第12話─激突! チェルシーVS裕次郎!
「ソノベだかソノダだか知らねえが、アタシのハンマー『ジャガーノート』でミンチにしてやるよ!」
「やれるもんならやってみろよ。ほら、腕っ節が自慢なんだろ? かかってこいよ」
「余裕だな、先手は譲るってか? その慢心を悔いながら死ね! ビーストクラッシュ!」
腕を組み、仁王立ちした裕次郎は余裕の表情でチェルシーを挑発する。カチンときたチェルシーは、勢いよく跳躍した。
ハンマーを振りかぶり、大きく身体を仰け反らせてから全力を込めて振り下ろす。裕次郎の脳天に叩き込み、押し潰そうとするが……。
「!? 全く効いてねえだと……? テメェ、どんなカラクリを使ってやがる?」
「バァカ、自分からタネを明かす奴がどこにいるんだよ。次はこっちの番だ、死ねトラ女!」
ハンマーを食らっても、裕次郎は傷付くどころかよろめきすらしない。魔法でジャマダハルを呼び出し、右腕に装備して突き出した。
心臓を狙って放たれた一撃を身体を捻って避けたチェルシーは、腰から生えた尻尾で相手を押し反動で後ろへと跳ぶ。
「あぶねえあぶねえ。ま、いいさ。体力も魔力も、ユウのおかげでたっぷりあるからな。じっくり暴いてやるよ、テメェのインチキの正体をな。それと、今のアタシはジャガーだこのマヌケ!」
「そんな暇をくれてやるとでも? ジャマダハル二刀流で穴だらけにしてやるよ!」
もう一つジャマダハルを呼び出し、左腕に装備した裕次郎は一気呵成に攻めかかる。連続突きで猛攻を仕掛け、反撃を許さない。
対するチェルシーは、二メートル超えの巨体を軽々と躍らせ攻撃を避けていく。ネコ科の獣特有のしなやかな体捌きを会得しているのだ。
「ハッ、そんなすっトロさじゃアタシにゃ当たらないね! そらっ、反撃だ! ストロングスイング!」
「バカが、当たっても効かねえってんだよ!」
「ッチ、めんどくせえな……これだから異邦人相手にすんのはダルいんだよなぁ!」
攻撃の隙を突いて反撃するも、またもやノーダメージで終わってしまう。相手の蹴りを食らって後退したチェルシーは、本格的に謎解きを始める。
(多分、あいつのチート能力が関係してんだろうな。つーても、カテゴリー4ならそこまで無茶苦茶なモンじゃねえはず。さて、攻撃が効かねえカラクリはなんだろな……?)
先輩パラディオンとして、ユウが加勢しに来るまで手こずるのは避けたい。そう考えたチェルシーは、軽めの攻撃を叩き込みながら観察を行う。
しばらく攻防が続くなか、チェルシーは
(んん? コイツ……今
「どうした? さっきから攻撃がワンパターンになってるじゃねえか。所詮は未開種、オレたち選ばれた異邦人にゃあ勝てねえんだよ!」
「気に食わねえな、その選民思想がよ。選ばれた存在だとかホザいてるが、テメェらの大半は元いた大地じゃあどうせ負け犬だったんだろ? チートでイキってるだけのクズじゃねえか!」
「……なんだと?」
チェルシーの挑発を受け、それまで余裕に満ちていた裕次郎の顔付きが変わった。異邦人は、大きく分けて二つのタイプがある。
地球にいた頃から成功していた者と、落ちこぼれだった者だ。後者ほど、リンカーナイツに加入し悪事を働く者が多い。
負け組だった自分が大暴れし、存分に地球にいた頃の鬱憤を晴らせるからだ。そして、裕次郎もそんな落ちこぼれだった。
「お? ホントのこと言われたからカチンときたんだな。やっぱ、誰でも図星突かれたらキレ」
「黙れ! オレをバカにする奴は誰だろうと許さねえ! オレは【あのお方】に選ばれたんだ、薄汚え未開種を潰すための転移者として!」
日本にいた頃の裕次郎は、落ちこぼれサラリーマンだった。日々仕事のミスをしては上司に怒られ、同僚たちには陰口を叩かれ。
年齢=彼女無しで友人もおらず、趣味と言えるものもない。そんな彼がトラックに轢かれ、命を落とそうとした時……選ばれたのだ。異邦人として。
『おお、可哀想に。不遇な人生を歩んだ者よ、お前にわらわがセカンドチャンスを与えよう。わらわの授けるチートを使い、異世界にはびこる未開種たちを蹂躙してやるといい。ホホホホホ!!』
「そうさ、オレはテメェらをチート能力【
「ハッ、やっすい手に引っかかりやがったな。まずはボロを出させる作戦がまんまと成功したぜ!」
「テメェ、謀りやがったな!」
