第13話─敵じゃない異邦人

 園部裕次郎を撃破したチェルシーは、変身を解きしばし休憩する。すると、そこにユウが走ってきた。向こうも戦いが終わったようだ。


『チェルシーさ~ん! 無事ですか~!?』


「お、ユウ。こっちは楽なもんだったぜ、そっちの首尾はどうだ?」


『はい、一人残らず分身シルバーテイルドリラーでえいやっ! てしてやりました!』


「そーかそーか、ユウは強いな! じゃ、今回はユウの勝ちだな、うんうん」


『ってことは……ご褒美! 嬉しいです!』


 えっへんと胸を張りながら報告するユウを可愛いと思いつつ、チェルシーはそう口にする。彼女は褒めて伸ばすタイプなのだ。


 自分が勝ったということは、ご褒美が貰える。目を輝かせるユウを見て、思わず口元がニヤけそうになるのをチェルシーはどうにか抑える。


(くぅー、こいつ可愛いな! あのリオ様の息子だってんだからまあ、愛くるしいのは当然だよなぁ。あー、この大量の尻尾モフってやりてぇ~)


 そんなことを考えていると、バイクの駆動音が近付いてくる。音がする方を見ると、マジンランナーに乗ったシャーロットがやって来た。


「ユウくーん、チェルシー。そっちは無事かしら?」


『はい、ボクたちは無傷です! 悪い奴らをえいやってやっつけてやりました!』


「うふふ、そう。ユウくんは偉いわねー、いいこいいこ」


『えへへ……』


 マジンランナーから降りたシャーロットは、嬉しそうに報告するユウの頭を撫でる。それを羨ましそうにチェルシーが見ているのに気付き……。


「あら、あなたもなでなでしたい? ならさせてあげるわ、はいどうぞ」


「おめぇなー、ユウはモノじゃねえんだぞ。でもまああれだ、ユウがなでなでしてほしいってんなら? 撫でてやらなくもないぞ?」


「なんでムダにツンデレしてるのよあなたは」


『じゃあ、チェルシーさんにも撫でてほしいです!』


 声をかけると、照れ臭いのかツンデレな反応が返ってきた。ユウ自身の希望もあり、せっなくなのでなでなでしてもらうことに。


『わー、チェルシーさんの手凄く大きくてゴツゴツしてます! カレンママを思い出しますー』


「カレン……ってーとあの【鎚の魔神】か。アタシなあ、あの方に憧れてんだよなー。得物も同じハンマーだしよ」


「豪快でパワフルなファイトスタイルもそっくりだものね。ま、あの方は純オーガであなたはゴブリンとのハーフって違いはあるけど」


『え、そうなんですか?』


「おうよ、アタシはオヤジがゴブリンでな。ぶきっちょなのが多いオーガん中じゃ、手先が器用だってんで故郷じゃ有り難がられてたんだぜ」


 そんな世間話をした後、ニムテに帰還……はまだしなかった。パセルナの村に、シャーロットが用事があるのだという。


「ついさっき、ギルドから追加の指令が出たの。村にいる『裏方』から、薬を貰ってきてくれって」


「あー、アイツからか。凄えんだよな、アイツの薬はよ。どんな病気も怪我も飲んだらあっちゅー間に治るんだから」


『そんな凄い薬剤師さんがいるんですか?』


「ええ、しかもユウくん……あなたと同じ異邦人よ」


 どうやら、パセルナに住んでいるのは味方側の異邦人のようだ。初めて敵ではない同郷の存在に会えるとあって、ユウは期待半分不安半分な面持ちだ。


 果たしてどんな人物なのか、薬の調達を兼ねて会いに行くことに。それぞれの乗り物を呼び出し、シャーロットを先頭に村へ向かう。


『うわあ、のどかな村ですね。一段と空気が澄んでて美味しいです』


「空気もそうだがよ、ここは水が名物なんだ。味のいい水が湧いててな、よく商人が買ってくんだ」


「今から会いに行く人も、よく使ってるのよ。さ、ついてきて」


 シャーロットとチェルシーに案内され、ユウは村の一角にある薬屋に向かう。店の入り口の上には、『神宮寺薬店』と書かれていた。


「ごめんくださーい、キヨさんいるかしら?」


「やあ、久しぶりだねシャロちゃん。今日はチェルシーちゃんも……おや? 見ない顔だね。ああ、君が昨日通達があったユウって子かな?」


 店に入り、シャーロットが呼びかけると奥の方から一人の青年が歩いてきた。長めに伸びた黒髪を結い、白衣を着た物腰柔らかな人物だ。


