第8話─ユウの初陣

「ハッ、ションベン臭いガキが吠えるんじゃあないわよ! その首を切り落としてあげるわ!」


『そんなことはさせません! 返り討ちに……』


「おっと、そのふざけた装置を使う暇なんてあげないわよ。私のチート能力【変幻自在な刃の旋律トリックブレード】を食らいなさい!」


 マジンフォンを操り、シャーロットがやったように獣の力を解き放とうとするユウ。だが、そうはさせじと英美里が妨害に動く。


 指を鳴らすと、どこからともなく三日月型の刃が四つ現れた。それらがひとりでに動き、ユウとシャーロットに襲いかかる。


『庇護者への恩寵を与えます。本人の対裂傷耐性と動体視力、さらに俊敏性とスタミナを向上。装備品の防刃性能を大幅に強化します』


「今回もユウくんのチート能力が力を貸してくれるみたいね。まずは回避に専念するわ、ユウくん掴まってて!」


『わひゃっ!?』


 先制攻撃を受けたことでユウのチート、庇護者への恩寵が発動する。シャーロット自身だけでなく、身に付けているローブも強化された。


 シャーロットはユウを抱き寄せ、まずは相手の魔力消耗と手札確認を兼ね回避に徹する。が、ユウと向かい合った形で抱き寄せてしまった結果。


 彼女の豊かな胸部に、ユウの顔が埋まることに。家族とのスキンシップ以外では初の出来事に、ユウは真っ赤になってしまう。


『むぐ、むうう~!!』


「ごめんね、ちょっと苦しいと思うけど少し我慢しててね!」


「チッ、見せ付けてくれちゃって。ウザいわね、纏めて切り刻んでやるわ!」


 日本にいた頃から恋愛的な意味で男と縁のなかった英美里は、見ようによってはイチャついて見える二人にイラッとしたようだ。


 さらに斬撃パーツを四つ増やし、逃げ道を塞ぐような軌道で襲いかかってくる。絶体絶命と思いきや、強化された身体能力で完全に退路を断たれる前に脱出に成功するシャーロット。


