第11話─ミッション:盗賊部隊を殲滅せよ!

「見えてきたぜ、俺たちの狩り場がよお! 第二分隊と挟み撃ちにしてやるぜ!」


「ヒャッハァー!」


 平和なパセルナの村へと迫る、リンカーナイツの略奪部隊。浮遊機能を持つ黒い一輪バイク『ガルドクアッド』を駆り、目的地に向かう。


 全員が支給された黒い制服を身に着け、胸元には灰色のバッジを装備している。意気揚々と村へ向かって突き進むが……。


「あら、どこに行こうというのかしら? 悪いけどこの先には進ませないわ。先制攻撃を食らいなさい!」


「ああっ!? てめぇはパラディオンのシャー……おああああ!?」


「総員散開! ミサイルが来るぞ!」


 そこに、マジンランナーを駆るシャーロットが現れた。操縦桿に取り付けられたタッチパネルを操作し、四機をロックオンする。


 そして、操縦桿の付け根にあるスイッチを押すとサイドカウルが展開し、左右二発ずつの魔導ミサイルポッドがあらわになった。


「ファイア!」


「チイイ、避けきれ……うぎゃあ!」


 追尾機能を持つミサイルの直撃でガルドクアッド四機が轟沈、残りも爆風に巻き込まれ大破する。マジンランナーを止め、降車したシャーロットはマジンフォンを足首から外す。


【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】


「安心しなさい、直撃しても死なない威力にしてあるから。じゃないと、また復活されて面倒だもの」


「う、ぐ……てめぇ……」


「狩りをするのはお前たちじゃなく私よ。その薄汚い魂、永遠の闇へと……消し去ってあげる。ビーストソウル・リリース!」


 ガルドクアッドから投げ出された異邦人たちは、目の前に現れた『死』そのものに恐怖する。山羊の力を取り込んだシャーロットによる狩りが、始まる。



◇──────────────────◇



「見えてきたぜ、ユウ。敵のチームだ。一気に接近するぞ、連中を皆殺しにしてやろうぜ!」


『はい! ……って、言い方が物騒ですよチェルシーさん』


「気にすんな、これが平常運転だからな!」


 同時刻、ユウとチェルシーもバンデット部隊と接敵しようとしていた。第二分隊は第一分隊と違い、強襲を警戒してガルドクアッドにバリアを纏っていた。


 ミサイルは効果無しと判断したチェルシーは、ユウを連れ突撃していく。直接突っ込んで進軍を止めるという、ワイルド極まりない戦法を選んだのだ。


「しっかしよ、うらやましいよなあユウのソレ! 専用機なんて貰っちまってよ! 後で乗せてくれよな!」


『ええ、いいですよ。その前に……まずはあいつらをやっつけます!』


「おう、その通りだ! さあ、アクセル全開!」


 フォックスレイダーとマジンランナーを走らせ、敵部隊の進行方向へ躍り出たユウたち。突然の襲撃者たちの登場に、略奪部隊は大慌てでブレークをかける。


「んなっ、てめぇらどっから出てきやがった!?」


「リーダー、あのガキ……トップナイトから生け捕り命令が出てる北条ユウって奴じゃ!?」


「おお、ホントだ! 配られた顔データと同じだ! へへ、こいつはついて」


「ゴチャゴチャうるせえな、全員ぶっ潰してやるからかかってこいや!」


 ユウたちを前に、仲間内で何やら話し出す異邦人たち。痺れを切らしたチェルシーがマジンランナーから飛び降り、魔法陣で転送させる。


 次いでユウも同様の動作をし、本格的に戦闘態勢に入る。対する略奪部隊の面々は、ガルドクアッドに乗ったまま戦うつもりのようだ。


「ハッ、女の方にゃ用はねえ! ここでぶっ殺してやるよ!」


「やれるもんならやってみろよ、その灰色のバッジ……お前らカテゴリー1だろ? そんな雑魚にやられるかっての!」


『チェルシーさん、カテゴリー1ってなんですか?』


「そいつは戦いながら教えるよ、来るぜユウ! 構えな!」


『はい! 行きますよ、こゃーん!』


 ユウはファルダードアサルトを構え、チェルシーは魔法で呼び出した巨大なハンマーを片手で持つ。そして、突撃してきた相手を一振りで吹っ飛ばす。


『庇護者への恩寵を与えます。筋力とスタミナを強化、魔力量を大幅に増幅させます』


「おおっ!? いつもよりパワーが溢れてきやがるなぁ! あ、そういやユウも異邦人……ってこたぁお前のチートだなこれ!」


「へぶあっ!」


『はい、チェルシーさんをバッチリお助けします! そこっ、ていっ!』


「うがっ!」


 シャーロットがそうだったように、チェルシーもまたユウのチート能力……庇護者への恩寵によって大幅なパワーアップを遂げた。