 ユウに気付くと、微笑みながらそう尋ねてくる。ユウが頷くと、白衣の青年は自己紹介を行う。


「僕は神宮寺清貴しんぐうじきよたか、みんなからはキヨさんって呼ばれてる異邦人さ。よろしくね、ユウくん」


『はい、こちらこそよろしくお願いします! あの、神宮寺さんって物凄い薬剤師さんなんですよね?』


「はは、そんなかしこまらなくていいさ。キヨさんでいいよ。薬についてはね……確かに、簡単なものなら自作するけど大半は僕のチート能力で作るのさ」


「ええ、キヨさんのチート能力【普遍的な水薬ジェネリックアクア】は凄いのよ。どんな病気や怪我も、飲めばたちどころに治るからね」


「本来なら外科手術が要るような病気や怪我さえも、時間はかかるけど薬を飲むだけで治るんだよ。ま、そのためには質のいい水が必須なんだよね」


 青年……清貴の言葉を受け、ユウは驚くと同時に納得する。清らかな水が湧くパセルナは、ニムテから近いのも併せて彼が住むのに理想的な場所だ。


 そんな時、店の中に村の住人が入ってきた。ユウたちに会釈した後、清貴に話しかける。


「キヨさん、隣村から薬が欲しいって親子連れが来てるよ。なんでも、娘さんがえらい熱を出したとかでなぁ」


「なるほど、少し待っててくれるかい? 今薬を持ってくるから」


「いつも済まねえなあ、キヨさんが来てくれてから村のみんなもよその人らも大助かりだよ」


「気にしないでいいよ、僕は日本にいた頃軍医をしてたからね。命を救うのが最優先なだけだよ。はい、これを持って行ってあげて」


「ありがとなあ、キヨさん。先客さん、悪いね。ごゆっくりどうぞ」


 カウンターの向こうにある棚にしまってある薬を取り出し、村人に渡す清貴。お礼を言った後、村人は出て行った。


『キヨさんって、お医者さんだったんですね!』


「うん、自衛隊所属の医者として紛争地帯に派遣されててね。毎日多くの難民を治療していたんだ。でも、ある日……武装勢力が難民キャンプを襲ってね」


 ユウの言葉に頷き、清貴は自分の過去を話す。彼は武装勢力の兵士に狙われた難民を守るため、その身を投げ出し……凶弾に倒れたのだ。


「医者の誇りにかけて、目の前で誰も死なせない。そう思って無我夢中で飛び出して、自分が死んでたら世話ないよねえ。はは」


「笑い事じゃねえだろうよ、キヨさん。でもよ、キヨさんがリンカーナイツに加わらなくて助かったぜ。なあシャーロット」


「そうね、キヨさんほどの好漢を敵にしたくはないもの」


「はは、人の命を救うのが使命だからね。リンカーナイツなんて無法な連中に貸す手はないよ。あんな連中は、一刻も早く壊滅してほしいと願ってるよ。同じ地球人として、本当……恥ずかしい限りだ」


 謎の存在によってクァン=ネイドラに導かれた清貴は、他の者たちのようにリンカーナイツに与することはなかった。


 それどころか、命を奪う彼らを嫌い自らパラディオンギルドに掛け合い協力を申し出たのだ。今では、彼の薬のおかげで大勢の命が助かっている。


『ボク、尊敬しちゃいます! キヨさんって、とっても立派な方なんですね!』


「はは。そんな面と向かって褒められると、恥ずかしくなるねえ。こればっかりは、いつまで経っても慣れないや。ところで、何か入り用かい? 顔を見せに来ただけじゃないだろう?」


「ええ、ギルドに依頼されて薬を貰いに来たの。いつもみたいに、お金は後納させてもらうわ」


「うん、それなら店の裏に用意してあるよ。……僕は君たちのようには戦えないけど、代わりに裏から支援をするよ。一つしかない命を大切にね、みんな」


『はい!』


 清貴の店から出た三人は、裏手に回り薬が大量に入った木箱三つを運ぶ。ギルドからの依頼があった時に備えて、常備されているらしい。


 魔法で小さくした木箱をマジンランナーに積み終えた三人は、今度こそニムテへと帰還する。だが、この時彼らはまだ知らなかった。


 トップナイトの一人、永宮久音がユウの身柄の確保と並んで……清貴の抹殺を最優先事項として作戦を進めていたことを。

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