不思議な木

坂神美桜

第1話

この国には世界中でたった一本、とても不思議な木があるらしい。

それは一度にたくさんの果実を実らせ、最後の一つが落ちた瞬間にまたたくさんの果実が実る。

ただし、その最後の一つだけは絶対にもぎ取ってはいけない、自然に落ちるのを待たなければいけないと言い伝えられている。


わたしはその木を実際に見てみたいと思い、愛犬とともに旅に出た。

そして数年後、やっと見つけることができた。

地面にはたくさんの果実が落ちていて、木にはあと三つの果実がぶら下がっていた。

桃に似た形で良い香りのする果実を一つもぎ取り囓ってみた。

食感も桃に似ていて甘酸っぱくとてもおいしい。

食べている間に一つ落ちてしまったので、残りは一つ。

もう一つ食べたいと思ったが、これはもぎ取ってはいけない。

すると愛犬が木に飛びつき最後の一つを取った瞬間、木の幹に大きな穴があき愛犬が飲み込まれてしまった。

本当に一瞬の出来事で、わたしは一歩も動けなかった。気付くと木にはすでにたくさんの果実が実っていて、その一つ一つから犬の鳴き声が聞こえる。


あの時果実を食べたわたしは年をとることなく二百年ほどが経った。

今も果実からは犬の鳴き声が聞こえる。

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