ!」
『ボクが援護します、二人でトレントたちをやっつけちゃいましょう!』
二つの理由により、ユウはあえて魔神の姿にはならなかった。一つは、新たに託されたアドバンスドマガジンの力を試すため。
もう一つは、何者かに監視されているような違和感を覚えたためだ。今、手札を全て見せるのはまずい。直感でそう感じたのだ。
「ほう、あの少年……薄々だが私が見ていることに気付きかけているな。素晴らしいものだね」
そんなユウの様子を見ながら、ワーデュルスはパイプを吹かす。そして、自身が直接戦うならばユウの相手をすると決めた。
「久しぶりに振るうとするかな、私の剣を。ランツクネヒトとして鍛え上げた技術、どこまで通じるか……楽しみだ」
老紳士はそう呟き、一本の大剣を呼び出す。ワーデュルスは、十六世紀のヨーロッパにて活躍していた傭兵『ランツクネヒト』だった。
その中でも、『戦神』と称されるほどの実力を持ちライバルであるスイス傭兵や各国の正規軍からも恐れられた、歴史に名を残さなかった強者だ。
ネイシアは現代人だけでなく、彼のような過去の人物も時間をねじ曲げ転生や転移をさせているのだ。
「さあ、見せておくれ。私がこの刃を振るうに値する者なのか……その実力を」
そう口にする老兵の目は、トレントを通じてユウと義人の戦いを見ていた。振るわれるつるを掻い潜り、剛拳を以てトレントを屠るユウ。
『ていやあっ!』
「オアアァ……」
「素晴らしい、とんでもない身体能力をしているね。トレントを拳の一撃で……」
「グアアアァァ!!」
「屠ってしまうとは!」
「ギィアアァ……」
リオ仕込みの体術をフルに活用し、トレントを粉砕するユウ。義人の方も、蛇腹剣を巧みに操り敵を細切れにしてしまう。
そんな中、義人の背後にある普通の木が突如トレントに変化した。ワーデュルスが働きかけ、奇襲するために行ったのだ。
『義人さん、危ないです! チェンジ!』
【トラッキングモード】
「なに? うおっ!」
『よかった、無事弾丸が避けてくれました』
仲間の危機に気付いたユウは、素早くファルダードアサルトを腰に下ろして白いアドバンスドマガジンを装填する。
そして、狙いをトレントに定め六発の銃弾を発射した。トレントとユウの間に義人がおり、本来ならば彼が弾丸を食らっていただろう。
だが、自動追尾能力があるトラッキングショットの効果により弾丸が軌道を変えた。非ターゲットへの被弾を自動で防いだのだ。
「済まない、助かった。これでお互い貸し借りは無しだな」
『おあいこってやつですね。さ、残りも片付けちゃいましょう!』
「ああ、そうしよう。じゃ……邪魔者どもには死んでもらおうかな」
新たなマガジンの力を使いつつ、トレントの群れを蹴散らしていくユウと義人。ワーデュルスとの対決の時は、近い。
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