第14話─風雲急、攫われたユウ
「ありゃ~、パセルナに行かせたB部隊の反応消えてんじゃ~ん。そのっちがいて全滅とか~、マジありえんてぃ~なんすケド~。激萎え~」
ユウたちが活動している国、『フェダーン帝国』の南部にあるリンカーナイツの支部にて。監視装置を見ていた久音は、部隊の全滅を知る。
何者に倒されたのかを確認するため、神の目を用いて録画された映像を再生した。映し出されたユウたちを見て、面白くなさそうに口を尖らせる。
「あのちみっこ、やってくれるじゃ~ん。あの村に住んでる反逆者は早いとこ潰したいんよねぇ……。ど~しよっかな~、二方面作戦やっちゃおっかな~」
「でしたら、わたくしめにお任せください永宮様。必ずや、例の少年を捕らえてみせましょう」
「およ? 来てたんだ~とざっち。確かに~、カテゴリー5のとざっちならやれるかもね~」
モニターに映し出された映像を見つめ、ブツブツ言っていたその時。監視室の中に、いつの間にか一人の女が現れていた。
ぴっちりした黒いボディスーツの上から赤いハーフパンツを履いた女は、ガッツリ剃り込みを入れた髪を触りながら進言する。
「んじゃ~、とざっちに任せるわ~。誰かもう一人捕まえて、そっちにあの村潰させるからちみっこはよろしこ~」
「はい、お任せください。この
「ほ~い、よろ~」
一礼した後、雅と名乗った女は監視室を後にする。ユウへの刺客を送り込んだ久音は、清貴の元に送り込む者の選定に移るのだった。
◇─────────────────────◇
『え、帝都へ行く……ですか?』
「ええ、あと数日ほどニムテで活動したら一旦【帝都ティアトルル】に行こうと思うの。この国を束ねる女帝、クラネディア陛下へのご挨拶にね」
「今頃首を長ーくして待ってんじゃねえか? あの人異邦人好きな変わり者……おっと、この発言はオフレコにしといてくれよ? 首刎ねられちまうからな」
清貴と会った次の日、パラディオンギルドの近くにある小料理屋で朝食を食べていたユウはシャーロットとチェルシーからそんな話を聞かされる。
現在ユウがいる国、フェダーン帝国はクァン=ネイドラ七カ国の中で第二位の国力を持っている。それゆえに、リンカーナイツの侵攻も激しい。
対抗するには、パラディオンたちの協力が不可欠。そのため、女帝自らがスポンサーとなってギルドやパラディオンたちを支援しているのだ。
「ま、そういうわけでよ。礼を兼ねてユウの顔見せをな」
「フェダーン支部に配属された者は、陛下に顔を覚えてもらうのが習わしなのよ。ユウくんの場合は、大地の生活に慣れてもらうのに少し時間をかけさせてもらったからちょっと遅くなるけどね」
『そうなんですね、ちょっとドキドキします……。どんた方なんでしょうか』
「そんな緊張する必要はないわ、陛下は……うん、少なくともユウくんのトラウマを刺激するような方ではないから」
四日後には、三人連れ立ってティアトルルに行く予定のようだ。どんな出会いになるのか、期待と不安がない交ぜになったユウは尻尾を振る。
『四日後が楽しみですね、シャロさんにチェルシーさん。帝都はどんな場所なんでしょうか……』
「ニムテよりでけぇぜ、ティアトルルは。迷子にならねえように、今のうちに地図を見ておくか?」
『そうですね、その方が……?』
話をしていたその時、ユウの鼻が不思議な匂いを捉えた。もっと匂いを嗅ぎたい、という気持ちが心に溢れ、ユウはふらふらと店を出てしまう。
「ユウくん? どうしたの? どこに行くの?」
「なあ、なんか様子がヘンじゃねえか? とりあえず追おうぜ、なんか嫌な予感がすんだよ」
心ここにあらずといった感じで、店を出て行くユウを追うシャーロットたち。だが、店を出たところでユウを見失ってしまった。
「あれ!? おかしいな、ついさっきまでそこにいたはず……」
「ダメね、マジンフォンのサーチ機能にも表示されないわ。手分けして探しましょう、あなたは先にギルドに報告を!」
「分かった、その後アタシは街の西と南を探す! 北と東は任せたぞ!」
「ええ!」
ユウを見つけるため、捜索を開始するシャーロットとチェルシー。そんな彼女たちのすぐ側を、悠々と通り過ぎる者がいた。
自身のチート能力【