 轢き殺そうとガルドクアッドを駆る敵兵を、ハンマーの一撃で乗り物ごと地に沈めてみせる。ユウの方も、的確なヘッドショットで乗り物から叩き落とす。


「くそっ、なんなんだこいつら! 普通に強えじゃねえか!」


「仕方ねえ、ここはオレに任せな。おい、そこのデカブツ! てめぇの相手はオレだ!」


「お? なんだ、一人だけカテゴリー1じゃねえのがいるな。その青バッジ……カテゴリー4か」


『もー、だからそのカテゴリーって一体なんなんですか!』


「あ、いけね。簡単に言うとだな、カテゴリー1から3はチートを持たねえザコってわけだ! 4から先は数字が上がるほど、やべえ強さだってことさ! オラアッ!」


 仲間たちが戦闘不能にされていくなか、第二部隊のリーダーが動いた。リーダーのバッジを見たチェルシーが笑うと、肝心なことを教えてもらえていないユウがぷんぷん怒る。


 手短にカテゴリーについて説明した後、チェルシーは第二部隊のリーダーへと突撃していく。基本的に、部隊のリーダーを任される異邦人は同カテゴリーの者らより一段強い。


 ユウがまだ獣の力を完全に得ていないとシャーロットから聞いていた彼女は、自分が相手取ることを決めたのだ。


「ユウ、大物はアタシに任せな! その代わり、そのザコどもを頼むぜ!」


『分かりました、頑張ってくださいね、チェルシーさん!』


「おう、負けねえよアタシは。こんなクソッタレどもにはな!」


「ハッ、余裕だな。なら、その余裕をこの園部裕次郎そのべゆうじろうが粉々にしてやるよ! お前らはガキを捕らえろ、いいな!」


「ハッ!」


 茶髪を撫で付けた男、裕次郎は部下たちに指示を出し後退していく。チェルシーを引き離し、ユウが援護出来ない距離へ誘い出すつもりなのだ。


 それを承知の上で、チェルシーは裕次郎を追う。ユウの方を向き、安心させるようにニッと笑った後でグッと親指を立てる。


「ユウ、こっちはすぐに終わらせるからさ! 競争しようぜ、お前が勝ったらご褒美やるよ! なんでも好きなもん買ってやる!」


『ご褒美ですか!? はい、負けませんよ!』


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


 ご褒美の言葉に、ユウはやる気を見せる。なんだかんだで、彼もまだまだ子どもなのだ。マジンフォンを左手で操作し、次々と敵を戦闘不能にしていく。


「こりゃうかうかしてられねえな、早いとこ敵を仕留めるとするか! こっちが勝ったら、またシャーロットに酒でも奢らせるか。へへへ」


 自分も負けていられないと、チェルシーは裕次郎を追い走る。チート能力で強化されていたこともあり、すぐに追い付くことが出来た。


「もう来やがったか、足の速い奴め。まあいい、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな? ん?」


「ハン、その言葉そっくり返してやるよ。……戦う前に一つ問う、頬にえぐれたような傷痕がある異邦人がテメェの仲間にいるはずだ。知ってるなら教えろ」


「さあ、知らねえなあ。別のトップナイトの部下のことは管轄外なんだよ。ククク、残念だったなぁ」


「そうか、ならいいや。テメェもこれまでに狩ってきたクズどものように始末してやる。妹の仇を討つためにもな!」


【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】


「その穢れた血も魂も、全てチリになって消えろ。ビーストソウル……リリース!」


 チェルシーは腰のケースに入れていたマジンフォンを取り出し、画面に表示されたテンキーにパスコードを入力する。


 すると、彼女の目の前にハンマーのアイコンが納められた緑色のオーブが出現する。それを取り込み、チェルシーは【鎚の獣】へと姿を変えた。


「うおおおおおおお!!! ……ふう。さて、処刑の時間だ。薄汚えリンカーナイツのゴミは片付けねえとなぁ?」


「ハッ、姿が変わったくらいでオレに勝てると思うなよ。カテゴリー4の中でも屈指の実力があるんだ、返り討ちにしてやる!」


 オーブを取り込んだチェルシーは、ジャガーの獣人へと姿を変えた。白い鎧は虎柄になり、顔付きがネコ科の獣のソレに近付く。


 鋭い牙を剥き出しにし、前方に立つ裕次郎を睨み付ける。広い草原のド真ん中で、二人の戦いが今……始まろうとしていた。

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