第17話─新たなるマガジン
『あれ、ここは……?』
気が付くと、ユウは美しく手入れされた庭園に転移していた。この場所に見覚えがあったユウは、すぐにどこなのか悟る。
『ここは……グラン=ファルダにある神々の薔薇園ですね。どうしてここに』
「そーれーはー、このイミーラが呼んだからなのですよ! お久しぶりですね、ユウ。元気してるです?」
『あ、イミーラさん! あなたですか、ボクをここに連れてきたのは』
ユウが周囲を見渡していると、一人の少女が歩いてくる。白いローブを着た少女、イミーラのことをユウはすでに知っていた。
クァン=ネイドラに旅立つ前、ちょくちょくリオに連れられ神々の住む大地を訪れていたからだ。イミーラはふふんと笑いながら、あるものを取り出す。
「ムーテューラ様から預かってきたですよ、新しく開発したアドバンスドマガジン! 今回渡すのはこの二つ、【ブレイクマガジン】と【トラッキングマガジン】ですよ」
『わあ、ありがとうございます!』
イミーラが持ってきたのは紫と白、二つの拳銃用マガジンだった。ファルダードアサルトの戦力強化を喜び、ユウはお礼を言う。
受け取ったマガジンを、右腰のホルスターに装着する。これで、空きは二つ。メディック、トリック、ブレイク、トラッキング。
四つのマガジンを得て、ユウはとても嬉しそうだ。そんなユウを見て、イミーラも嬉しそうにニコニコしていた。
「マガジンの効果について教えておくですよ。ブレイクマガジンの方は凄まじい破壊力がウリなのです! ただ、かなり隙が出来るのでここぞという時に使うですよ」
『ふむふむ、なるほど』
「で、白い方のトラッキングマガジンはその名の通り弾丸に追尾機能を付与するのです。どんな障害物があっても、サッサッと避けてくれるのです。便利なのです」
『わあ、確かにそれは便利ですね! 神様たちにお礼をしないといけませんね』
「お礼ならもうしてもらってるですよ。みんな喜んでるです、リンカーナイツを屠ってくれて」
実は、ユウがリンカーナイツとの戦いを決意した背景にはグラン=ファルダを束ねる最高神たち……【創世六神】の打診があった。
強い魂の力を持ち、邪悪な存在に狙われるほどポテンシャルがあるのなら。鍛え上げれば強力な戦力になるのではないか、と。
最初はユウを危険な目に合わせたくないと渋ったリオだが、自衛する力を磨く必要があったことやユウ自身の希望もあり、半年間の鍛錬をしたのだ。
『いえ、そんな……まだまだ戦いも始まったばかりですし。それに、ボクよりシャロさんたち先輩パラディオンの皆さんの方がたくさん頑張ってますから』
「ユウは謙虚堅実でいい子ですねー、ムーテューラ様も見習ってほし」
「あ゛? イミーラおめー、見習い女神のクセにずいぶん偉そうなこと言うじゃーん? いつからあーしより上の立場になったーん?」
「ひいっ!? 呼んでもないのに飛び出てきたのです!」
イミーラが愚痴をこぼした瞬間、生け垣の中から紫色のゴスロリドレスを着た女が出現した。頭にミニシルクハットをかぶり、ステッキを突いている。
彼女の名はムーテューラ。創世六神の一角、死を司り死者たちが眠る【鎮魂の園】を管理する【
「おー、久しぶりじゃーんユウ。相変わらずちっこいねー、飯食ってるん?」
『お久しぶりです、ムーテューラ様。新しいアドバンスドマガジンを作ってくれて、ありがとうございます!』
「礼なら工房の連中に言ってちょ、彼らの……はいそこの下克上狙いー、こっそり逃げようとしてもムダだからー」
「はおっ!?」
ムーテューラがユウと話している間に、こっそり逃げ出そうとするイミーラ。が、視界の端に常に相手を捉えていた女神の動きは速かった。
電光石火の速度でイミーラに接近、彼女の尻にステッキを容赦なくブチ込んだ。恐怖のお仕置き、通称『ケツ穴ぶっこ抜きの刑』である。
『うひゃ……』
カエルが潰れた時のような情けない声を出し、イミーラは崩れ落ちる。それを見ていたユウは、そっと自分のお尻を抑えていた。
「もうこっちの用は済んだしー、仲間んとこに送ったげるわ。その方が助かるっしょ?」
『はい、リンカーナイツの基地からニムテまでどれくらいかかるか分からなかったので助かります』
「うんうん、素直でよろしー。では、とんでけー」
聞くだけで気の抜ける、やる気のないかけ声と共にムーテューラはユウを転移魔法でシャーロットたちの元へと帰す。
そのすぐ隣では、昇天したイミーラが転がっていた。
◇──────────────────◇
「ああ……終わりだ。この僕がCランクに降格だなんて……リリアルもゴルンザもいなくなってしまったしどうしたら……」
「元気出せよ、ラディム。今日は俺が奢るからさ、パーッとやってつらいこと忘れようぜ?」
その頃、ワイバーンの討伐に失敗したラディムはドン底に落ちていた。これまで前例の無い二ランク降格処分を言い渡され、仲間もどこかに去った。
同業者たちやギルドの職員から後ろ指を刺され、誰からも冷たい目で見られる日々。残ったのは、新たな仲間である智明だけ。
「トモアキ……君はいい奴だよ。薄情なゴルンザたちとは違ってね」
「
「ありがたいね、それじゃあいただくよ」
金の尽きたラディムと智明は、以前からは考えられないぼろ宿を拠点にしなければならないほど落ちぶれていた。
それでも、生きていればなんとかなる。智明が差し出した小さな酒ビンを受け取り、そう考えたラディムだったが……。
「うん、美味しいねぇ。こんな気分の時は酒を……の、む……? なんだ、身体が痺れ……」
「あっさりひっかかったな、バカな奴だ。しびれ薬を盛ってあるのさ、他の二人みたいに何の疑いもなく飲むとはな」
「なん、だと……? お前、ゴルンザとリリアルに何をした……」
「あいつらは一足先に
蓋を開け、一気飲みするラディム。直後、立っていられなくなり倒れてしまう。それまでの気さくな雰囲気を引っ込め、智明は嘲笑する。
そして、懐から取り出したリンカーナイツのメンバーの証たるウロボロスのバッジを胸に付ける。下地の色は銀、彼が【カテゴリー6】であることを証明していた。
「リンカー、ナイツ? なんだそれは、そんなのは知らないぞ……」
「そりゃそうだ、こことは別の世界にある組織だからなぁ。そして、俺はその組織に属する素材確保担当ってわけ」
「素材……?」
「ああ、いろんな人体実験をするために必要なものを集めるのが俺の仕事さ。安心しろよ、すぐに仲間のところに送ってやるから。ハハハハ!!」
「やめ、ろ……離せ! 僕をどこに……ぐふっ!」
身体が痺れ、動けないラディムの脇腹に蹴りを叩き込んで気絶させる智明。魔法のロープで拘束した後、あらかじめ用意していた袋に詰める。
「これでよし、と。三人も送りゃあ、宇野先生も満足するだろ。これで【アストラル計画】が進みゃあいいんだがな」
そんなことを呟きながら、智明は袋を担ぎ宿の客室を出て行く。この日、ラディムはドン底へと落ち……そこで思い知ることになる。
ドン底を超えたさらに下、地獄の釜の底すらも突き抜けた場所にあるおぞましい世界の存在を。そして、そこで終わることのない苦痛を味わうことを。
身勝手な理由でユウを追放した彼に待ち受けていたのは、凋落の苦痛と想像を絶する絶望だった。
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