第18話─仲間との再会
ムーテューラに送ってもらったユウ。彼がクァン=ネイドラに戻ると……。
『わひゃっ!』
「へぶぇっ!?」
「きゃー! ゆ、ユウくん!? どこから出てきたの!? びっくりしたわあ……」
アパートに戻り、捜索の結果を話し合っているチェルシーの真上に転移していた。彼女を上から潰すような形で落下し、変な声が出る。
一緒にいたシャーロットはあまりにも驚きすぎて、椅子ごとひっくり返ってしまう。が、すぐにチェルシー共々復活を果たす。
「一体どこに行ってたの? 私たち心配したのよ」
『ごめんなさいシャロさん、実は……』
心配させたことを謝った後、ユウは雅に拉致されてからのことを全て話して聞かせる。ユウの話を聞き終えたシャーロットの長い耳が、ピクリと跳ねた。
「……そんなことがあったのね。ユウくん、基地から持ってきた資料を貸してくれる? パラディオンギルドに届けてくるわ」
『はい、これです!』
「ふふ、ありがとう。その後で……ちょっとお父様のところに戻るわ。報告しないといけないことが出来たから。二日もあれば戻ってこれるから、心配しないでねユウくん」
『そうなんですか……シャロさんがいないのは寂しいですけど、チェルシーさんとお留守番してます!』
「おう、ユウの面倒は見とくから心配すんな。チャチャッと行って帰ってこい」
「悪いわね、二人とも。お土産買って帰るから楽しみにしててね」
敵の狙いを知ったシャーロットは、資料をギルドに提出するついでに一度故郷に戻ることを決めた。ユウの頭を撫でた後、部屋を出て行く。
二人残されたユウとチェルシーは、やることも無くなったため冒険者ギルドへ行くことを決めた。冒険者としての仕事も、パラディオンには重要なのだ。主に収入の面で。
「よっし、シャーロットも行っちまったし小遣い稼いでこようぜ! ユウ」
『そういえば、前にシャロさんがお給料が少ないから冒険者活動もしないといけないって言ってました』
「そうなんだよ、この団地に住んでる限りは家賃とか払わなくていいから楽ではあるんだがなあ。そもそもの収入がそんなのに……な」
チェルシー曰く、リンカーナイツの構成員を倒すごとにマジンフォンにデータが蓄積されているらしい。そのデータを元に、毎月末に給料が手渡しされる。
のだが、そのレートが低いのだ。かなりの数がいるカテゴリー1から3は十人倒して銀貨一枚、とかなり少ないのだ。
なお、カテゴリー4以降は一人単位になる。カテゴリー4を一人撃破で銀貨五枚、5を一人撃破で銀貨十枚。6を一人撃破で金貨一枚が収入に加算される。
「カテゴリー4と5はまあまあ見るが、6以上なんて滅多に見ねえからな。とにかく金を稼ぐには、大勢を狩るか副収入に頼らにゃならん」
『意外と大変なんですね、パラディオンって』
「まあな、メシ代以外の生活費やらマジンフォンやマジンランナーのメンテナンス費用はギルドが負担してくれるけどよ。その分基本給は銀貨五枚なんだぜ、あんまり狩れない月は地獄なんだ」
現在ユウたちがいるフェダーン帝国で活動しているパラディオンは、ユウたち三人を含め総勢四百八十五人ほど。
帝都やニムテ等、大都市を中心に配備されている。敵を取り合わないよう、一つの地域に集中し過ぎないよに配属されてはいるが収入面での不安は付き纏うらしい。
「っと、話してばっかりじゃいい依頼取られちまう。行こうぜユウ、顔見せ以来行ってないんだろ? 本格的に冒険者活動開始だ!」
『はい! 本職のパワーを見せちゃいますよ!』
「お? なんだ、ユウは冒険者やってたのか? ならイロハを教える必要はなさそうだな。お手並み拝見させてもらうぜ」
『ボクに任せてください! 前は補助を担当してましたから!』
ラディムに追放されて以来、久しぶりとなる冒険者活動に心躍らせるユウ。そんな彼を連れて、チェルシーも部屋を出て行く。