(フッ、チョロいな。獣人相手によく効くこの心神喪失の香と私のチートがあれば、子ども一人の誘拐など簡単だ。暗殺にも使えればよかったのだが……まあ、贅沢は言うまい)
雅のチート能力は、自身と自身が触れているものを誰からも認識出来ないようにする隠密特化型だ。なのだが、一つ欠点があった。
能力が発動している間は、直接的・間接的かを問わず他者の肉体を傷付ける行動が不可能になる。仮にそういう動きをしようとしても、身体が動かなくなるのだ。
(さて、早いとこ街を出てアジトに戻ろう。そうすればミッションコンプリートだ)
だが、こうやってターゲットを誰にも気付かれずに拉致するのには最適な能力だ。雅はこの能力を使い、これまで何人も拉致してきた。
アジトに敵の要人を攫った後で、じっくり時間をかけて始末する。それが彼女のやり方なのだ。
◇──────────────────◇
『う……あれ? ここは……』
「お目覚めってやつぅ~? こんちゃ~、チミがホージョーユウくんだね~? ウチは永宮久音、リンカーナイツの幹部だよ~ん」
『! お前が……ということは、ここはリンカーナイツの基地ですね? こんなところにボクを連れてきて何をするつもりなんですか!』
しばらくして、心神喪失状態から回復したユウ。気が付くと、分娩台のような装置に固定され動けないようにされていた。
目の前には、紫色に輝く人魂が入った筒を持った久音がいた。リンカーナイツのアジトに拉致された、そう気付くももう遅かった。
「ん~? チミにはねぇ~、この【魔魂片】を埋め込んじゃうんよ~。で、
『ある存在……?』
「ま、チミが知る必要はないんで~、サクッと植え付けちゃいま~す! ほ~ら出ておいで~、【魔魂片ヴィトラ】! 器をあげるよぉ~」
ユウは暴れて逃げようとするも、ガッチリ四肢を固定されており逃げられない。マジンフォンもファルダードアサルトも取り上げられ、手元にはない。そんな少年を前に、久音は筒の蓋を開ける。
すると、人魂が素早く外に出てユウの胸の中に飛び込んだ。直後、ユウの身体が熱を帯びる。
『う、ああああ!!』
「後は適合するのを待ってぇ~、あの方に引き渡すだけだねぇ~。いや~、こんなに早く目的達成しちゃうなんてウチってばチョーユーノー! キャハハハ!」
苦しむユウを放置して、久音は処置室を去る。一人残されたユウは、全身を襲う高熱により苦悶の声をあげる。
『う、ううう……』
『苦しいか? 苦しいだろう、我が器よ。楽になる方法があるぞ、教えてやろうか?』
『だ、だれ……? ボクに話しかけてくるのは……』
『我は魔魂片ヴィトラ。遙か昔、英雄たちによって滅ぼされた【終焉の者】の魂のカケラ。お前を器とし、終焉の者としてよみがえらんとする者よ』
苦しむユウの耳に、妖艶な女の声が響く。少年の肉体に溶け込んだ人魂……魔魂片ヴィトラなる存在が語りかけてきているらしい。
『終焉の者……それって、パパが言ってた……』
『そうだ、あらゆる世界を滅ぼし全てを無へと帰すモノ。それこそが我の本体。無数のカケラとなりし魂が今……』
『そんなこと、させません! そう簡単にボクをいいなりに出来るなんて思わないでください!』
『!? な、なんだ……この強い魂の輝きは! これほどまでに……バカな、有り得ぬ!』
ネイシアがユウを器にすべく目を付けた理由。それは、彼の魂が持つ強い輝きだ。強い力を持つ魂に魔魂片を融合させることで、元の強大な魂に復元する。
それこそが、ネイシアの狙いだった。だが、彼女ですら読み違えていた。ユウの持つ魂の輝きは、想定を超えた強さであったことを。
『ぐ、う……ああああ!! バカな、この我が……逆に調伏されようとしている……だと!? そんなことが起こるわけが……!』
『ボクは、この大地をリンカーナイツから救うために来たんです! こんなところで、負けるわけには……いかないんです!』
『ぐっ、ホザきよる……。よかろう、ならば我と貴様、どちらの魂の力が勝つか試させてもらおうではないか!』
肉体の支配権を賭け、ユウとヴィトラのぶつかり合いが始まる。魂の戦いを制し、相手を支配するのは果たして……。
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