第5話─ようこそ、パラディオンギルドへ!

 フォックスレイダーを走らせること数十分。ユウとシャーロットは、最寄りの街ニムテに到着した。円形の紅い防壁に囲まれた、大きく栄えた交易都市だ。


『わあ、大きな街ですね。リヴドラスとどっちが大きいかな』


「……ユウくん、リヴドラスと比べるのは流石に酷よ。あそこほど大きくて栄えてる街なんて何百万の大地を見ても片手で数えるほどしかないわ」


『そ、そうなんですか……』


 街へ入るための門の前に出来た、長蛇の列を見ながら何気なく呟くユウ。そんな彼に、シャーロットがツッコミを入れた。


 彼女もリヴドラスには行ったことがあるようで、哀れみを込めてニムテの防壁を見つめる。少しして、二人はフォックスレイダーから降りた。


『格納庫に転送して、と。シャロさん、あれだけ列があると街に入るのに時間がかかりそうですよ?』


「それなら大丈夫よ、マジンフォンを持つパラディオンは専用の門から出入り出来るの。ちょっとした特権ってやつね」


『そうなんですね、でもなんだか並んでる人たちに申し訳ないですね……。ボクたちだけそんな楽をして』


「いいのよ、元は緊急時に即座に出現や帰還出来るように定められた制度を平時にも適用してるってだけだから。さ、行きましょ」


 どこか申し訳なさそうにしているユウの手を引き、シャーロットは一般人たちが使う正門……の隣にある専用の小型ゲートへ歩く。


「お帰んなさい、シャーロッ……おや、見ない顔だね。マジンフォンを持ってるってことは……」


「ええ、今日付で着任した新しいパラディオンよ。顔をちゃんと覚えてあげてね、守衛さん」


『ほ、北条ユウっていいます。一応、異邦人……です。よろしくお願いします』


「ほお、あんた異邦人なのか! 珍しいね、人間以外の種族に転生する奴はほとんどいないからな。にしても偉いねえ、こんな小さいのにリンカーナイツと戦ってくれるとは。うちのバカ息子にも見習ってほしいもんだ」


 チェインメイルを身に着けた小太りの守衛と会話をした後、シャーロットとユウはマジンフォンを提示してゲートをくぐる。


 ニムテの街は、中も外も大勢の人で賑わっていた。右を見ても左を見ても、大通りは様々な人々でごった返している。


『わあ、人がいっぱい……』


「はぐれないように手を繋いでおきましょう、ユウくん。さ、まずはパラディオンギルドに行きましょう。そこでユウくんのデータを登録するから」


『データ、ですか? 冒険者登録みたいな感じ……ですかね?』


「そうね、概ね似たようなものよ。マジンフォンを使えばすぐ終わるけど、登録時に実技試験をして実力を測る行程が最後にあるわ」


『実技ですか……。よーし、パパたちとの特訓で身に着けた力を発揮しちゃいます!』


 ギルドへ向かいながら、シャーロットの説明を聞くユウ。やる気を見せ、尻尾をピンと逆立てる彼を見て女エルフは微笑む。


「ふふ、楽しみね。そうそう、冒険者ギルドとの違いとして実技試験でいい結果が出ればいきなり高いランクになれるわ。私も登録時点でBランクだったのよ」


『わ、シャロさんって凄いんですね!』


「まあね。ちなみに、ランクは下からG、F、E、D、C、B、A、S、Xの九段階あるわ。ただ、Xまで上り詰めたパラディオンはまだいないの。遙か遠い、険しい道のりなのよね」


『ほえー……』


「あ、そうそう。実技試験が終わった段階で同時に冒険者登録も完了するわ。そっちは最高でDランクからのスタートになるの。……ここだけの話、冒険者と兼業しないと食べてけないのよね、この仕事。給料安いから」