「なんですって!? 私の刃から逃れた!?」


「今なら大丈夫そうね、ユウくん! マジンフォンを!」


『ぷはっ……は、はい!』


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


 英美里が驚愕し、思わず攻撃の手を止めてしまった瞬間。シャーロットはユウを下ろし、反撃の時だと告げる。


 ユウはすぐに正気に戻り、素早くマジンフォンを操作する。そうして、魔神の力を取り込む……。


「あれ? 何も起こらないわね」


『まだボクの肉体が成熟してないので、しばらく獣化は出来ないんです。でも安心してください、いずれは出来るようになりますし……』


「このっ、死ねえっ!」


『姿が変わらなくても、パパたちと同等の身体能力は得られてますから!』


 が、シャーロットのように獣の力を解き放つことは出来なかった。ユウの肉体はリオの血と神々の魔力で創られたものだが、まだそれらが馴染みきっておらず不完全。


 そのため、場数を踏んで少しずつ適合させていく手段をリオは選んだ。一時的なプロテクトをかけ、『その時』が来るまでユウが獣化出来ないようにしてあるのだ。


「は、はやっ!? くっ、ガキのクセにちょこまかと!」


『狐は雑食性ですが、ちゃんと狩りもするんです! ボクの狩りを見せてあげますよ! チェンジ!』


【トリックモード】


 英美里の放つ斬撃をアクロバティックな動作で避けながら、ユウはファルダードアサルトをホルスターから引き抜く。


 そして、右手に持ち替えて素早く下ろし腰に取り付けた赤色のマガジンをセットする。その直後、ユウは頭上に向かって弾丸を放つ。


『それっ! ファントムシャワー!』


「! 弾が弾けて……ユウくんが増えた!?」


「分身ってわけ? なら全員切り刻めばいいことよ!」


 放たれた赤色の弾丸が弾け、欠片がユウへと降り注ぐ。すると、六人の分身が現れた。トリックマガジンに込められているのは、変化の力。


 相手を惑わし、翻弄することに長けているのだ。英美里は驚くも、今度はすぐに冷静さを取り戻す。所詮は分身とタカを括るが……。


『その前にハチの巣です! 一斉掃射、てー!』


『こゃーん!』


「え、ちょ、ま……あぎゃあああああ!!!」


「え、えげつないわね……。うん、この分なら私が手助けしなくてもなんとかなるわね」


 相手は分身込みで八人、こちらの斬撃と同数。ゆえに負けることはないと考えていた英美里。だが、彼女は気付いていなかった。


 自分の斬撃より、ユウの射撃の方が攻撃速度の面で遙かに優れていることを。その結果、七人のユウによる一斉射撃の餌食となった。


「う、あ……」


「気を付けて、ユウくん! あいつまだ生きてるわ!」


『トリックマガジンは攻撃力が低いですからね、ハチの巣にしてもトドメにならないんです。だから……』


【レボリューションブラッド】


『直接仕留めます!』


 膝から崩れ落ちる英美里だが、ギリギリ致命傷には至っていない。ユウは空いている左手でマジンフォンの画面に触れ、その血を進化させる。


 直後、少年の身体を流れる血の色が赤から神々のソレである金へと変わる。どこか高揚感を覚えつつ、ユウは分身を消し跳躍した。


『てやあああっ! これで終わりです……奥義! シルバーテイルドリラー!』


「う、ぐ……こんな、ところで……死んでられないのよ! ブレードストーム!」


 ユウの腰に生えた九本の尾が広がり、本体を包み込んで銀色のドリルと化した。英美里は最後の抵抗として斬撃をぶつけるも、まるで効いていない。


『ムダです、そんなのは効きません! こゃーん!』


「ぐ、あああ……!! そんな、この私が……こんなガキに、負け……あああああああ!!!」


 全ての斬撃をはじき返したユウは、英美里の身体を貫きトドメを刺した。元の姿に戻り、相手の背後に着地した瞬間。


 レボリューションブラッドを用いて放たれた奥義の力によって、英美里はチリになり霧散……魂ごと完全に消滅した。


 これでもう二度と、輪廻転生することはない。悪しき異邦人は、永遠の虚無へと葬られたのだ。


『ふう、ふう……。ちょっと、しんど……ふにゅ!?』


「やったわね、ユウくん! 素晴らしい初陣だったわ、惚れ惚れしちゃうほど素敵だったわよ!」


『しゃ、シャロさん! く、苦しいです……』


 初めて魔神の力を使ったユウは、体力を使い果たしヘトヘトになってしまう。そこにシャーロットが飛んできて、ユウを抱き締めた。


 またしても彼女の豊かな双丘に埋まることになったユウだが、もはや抵抗するだけのパワーが無い。彼女の気が済むまで、ずっと抱っこされていた。


「おー、無事勝ったデスね。危ないようならワタシが手助けしようと思ったデスが、必要なかったデス。めでたしめでたし」


 そんな彼らの様子を、遠くから双眼鏡で見る者があった。四つの魔導エンジンを備えた鈍色の大型装甲バイク、【マジンランナー】……。


 それに乗った、青色の肌を持つ自動人形オートマトンの女は何か呟いているようだ。


「今追っかけてるリンカーナイツの部隊をぶっ殺し終えたらゆーゆーと合流するとしまショ。おシショー様に言われた通り、第二のサポーターとしてお仕えさせてもらうデス。ふふふふ」


【フロートモード】


 黒いゴスロリドレス風の鎧を身に着けた女はそう口にした後、マジンランナーのタッチパネルを操作してタイヤを球状の浮遊装置に変える。


 そして、ユウたちに気付かれることなくその場を去って行った。いつの日にか来る、ユウとの邂逅の時を楽しみにしながら。



◇──────────────────◇



『むー……!』


「ごめんねユウくん、私ちょっと夢中になっちゃって……。欲しいもの何でも買ってあげるから、機嫌なおして? ね? ね?」


 それからしばらくして、ニムテに帰還したユウは怒っていた。ずっとシャーロットの胸に埋められ、息苦しかったのが嫌なのだ。


 リビングのソファーに寝転び、尻尾でガード状態になっているユウにひたすら謝るシャーロット。少しして、ユウがのそっと起き上がる。


『それじゃあ……食べたいです。シャロさんのおにぎり』


「え? おにぎりでいいの? もっと美味しいものとかおもちゃとか何でもいいのよ?」


『ボクには……シャロさんのおにぎりが一番なんです。とっても美味しかったから……』


 意外な要求にビックリしてしまうシャーロット。だが、直後に発せられたいじらしい一言にキュンとしてしまった。


(ああ……可愛い! 初めて見た時から思ってたけど、ユウくんって凄く愛らしいのよね……。ずっと愛でていたいくらいだわ……)


『あの……シャロさん? どうしたんですか?』


「あっ、なんでもないのよ。ふふ、そういうことならお昼ごはんはおにぎり祭りにするわ。楽しみにしててねユウくん!」


『はーい!』


 危ない性癖ショタコンに目覚めつつあるシャーロットは、ニッコリ微笑みながらそう答える。その笑顔の裏にあるモノを、ユウはまだ知らない。

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