相手の能力を攻略する最初の一手として、チェルシーはまず自爆を誘った。挑発して能力名を暴露させ、自分の推測が正しいかを確かめたのだ。
その結果、チェルシーは自分の考えがある程度当たっていたことを確認しニヤリと笑う。あからさまに動揺する裕次郎に、自信たっぷりに問いかける。
「テメェのチートの正体を当ててやろうか? アタシの攻撃のダメージを魔力に変換して無効化しちまう……そうだろ?」
「チッ、この際だから暴露しても問題ねえか。ああ、そうさ。だが少し違うな、変換された魔力は……」
そこまで言ったところで、裕次郎の身体に変化が起こる。突如筋肉が膨れ上がり、スーツの上半分が破れたのだ。
鋼のような逞しい筋肉を見せ付けながら、裕次郎はニィッと笑う。チェルシーが驚いていると、得意気に話を続けた。
「こうやってオレの肉体を! 強化するのに使えるってわけだァァァァ!!」
「ふーん。だがよお、必要以上に膨れ上がった筋肉なんてスピードを殺しちまうんだぜ? なんでも適量ってモンがあるのさ。ま、パラディオン側の異邦人の受け売りだけどな」
「フン、所詮は受け売りだろうが。そんな薄っぺらい理論じゃオレには勝てねえんだよ!」
「ああ、だからアタシは
お互いの得物を構え、足を止めての殴り合いを演じるチェルシーと裕次郎。チェルシーの攻撃が叩き込まれる度に、少しずつ相手の筋肉が強化されていく。
「ここからはもう出し惜しみしねえ、筋肉を強化しまくって潰してやるよ!」
「いいぜ、それこそこっちの狙い通りだからな! オラッ、もっとそのぜい肉膨らませろや!」
筋肉が強化されたことで、パワーが上がっていき風圧だけでよろめきかねない事態になるチェルシー。それでも、彼女は攻撃を続ける。
相手のジャマダハルを二つとも砕き、武器を奪った上でひたすら殴る。その度に裕次郎の筋肉が膨れ上がっていくが……。
「ぐっ、テメェ……! やべぇな、これ以上は……」
「へっ、筋肉風船ももう限界か? そうだよなあ、それ以上膨れ上がったらもうパァン! って弾けちまいそうだもんな?」
魔力を無限に吸収・変換出来ても筋肉の強化には限界がある。早くからそれを見抜いていたチェルシーは、あえて猛攻を加えていたのだ。
調子に乗った裕次郎がどんどん魔力を筋肉に変換するよう仕向け、素早く限界を迎えさせるために。こうなった以上、もうゲームエンドだ。
「チッ、舐めるなよ! 確かにこれ以上は無理だ……だが! テメェをくびり殺すのは容易いんだよ!」
「おう、やれるもんならやってみろ。その前にアタシがテメェを潰すがな! てやっ!」
そう叫んだ後、チェルシーは勢いよく回し蹴りを放つ。裕次郎は脚を掴み、ニヤリと笑う。捕まえてしまえばこっちのものだ、と。
「ハハハ! バカな奴め、こんな脚もぎ取って」
「残念、それは無理な話だ!」
【レボリューションブラッド】
「なにっ……ぐおおっ!?」
その瞬間、チェルシーはケースに収納していたマジンフォンを操作し血を進化させる。すると、裕次郎に掴まれている脚部から緑色の魔力の杭が射出された。
杭が胸板に食い込んだ裕次郎は、射出の勢いで後退させられる。ニヤリと笑ったチェルシーは、ハンマーを構え跳躍した。
「こいつでフィニッシュだ! 奥義、タイタンズハンマー!」
「う、ぐ……あがああああ!!」
チェルシーの動きに連動し、杭が上を向く。強制的に仰け反らされた裕次郎は、筋肉が肥大化しているのもありまともに動けない。
頂点に達したチェルシーは、縦に一回転して加速したハンマーを杭に叩き込む。直後、杭が奥深くまで突き刺さり莫大な魔力を送り込んだ。
「今のアタシはユウのチートのおかげでよ、魔力がいつもより多いんだぜ! 今のテメェに吸収しきれるかな!?」
「が、あ……クソオオオオオ!!!」
攻撃の反動で再度浮かび上がったチェルシーは、相手の背後に着地する。直後、魔力を吸収しきれなくなった裕次郎が断末魔の叫びをあげた。
肉体がチリの塊に変わり、勢いよく爆散した。降りかかったチリを払いながら、チェルシーは呟く。
「テメェらみたいなクソ野郎には、地獄すら行かせちゃやらねえ。二度と生まれ変われねえように消え去れ、クズが」
死闘を制したのは、チェルシーであった。
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