第16話─覚醒! 銃魔神ユウ!

「ぐっ……やってくれたね! もう手加減はしない、手足の一、二本はへし折らせてもらうよ! 食らいな、ドラゴンスタンプ!」


『そんなもの、当たりませんよ! チェンジ!』


【トリックモード】


「増えただと!? まあいいさ、本物だろうが偽物だろうが踏み潰すだけさ!」


 反撃を食らい、激昂する雅。対するユウは、アドバンスドマガジンを取り替え反撃に出た。分身を五人呼び出し、相手を撹乱して攻撃を不発に終わらせる。


 分身が一人犠牲になったものの、本物含めた残りのユウは四方に散らばり相手を包囲することが出来た。銃を構え、一斉射を放つ。


『今です、てー!』


『こゃーん!』


「ハッ、そんなチャチな弾丸が今の私に効くとでも思うのかい? ムダだよ、竜の鱗にそんな攻撃は無意味なのさ!」


『! ほ、本当に効いてない!?』


 だが、竜の力を得た雅にはまるで効果がない。元々トリックマガジンの攻撃力が低いことも手伝って、全くダメージを与えられていないのだ。


 こうなれば、アドバンスドマガジンをまだ二つしか持っていないユウに出来ることは一つ。分身たちと協力し、一斉攻撃をブチかますのみ。


『なら……こうしちゃいます! 行きますよみんな!』


『こゃーん!』


【レボリューションブラッド】


『食らいなさい! シルバーテイルドリラー!』


 残った四人の分身と共に、必殺の一撃を放つ。これなら効く……と思われたが、雅は翼を広げ天井近くへと飛んで逃げていく。


 すでに神の目によって、彼女はユウの奥義の弱点を見抜いていた。一度放った後は、軌道修正が利かないというウィークポイントを。


「悪いねえ、その技はもう見てるのさ。ほおら、自分たちで仲良く自爆しな!」


『!? ま、まずい! 止まらな……わひゃっ!』


「上手く逃げたね、でも無意味だよ! ドラゴンアクセル・スタンプ!」


 相手が逃げたことで、分身たちとぶつかることが確定してしまう。辛うじて本物のユウは奥義を解除、離脱出来たが分身たちは自爆してしまった。


 ホッと安堵する間もなく、頭上から雅が飛来する。今度は直撃を食らってしまい、吹き飛ばされたユウは床に叩き付けられた。


『う、ふぐう……』


「ハッ、弱いねえ。所詮井の中の蛙、大海を知らないガキがイキっても無意味なのさ。もう諦めなよ、お前なんかじゃ私には勝てないからね」


『ボクじゃ……勝てない……』


 雅の言葉に、心が折れそうになるユウ。だが、それでと折れることはない。それだけ、少年の決意は固く強いのだ。


 溢れる涙を拭い、ふらふらしながらも立ち上がる。魔神の一族に連なる者として、クァン=ネイドラを守るパラディオンとして。


 諦めない強い闘志を胸に、ファルダードアサルトを雅に向ける。


『何を言われたって、ボクは諦めない! ボクだって、ボクだって……みんなを守れる、ヒーローになれるんだ! そのために……ボクはここにいるんです!』


「フン、しぶといね。いいさ、次の一撃で気絶させてあげよう。覚悟しな!」


『そんな覚悟はしません! パパたちがそうだったように……ボクも戦う! この命尽きる、その時ま……!?』


 雅の言葉に反抗し、叫んだその時だった。ユウの身体を形作るリオの血が、ついに完全に馴染んだのだ。まるで、彼の決意を認めたかのように。


(感じる……ボクの中にある、パパの想いを。今ならきっと、ボクもシャロさんたちのように……獣の力を使えるかもしれない)


