第10話─新しい仲間、チェルシー

 冒険者ギルドで顔見せを済ませたユウとシャーロット。ユウに街を案内し、どこに何があるかを教えるシャーロット。


「このアーケードが商店街、いつもここで食材を買うのよ」


『そうなんですね、覚えておきます!』


「ここにはオモチャ屋もあるのよ、ユウくんが気に入りそうなのが……きゃっ!」


『わひゃっ!?』


 商店街の入り口で話をしていると、買い物を終えた人の群れがアーケード街から流れ出てきた。そこにユウが呑まれ、あれよあれよという間に離れていってしまう。


「ユウくーん! 今助けに……あっすいません、ちょっと通ります!」


 人混みの中に割って入り、慌ててユウを探しに行くシャーロット。一方、人の波に呑まれたユウはいつの間にか裏路地に迷い込んでしまう。


『ここ、どこ……? シャロさんとはぐれちゃった……』


 大きく栄えた街にも、弱者を食い物にする悪者がいるものだ。ニムテの路地裏には、そんなゴロツキたちの根城がいくつもある。


 薄暗い路地の奥から漂う不穏な気配を感じ取ったユウは、マジンフォンを使いシャーロットに連絡を取ろうとするが……。


「よーうようよう、可愛らしいお坊ちゃんがこんなとこで何してんだい?」


「迷子になったのかなあ? ならオレたちがママを探してやるよ、一緒に来なよ」


『ぴっ! い、いえ……一人でも探せるので結構です』


 路地の奥から、いかにもなチンピラ二人組が姿を現し値踏みするようにユウを眺める。彼らは孤児や路地裏に迷い込んだ子どもを捕まえ、奴隷商人に売り付ける悪党だ。


 身なりのいい狐獣人、それもが好みそうな中性的な美少年とくれば彼らのやることは一つ。適当な理由を付けてアジトに連れ込むのだ。


「またまた、そんなこと言うなよ~。君、どう見てもここら辺の地理に詳しくなさそうじゃん? 一人じゃ無理だって」


「そうそう、俺らと一緒にいた方がいいって! ほら、こっちに来なよ!」


『や、やめてください! うう、流石に一般人に手を出すのは……』


 リオたちから手ほどきを受けたユウなら、チンピラたちを撃退するのは容易い。だが、常人より遙かに強いユウが手を出すと大怪我では済まない。


 下手すれば彼の方が憲兵にしょっ引かれることになりかねないのだ。どうしたものかと思案していた、その時。


「おう、何やってんだこんなところで。探したぜ、変なとこに迷い込んだなあユウ」


「うおっ!? な、なんだテメェ!?」


「オーガ……ってデカッ!」


「アタシか? アタシはこのボーヤのツレだよツ・レ。ほら、行こうぜユウ。こんな物騒なところからはおさらばだ」


『え? あ、はい』


 突然、路地の入り口に大柄な女オーガが現れたのだ。筋骨隆々な緑色の肌が陽に煌めき、顔には肉食獣のような笑みを浮かべている。


 あまりの迫力に、チンピラたちは大人しく引き下がるしかなかった。ユウを助け出した女オーガは、少年を連れ表通りに戻る。


『あの、助けてくれてありがとうございます。お礼をしたいので、名前を教えてくれませんか?』


「アタシか? アタシはチェルシー、アンタの同類……パラディオンの一人さ。よろしくな」


 そう言いながら、女……チェルシーは身に着けている白いフルプレートアーマーの左腰に取り付けられているホルダーを見せる。


 そこには、パラディオンの証である緑色のマジンフォンが納められていた。助けてくれたのが同志だと知り、ユウは笑顔になる。


『そうだったんですか! 知り合いが増えて……あれ? でもどうしてボクの名前を知ってるんです?』


「ああ、アンタの実技試験見てたからな。それに、新しいパラディオンが増えると通知が来るんだよ、マジンフォンにな」


『あ、そうだっ……シャロさんから着信! すいません、ちょっと失礼しますね』


 チェルシーと話していると、マジンフォンにシャーロットから電話がかかってくる。ユウは一旦話を切り上げ、今自分のいる通りの番地とこれまでのことを伝えた。


 それから十数分後、シャーロットが駆け付けた。ユウが無事だったことを喜び、チェルシーにお礼を述べる。


「助かったわ、チェルシー。それにしても、なんであなたがここに?」


「ああ、この辺飲み屋街が近いだろ? 今日はもう十五人ほどリンカーナイツのカスを始末したから、仕事を終わりにしてちょいと一杯……ってな」