『け、結構大変なんですね……』


 やれやれとかぶりを振るシャーロットに、ユウは苦笑する。お金の大切さは、ラディムのパーティーにいた頃から身にしみて理解していた。


 調子に乗って散在しまくる仲間たちに頭を抱えたのも、今では遠い昔の出来事。そんなこんなで、ユウたちは目的地に到着した。


『わ、大きな建物。ボクが前にいた大地の冒険者ギルドよりおっきい……』


「あら、初耳ね。ま、その話はおいおいするとして。ようこそ、パラディオンギルドへ。今日からあなたもリンカーナイツと戦う聖戦士の一員よ」


 街の一角にある、四階建ての建物……パラディオンギルドにたどり着いたユウたち。中は現代風の造りになっており、銀行の窓口のようになっていた。


「いらっしゃいませ、ようこそパラディ……あら、お帰りなさいシャーロットさん。そちらの方は?」


「この子は北条ユウ、異邦人にして偉大なる盾の魔神リオ様の子よ。新しいパラディオンとして、この大地にやって来たの」


「ひゃー、こりゃまた凄い大型新人さんが来ましたね! あ、申し遅れました。私、当ギルドのオペレーターを担当しているフィルネと申します。以後お見知りおきを」


『ボクは北条ユウといいます。これからよろしくお願いします!』


 受付に向かい、紺色の制服を着たオペレーターの女性と話をするユウ。そんな彼を、待機スペースにあるソファに座ったパラディオンたちが見つめていた。


「へえ、異邦人……それも大英雄の子か……」


「こりゃ相当な実力があると見たね。コナ……かけたいがシャーロットのお手付きか。難しそうだな……」


 値踏みするような視線に晒され、落ち着かなさそうにもじもじするユウ。マジンフォンをフィネカに渡して、カウンターの奥にあるキカイで登録をしてもらう。


「はい、これにてデータベースへの登録は完了でーす! 続いてランク判定のための実技試験を行いますが、準備はよろしいですか?」


『はい、いつでも大丈夫です!』


「はーい、それでは早速訓練場にテレポートしますよー! そーれ!」


 フィネカはマジンフォンを使って連絡をした後、指を鳴らす。すると、ユウとシャーロットはギルドの奥に併設された訓練場に転移させられる。広い訓練スペースにて実技試験を行うのだ。


「よお、来たな新入り。オレはクライヴ・アドン。聖戦士の一人にしてこの訓練場の教官だ。よろしくな」


『は、はい。こちらこそお願いします!』


 訓練場には、すでに一人の男がいた。赤いフルプレートアーマーを着た青年……クライヴはニッと笑う。腰のホルダーには、白いマジンフォンを装備している。


「先日、リオ様から『近々息子くんを行かせるからその実力に驚きむせび泣いてひっくり返るといいよ!』ってお達し……いやお達しか? まあいいや、そんな連絡があってな。みんな楽しみにしてるよ、ボウズの実力をな」


『パパ……なんてこと言うんですか……。恥ずかしいじゃないですか、もう』


 ギルドからギャラリーが入ってくるのを見ながら、ユウはげんなりする。わりと親バカな一面がある両親たちに苦笑した後、軽い準備運動を行う。


『えいっ! やっ! てゃ、そいっ!』


(ほう……キレのあるしなやかな動きだ。流石、魔神たちに鍛えられただけはあるな。これは楽しめそうだ)


(ユウくんの実力、見せてもらいましょうか。リオ様たちに仕込まれた技術がどれほどか、見極めさせてもらうわよ)


 その様子を見ていたクライヴやシャーロットの表情が、真剣なものへ変わる。ユウとクライヴ、両者が数メートル離れたところに立ち向かい合う。


「パラディオンギルド教官、クライヴ・アドンの名において……これより実技試験を執り行う! マジンフォンの使用は禁止、その他の武器の使用は問題なし! どちらかが気絶もしくは降参するまで戦うものとする!」


『いつでも大丈夫です、始めましょう!』


「うむ、それでは……開始!」


 クライヴの叫びと共に、実技試験が幕を開ける。ギャラリーが盛り上がるなか、先に動いたのはクライヴの方だ。


「先手必勝、まずはこちらの番だ!」


『ボクは負けません、倒しちゃいますよ!』


 そう口にし、ユウはホルスターから自身の得物たる拳銃……ファルダードアサルトを引き抜き構える。クライヴの機動力を削ぐため、脚を狙う。


『えいっ!』


「っと、銃使いか。だが、パラディオンの動体視力と瞬発力を甘く見ない方がいいぞ!」


 クライヴはサイドステップで魔力の弾丸をかわし、即座に赤色の槍と大盾を呼び出す。重い金属音を鳴らしながら、盾を構え突撃していく。


「あの大盾がある限りクライヴへの攻撃は通らないぞ!」


「さてさて、あの子どもはどうやって攻略するかな?」


「案外あっさりやられたりしてな! ハハッ!」


 ギャラリーがざめくなか、ユウは効果無しと判断し射撃をやめる。シャーロットが見守るなか、クライヴの攻撃の射程距離にユウが入った。


「食らえ! スピアストライク!」


『させません! こゃーん!』


「なっ!? 懐にもぐ……うごっ!?」


 懐に潜り込まれれば、銃も意味をなさない。誰もがユウが回避に移るだろうと考えるなか、ユウは彼らの予想とまるで違う動きを見せた。


 突き出された槍をしゃがんで避け、低姿勢のままクライヴの懐に飛び込む。そして、立ち上がる勢いを利用して顎にアッパーを叩き込んだ。


「おおっ!? マジかよ、あの坊主逆に攻めに行きやがった!」


「大人と子どもで体格差があるのに、怯まずに突っ込むたぁなかなか根性あるな!」


「ふふ、流石ユウくん。驚かせてくれるわ」


 ギャラリーがざわめくなか、シャーロットは微笑みを浮かべていた。

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