「何をボケッと突っ立ってるんだい? まあいいさ、その方が仕留めやすいからねえ! さあ、終わりにしてあげるよ! ギガ・ドラゴンスタンプ!」


 全身に力を溜め、飛翔する雅。対するユウは、雑念を追い払い目を閉じる。そして、己の内に生まれ出でた力を呼び起こす。


 そのために必要な言葉を、力の限り叫びながら。


『今……魔神の力を解き放つ時! ビーストソウル・リリース!』


「さあ、食ら……なにっ!? うわああっ!!」


 ユウが叫んだ直後、彼の目の前に拳銃のアイコンが納められた銀色のオーブが出現する。オーブを取り込んだ直後、銀色の旋風かぜが吹き荒れる。


 凄まじい風に煽られ、墜落する雅。地に落ちた彼女は、吹き荒れる風の中に見た。その姿を変え、【銃の魔神】と化したユウを。


『これが、ボクの……獣としての……いや、魔神としての新しい姿……!』


 ユウの髪が長く伸び、腰まで届くロングヘアとなった。さらに、両脚の膝から下が狐の脚に似た重装甲で覆われている。


 さらに、左腕も肘から先が巨大なサブマシンガンとなったファルダードアサルトと一体化していた。銃身の根元には、右手で操作出来るようマジンフォンが埋め込まれている。


「な、なんだいその姿は……! それにこの神々しさとおぞましさが混じった魔力……まさかお前は!」


『そうです、ボクはパパの血と完全に融合し……新たなる魔神になったんです。さあ……ここからが本当の戦いですよ!』


 驚愕する雅に、ユウがそう口にした直後。銃身の下部に、青色に輝く銃剣が出現した。斬撃と銃撃、そして体術による打撃。


 三位一体の攻撃方法を手に入れたユウによる、反撃が始まった。目にも止まらぬ速度で突撃し、銃剣による斬撃を叩き込む。


『今なら、その鱗も切り裂けるはず! ブルータルストラッシュ!』


「うぐあっ! クソッ、さっきまでベソかいてたクセに調子に乗るな! また大泣きさせてやる!」


 強烈な斬撃を叩き込まれ、ついに竜の鱗に亀裂が走った。よろめきながら後退した雅は、自身のチート能力を使い認識されないようにする。


 再びユウの背後に回り込み、不意打ちを食らわせようとするが……。彼女は理解していなかった。魔神として真なる覚醒を果たしたユウに、そんな小細工は効かないのだと。


『見切った、そこです!』


「ぐうっ! 何故だ、認識阻害で私の居場所が分かるはず……」


『存在を認識出来なくしたところで、お前のすることは後ろに回り込んでの不意打ちか離れてブレスの乱射くらいしかないですからね。あらかじめ身構えておけば、姿が見えたところをカウンター出来ます!』


「そんなことが出来るわけ……うがっ!」


 ユウは振り返りざまに左腕を振るい、雅に裏拳を叩き付ける。よろめく相手に、右手による正拳突きの追撃を放った。


 もはやチートは通用せず、竜の鱗でもユウの攻撃を防ぎきれない。そう判断した雅は、翼を広げ飛翔しようとする。


「くっ、冗談じゃない! こんなところで消されるわけにはいかないんだよ、私はもっと生きて」


『そうはさせません! お前のような悪人は逃がしませんよ! この大地の人たちに、もう二度と悪さ出来ないように!』


【レボリューションブラッド】


「がはっ!」


 相手の動きに合わせ、跳躍したユウはオーバーヘッドキックを叩き込んで雅を墜落させる。そして、左腕のアームキャノンに内蔵されたマジンフォンを起動した。


 すると、銃剣部分が清らかな青い光に包まれる。腰だめに構えたユウ、起き上がらんとする雅目掛けて勢いよく走る。


『これでトドメです! 奥義、デッドエンドストラッシュ!』


「う、ぐ……! 久音様、申し訳……あり……」


 通り過ぎざまに左腕を振るい、雅を斜めに両断するユウ。彼女の胸と背中に【銃の魔神】のシンボル、銀色の円に囲まれた狐の顔の模様が刻まれた。


 直後、雅は銀色のチリとなって崩れ去った。強敵を打ち破ったユウは天井の穴の下に立ち、勢いよく跳躍する。


『こゃん! さて、一階に戻れましたし……』


【4・4・4・4:ソウルデリート】


『伸びてる人たちもみんな浄化して、ついでに機密文書でもいただいていっちゃいましょう!』


 元いたフロアに戻ったユウは、気絶しているリンカーナイツのメンバーたちを消滅させていく。その後、めぼしい資料がないか基地じゅうを探し、いくつかの機密ファイルを手に入れた。


『基地にいた敵も全滅させましたし、帰りましょうか! ……でも、ニムテからどのくらい離れてるんだろう……』


 意気揚々と帰還しようとしたユウだが、ふとそんなことを考えちょっぴり不安になる。その時、少年の足下に白い魔法陣が現れた。


『あー、やっと見つけたですよ北条ユウ! いきなり反応が消えるから探すのに苦労したのです! さっさと来るですよ、神々の大地【グラン=ファルダ】に!』


『え? え!? わひゃー!?』


 魔法陣の中から少女の捲し立てるような声がしたと思った途端、ユウはどこかへと転送されてしまった。その様子を、処置室に残ったヴィトラの魂が遠隔視していた。


『……覚えているがよい、北条ユウ。今回はしくじったが次はこうはいかぬぞ。必ずや貴様の肉体を奪い、この我が……【終焉の者フィニス】として復活を遂げてくれるわ!』


 ユウへのリベンジを誓いながら。

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