「そういうことね。じゃあ、お礼に奢らせてもらおうかしら」


「いいね、他人の金で飲む酒ほど美味いモンはねえからな! ハハハハ!」


 そんなこんなで、チェルシーにお礼をするため近くの飲み屋に入ることに。シャーロットの奢りということで、遠慮も容赦もなく酒とおつまみを頼みまくるチェルシー。


「いやあ、真っ昼間から飲む酒は美味いねえ! ほらユウ、焼き鳥食え焼き鳥。ここの焼き鳥はタレが美味えんだタレが」


『あ、どうも……美味しい』


「あのねえ……ほどほどにしてよ? 私だってそこまで貯金あるわけじゃないんだから」


 バカスカ飲み食いするチェルシーを呆れ顔で見ながら、釘を刺すシャーロット。頷きはしたが、チェルシーに自重するつもりはないらしい。


「ふー、食った食った! ……ああそうだ、お前らに会ったら放したいことがあったんだった」


『話ですか?』


「おう! なあ、アタシとも組まねえか? 三人ならよお、リンカーナイツ狩りもはかどると思うんだ」


 散々飲み食いしてから、チェルシーはそんな提案をユウたちに出す。基本的に、パラディオンたちは群れることが無い。


 そもそもの数が多くないことと、大地のあらゆる場所に出没するリンカーナイツに迅速な対応をするためには単独で動いていた方が都合がいいからだ。


 複数人が組まなければ敵わないほどの強いリンカーナイツのメンバーがそうそういないというのも、単独での活動を助長させる要因だ。


「うーん……。まあ、私としては別に問題はないけれど。ユウくんがどう言うかね」


「そっかー。じゃあユウ、どうだ? アタシと組めばゴリゴリバカバカ異邦人どもをちぎっては投げの大活躍が約束されるぜ?」


 ものを投げるジェスチャーをしながら、自分を売り込むチェルシー。彼女に好印象しかないこともあり、ユウは頷く。


『それじゃあ、これからよろしくお願いしますチェルシーさん!』


「よっしゃよっしゃ、こっちこそよろしくな! ってわけで、親睦を深めるためにも飲も」


 チェルシーを仲間に加え、改めて親睦を深めようとしたその時。三人の持つマジンフォンに、ギルドからの通達が届いた。


「あら、なになに……『ニムテ近郊の村パセルナに、リンカーナイツのB部隊の接近を感知。対応出来る者は迎撃せよ!』ですって」


『なら行きましょう! 未然に被害を防がないといけませんよ!』


「よく言ったユウ! よっし、んじゃ行こうぜ! 最後に肉を食っ」


『そんな悠長なことしてる時間はありません! 行きますよ二人とも!』


「あああ、アタシの肉ぅぅぅぅぅ!!!」


 緊急出撃命令を受諾したユウは、尻尾でチェルシーを巻いて店を出て行く。シャーロットが支払いを済ませるのを待ってから、パセルナの村へ向かう。


「パセルナはニムテの北に八キロほど行ったところにある村よ。マジンランナーを使えばすぐに着くわ!」


「リンカーサーチャーを起動してっと……ん、結構数がいるな。全部で十六人……二手に別れた方が効率いいなこりゃ」


 ニムテを出た三人は、マジンフォンの機能を使い敵の数を確認する。今回の敵は、リンカーナイツに属するバンデット部隊。


 村や町を襲い、資源や食料を略奪していく存在だ。マジンランナーを駆り、村に向かう途中チェルシーがそう提案する。


「そう、なら……今回は私が半分受け持つわ。ユウくんはチェルシーとの連携に慣れるために二人で戦って!」


『分かりました! 多数相手の戦いはパパたちとたくさん訓練したので任せてください!』


「おう、期待してるぜユウ! よし、ここで別れるとしようか。気ィ付けろよ、シャーロット!」


「ええ、そっちこそユウくんをお願いね!」


 半分の八人はシャーロットが、残りはユウとチェルシーが相手をすることに。分かれ道で二手に別れ、それぞれの敵の元へ向かう。


「さあ、いっちょ派手に暴れてやろうぜ! ……覚悟しろよ、リンカーナイツのクズども。アタシの目の前でふざけた真似はさせねえ……!」


『チェルシーさん……?』


 リンカーナイツへの強い憎しみをたぎらせるチェルシーを見て、心配そうに呟くユウ。だが、今は敵との戦いに集中するべきと思考を切り替える。


 水城場英美里との戦いから間を置くことなく、新たな仲間と共に次の戦いに身を投じるのだった。

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