第19話─パルフォートの森へ

「着いたぞ、ここがコカトリスの群れが住むパルフォートの森だ」


『鬱蒼としてますね……コカトリス以外にもいろいろ出てきそうです』


 コカトリスの討伐依頼を受注した四人は、ニムテから東に十八キロほど行ったところにあるパルフォートの森にやって来た。


 見た者を石に変えてしまうコカトリスが群れで生息しているため、一般人の立ち入りは禁止されている。入れるのは帝国軍や冒険者等一部の者だけだ。


『入る前に、みんなにボクのチート能力で石化への耐性を付与しますね。それっ!』


『庇護者への恩寵を与えます。暗所での視力強化並びに聴力強化、石化への完全な耐性を付与します』


「おっ!? なんか聞こえてきたぞ、これがユウくんの力か」


 庇護者への恩寵により、コカトリス狩りの準備は整った。クライヴが驚くなか、義人はなんとも言えない表情でユウを見つめる。


「へえ……支援系の能力なんだね。ありがたいものだ。俺はチート能力がないからなぁ……羨ましいよ」


『え、そうなんですか?』


「ああ、俺を転移させた奴は『ハズレ』だと抜かしてたよ。まったく、失礼な話だと思わないかなぁ?」


 義人のねっとりした言い回しにちょっとだけたじろぐユウだが、とりあえず頷いておいた。そして、ふと気になったことを尋ねる。


『そういえば、キヨさんや義人さんもリンカーナイツの連中と同じ方法でこの大地に来たんですよね? なら』


「俺たちを転移させた奴の正体を知ってるはず、だろう? ところがそうもいかないのさ。あいつは俺たちを常に見ている……リンカーナイツに加わる意思無しと判明した瞬間、自分の正体に繋がる記憶を消してくるんだよ」


「ハー、セコい野郎だなぁ。ムダに悪知恵が働く奴ってアタシは好きじゃねえな。一発ブン殴って説教してやりたくなるね!」


「ま、その話はおいおい。今はコカトリスを狩るのが先だ、奴らは森の奥に住んでる。早くしないと日が暮れるからな」


 大量のテラ=アゾスタル人を呼び寄せている者の正体を知れるのでは、と考えたユウだがそう甘くはなかったらしい。


 少し落ち込みつつも、気を取り直してコカトリスの討伐に赴く。が、それを遙か上空から神の目が監視していた。


「およ? あいつらあの森に来てんじゃ~ん。あそこには確か……よ~し、連絡してぶっ潰しても~らお」


 誰もいない基地で一人、監視モニターを見ていた久音は懐から連絡用の魔法石を取り出す。それを使い、部下に連絡を取る。


『はい、こちらワーデュルスです』


「しもしも~、わーちゃんに一つやってほしいことがあるんだケド~。今~、例のガキんちょがわーちゃんの最寄りの森にいるんよねぇ。捕まえてきてくんない?」


『かしこまりました、パルフォートの森ですね? ではそちらに向かいます』


「よろしこ~、んじゃ任せた~」


 神の目による監視網を使えば、すぐにユウを探し出すことが出来る。ひとまず手を打てた久音は、安堵した後何かを思い付く。


「あっ! いいこと閃いちった。この策ならあのガキんちょの捕獲とキヨちゃんの始末が両方やれちゃうじゃ~ん。わーちゃんには捨て駒になってもらって~、その間に準備し~とこっと」