一方その頃、本部へ報告に行っていた久音は緊急の呼び出しを受け支部に帰還していた。ユウによって機能停止に追い込まれた惨状を見て、怒りをあらわにする。
「はあ……? なにこれ、マジであり得ないんすケド。何がどうなってるわけ?」
『言っただろう、あの小僧は我をはね除け……この基地にいた者らを全て消滅させていった。まったく、とんでもない逸材よな』
「そんなのはど~でもいいし! マジっべー、これ笑えないレベルでまずいんですケド」
唯一消滅を免れた魔魂片ヴィトラから話を聞き、何があったのかを知る久音。楽々目標達成と思いきや、一転とんでもない失態を演じることに。
「っべー、最後まで確認してから報告に行くべきだったわー。これバレたらレオちゃんにめっちゃ怒られるやつじゃ~ん、激なえ~」
主の目的であるユウの確保に成功したどころか、反撃されて基地まるごと一つ壊滅させられた。おまけに機密文書を持ち出されているかもしれない。
もしそうなら、仲間に怒られるだけでは済まない。トップナイトからの降格は確実、下手をすればネイシア直々に粛正されることもあり得る。
なんとしても、仲間にバレる前に再度ユウを捕獲して今度こそ憑依を成功させなければ自分の立場と命が危ういのだ。
「あー……しゃーない、よその支部から引っ張ってくるかぁ。ったく、あのいまいましー薬マンも始末しなきゃならないってのにマジさいあくー」
『嘆く暇があったら働いたらどうだ? ああ、言っておくが我に頼っても無意味だぞ? 今度こそ憑依を成功させるために力を蓄えねばならん、しばし眠るからな』
「ふーんだ、別にあんたに頼るつもりはないし~。ウチの子飼いには、まだまだ強い奴がたくさんいるからへーきだよ~んだ」
そんな会話をした後、ヴィトラはいずこかへと姿を消した。一人残った久音は、ユウへの逆襲をするため行動を開始する。
彼女とユウの邂逅の時は、近い。
◇──────────────────◇
「んじゃ、今日はこの依頼にするか。コカトリスくらいならユウでも狩れるだろ?」
『はい、コカトリスなら狩猟経験があるので大丈夫です! ボクのチートがあれば、石化の魔眼も聞きませんからね』
「おう、頼りにし……って、なんだクライヴ。お前らも副業か?」
「やあ、チェルシー。そういう君もユウくんと一緒にかい?」
冒険者ギルドに行き、依頼を受注しようとしているユウとチェルシー。すると、実技試験でユウの相手をしたパラディオン、クライヴと再会した。
『お久しぶりです、クライヴさん。ボクとチェルシーさんもモンスター退治するところです! ……ところでそちらの方は?』
「ああ、俺のことかい? 俺は
『え、そうなんですか! キヨさんみたいにリンカーナイツに与さない異邦人が他にもいたんですね!』
黒いジャケットと水色のジーパンを身に着けた男、義人は自己紹介をする。やや太め吊り上がった眉毛が特徴的な、物腰柔らかな青年だ。
「ああ、たまたまこの世界に転移した時にクライヴに拾われてね。そこから、恩返しのために戦っているのさ。パラディオンとしてね。どうだい、親交を深めるために一緒に依頼を受けないか?」
「だとよ、どうするユウ。取り分は減るが一緒にやるか?」
『そうですね……じゃあ一緒に行きます!』
少し考えた末に、義人の提案を受けたユウ。同じ日本人同士、仲良く出来る者が増えるのは嬉しいのだ。
「決まりだね、じゃあ一緒に行こうか。実技試験で見せられなかったオレの全力、見せてやるよ」
『はい、楽しみにしてます!』
「俺も楽しみにしているよ。ユウくん、君の実力を間近で見られるんだから」
そんなこんなで、クライヴや義人を加えコカトリス討伐に向かうユウ。新たなパラディオンとの出会いが、戦いを加速させていくことを彼はまだ知らない。
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