 どうやら、ユウの捕獲と清貴の抹殺を同時に行う作戦を閃いたらしい。つい今し方命令を出した部下を見殺しにし、作戦の準備が終わるまでの時間稼ぎをすることに。


 うきうき気分で監視室を去り、準備を始めるのだった。



◇──────────────────◇



 そんなことなど知る由も無いユウ一行は、盾持ちのクライヴを先頭にパルフォートの森を進む。コカトリスは鋭い爪とクチバシを持つ。


 石化を免れても、爪やクチバシで薄い鉄板くらいなら貫通してくるため防御力の高いクライヴが先行した方か安全だからだ。


「ユウくんのチートのおかげで、薄暗いの森の奥までよく見えるよ。おまけに、コカトリスの足音もよく聞こえる」


「これなら不意打ちは防げそうだな、この時期のコカトリスは繁殖期に入って気性が荒くなってっ……ユウ、気を付けろ! 七時の方向から来る!」


『はいっ!』


 慎重に森の中を進んでいたその時、真っ先にチェルシーがコカトリスの接近に気付く。縄張りを守るべく茂みから飛び出したコカトリスを、呼び出した鎚の一撃で屠る。


「コケァッ!」


「っ、まずは一羽! 討伐した証に眼をくり抜いて持って帰るぞ、目標は二十個だ!」


『そんなにですか!?』


「ま、十羽も狩れば済む数さ。それにしても、本当に便利だねぇユウ。君のチート能力は」


『いえ、そんな。皆の役に立てて嬉しい限りです』


「君はいい子だねぇ、実に気に入ったよ。じゃ……次は俺が役に立たせてもらおうかな」


 仲間が倒されたことで、コカトリスたちが一斉に殺気立つのを感じ取った義人。左脚の付け根に装着してあるケースから、黄色の下地に黒ひし形が描かれたマジンフォンを取り出す。


 同時にクライヴも、左腕に装備してある赤色のマジンフォンに右手を伸ばした。獣となることで、一気にコカトリスを狩るつもりのようだ。


「二人は見ていてくれ、オレたちの実力をお披露目してやるからさ」


「なんだ、リンカーナイツ相手でもないのにソレやるのか? ま、別にいいけどよ。張り切ってんなぁお前ら」


「ま、実技試験じゃ瞬殺されちまったからな。今回は大人として、かっこいいところを見せてやるよ!」


【2・6・2・6:マジンエナジー・チャージ】


「行くぞ! ビーストソウル・リリース!」


 まずは、クライヴが獣の力を解き放つ。目の前に槍のアイコンが納められた赤色のオーブが現れ、身体に吸収される。


 すると、クライヴの身体が光り輝きその姿を変えていく。ユウたちの目の前で、クライヴは下半身が蛇に変化した。


 左腕は巨大な盾と一体化し、尻尾の先端は鋭い槍になっている。【槍の獣】へと進化したのを見て、ユウは目を輝かせる。


『わあ、クライヴさんかっこいいです!』


「だろ? 蛇の力を得たからな、ピット能力を使えばこうやって!」


「コカァッ!?」


「温度で分かるのさ、獲物の居場所がね」


 クライヴは蛇が持つ、ピットと呼ばれる熱探知能力を用いて茂みの中に潜んでいたコカトリスへと先制攻撃を放つ。


 鋭い槍状の尾を茂みに叩き込み、飛びかかろうとしていたコカトリスを貫いてみせた。教官を務めるだけあって、その実力は本物のようだ。


『凄いですね、クライヴさん! カレンママみたいでかっこいいです!』


「ああ、そういえばあの方は蛇の化身だったな。オレたちはただ獣の姿になれるだけだからな……あの方たちには劣るが、いつか実力で追い付きたいものだ」


「カレン様たちみたいに、武器を創造したり超再生能力を備えてたりはしねえからなあアタシらは。ま、再生能力はマジンフォンの機能でなんとかなるから別にいいがよ」


「ま、ムダ話はこれくらいにしとこう。夕方になる前にはコカトリスの狩猟を終えよう、じゃないと夜までに戻れないからな」


 雑談を交えつつ、コカトリスを狩っていくクライヴたち。繁殖期を迎えたコカトリスは、産卵に備え栄養を蓄える必要がある。


 そのため、栄誉豊富な餌を求めてパルフォートの森から出てくることがあるのだ。もし付近を通る街道にまで来てしまうと、計り知れない被害が出る。


 そのため、こうしてある程度数を減らす必要があるのだ。ユウが張り切るなか、彼らに迫る者が一人……。


「さて、神の目からの情報によれば……連中は森の中部まで入り込んでいるようだな。フフ、森は我がテリトリー。奴らを一人残らず狩ってくれよう」


 胸に赤色の下地を持つウロボロスのバッジを身に着けた男が、森の入り口にいた。久音が遣わした新たなる刺客、ワーデュルス・クワイツ。


 初老の男は、白くなりつつある顎ヒゲを撫でながら散歩でもするかのように森へ入っていく。手頃な木を見つけ、そっと手を触れる。


「チート能力、【庭園を守る者ガーデンガードナー】発動。さあ、行くがよいトレントたちよ。我らが敵を惑わし、永遠に抜け出せぬ森の牢獄に閉じ込めてやるがいい」


「オオ……オオォ」


 ワーデュルスが触れた木が蠢き、樹木型のモンスター『トレント』に変化する。トレントは他の樹木を同族に変えながら、ユウたちを追跡する。


「さて、彼らがどう動くかお手並み拝見させてもらおうかな。油断はしない……四人のパラディオンを倒すには、入念な準備をせねばならぬ。フフ」


 ユウたちの元に、新たなる敵の魔の手が伸びようとしていた。

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