とある魔王の誕生

蒼井星空

とある魔王の誕生

私の名はリリアス。リリアス・ヴェルヘイムです。


このゼグラム魔王国において、次代の魔王継承の候補者の一人と言われるリリアス・ヴェルヘイムです。


えぇ、魔王なのです。まだ候補者ですが。




私は悪魔の一種、デーモン族の族長の娘です。


誇り高きデーモン族は魔王国における最大勢力の一つですが、ここ数代は魔王を輩出していません。


常にいい勝負をするのですが、最終的に負けてしまうということを繰り返していました。


えっ、何にですかって?


魔王選定大会にです。




魔王は最も力の強いものがなります。その力とは、純粋な戦いの力です。


そのため、魔王の選定は魔神の加護を受けたとされる禍々しき闘技場において、


戦いを勝ち抜くことで行われます。


つまり、優勝者が次代の魔王です。


ただし、一度魔王となると、死ぬまで魔王です。


暗殺は認められません。少なくとも暗殺を行ったものは次の魔王選定大会に出場できません。


申し込んでも魔神の力によりはじかれてしまいます。


過去にはこの仕組みによって魔王殺しが露見したということもありました。


魔神の加護を受けた魔王を倒せる時点で相当な強者のはずですが。




説明が長くなってすみません。




「リリアス様。魔王が崩御しました。葬儀は10日後です。


 その後1年間喪に服しますが、その間に魔王選定大会が開催されます」


「伝達ありがとう、ジジル」


「はっ!」


いけない。接し方がどうしても柔らかくなってしまう。


気を付けなければ。


私は魔王になる者。戦いには負けない。


そんな私が、ただ姉弟だからという理由だけで甘くなってはいけない。




魔王国には多くの種族が存在します。


バンパイア族、サキュバス族、ゴーレム族、シャドウ族、スケルトン族、ハーピー族、


堕天使族、ジン族、ゴブリン族、オーク族、魔獣、邪竜、ダークエルフ族など。


それらの各種族の代表者が戦うのが魔王選定大会です。


一種族として代表者を送れないものたちでも、参加申請をすることができます。


その場合の参加決定は魔神の意志が判断します。




「どれほどのものが参加するのでしょうか」


自然と出た呟き。未来は知っている。次の魔王は私だ。




「誰が出てこようが、我の敵ではない」


「誰?」


誰もいなかったはずなのに、今は存在している。


シャドウ族によくある影を通じた移動。


消すのは大会で戦ったときにしようと思います。


仮にも女性の部屋を訪ねる方法ではありません。


シャドウ族は滅亡してもいいと思うのです。


そう思いますよね? え? 羨ましいですって?


あなたも死にたいようですね。




「お初にお目にかかる。デーモン族の戦姫リリアス殿。


 我の名は......」


もはや心の中で存在を抹殺した黒い何かが宣っている。


名前を覚える必要もなさそうです。




族長の娘であって、魔王の娘ではないのに姫とはどういうことかと自分でも思う。


しかし私は美しい。


そして強いのです。


戦姫と呼ばれることに異論はありません。


しいて言うならおばあちゃんになったとき少し恥ずかしい気がするというくらいです。




魔王に女は珍しくありません。


魔王の強さは肉体的な強さというより魔力の強さと狡猾さです。


そこに性差はありません。


もちろん10万年を超える魔王の歴史の中で、意味不明な肉弾戦の強さを誇り、


魔王選定大会を勝ち抜いたおかしなオークも存在します。


しかしそんな例は稀です。


魔法の力は肉体の防御で何とかなるようなものでは基本ないのですから。


ちなみに、彼の魔王は肉弾戦の強さに加えて魔法無効というぶっ壊れ性能のスキルを持っていました。


いまだかつてほかには存在しないスキルです。


未来においてもおそらくは。


なぜそんな力を持ったのか、まったくわかりません。


オークごときが、とは思いません。


彼らはもともと高い魔法耐性を誇る強力な種族ですから。


突然変異なのか、いずこの神の加護なのか。それしか考えられません。




今回の魔王選定大会の開催日はまだ決まっていません。


でも知っています。


今から10か月後。


夜が世界を支配する魔の一週間の間に開催されます。


そして、太陽が再び上る前に次なる魔王が決まります。


それは私です。




この力をもって、立ちはだかるものを倒し、


跪かせ、私が魔王になるのです。


強敵はいます。


先祖返りして神祖に近い力を持つヴァンパイアであるロズヴェルト、


ハイエルフから落ちたダークエルフであるラシェリタルド、


長き時を生きて何度も大会に挑む堕天使であるヴェルゼリエル、


ただただ強力な邪竜ジッグルド、


他にも集まってくるでしょう。強力な悪魔たちが。


しかし、勝つのは私です。それは覆りません。




「それでは魔王選定大会にて相まみえよう。さらばだ戦姫よ!」


随分と長い時間にわたって戯言をほざいていたゴミが去っていった。


すみませんが、何も耳に入りませんでした。


次に会うときは消します。


デーモンの戦姫の名誉にかけて。


えぇと、なんという名前でしたでしょうか。


姿はただの真黒な影でしたが......


まぁいいでしょう。


出会ったシャドウ族を皆殺しにすればいいだけの.....


すみません。それはダメですね。


仮にも魔王国の民でもあるのです。


慈悲は必要でしょう。


運がよかったですね。




魔王は孤独です。


親族からは切り離され、部下たちからは恐れられます。


当然ですよね。


ただでさえ強いのに、魔神の加護を得て強化されるのです。


勝てる者などいるのかどうか。




えっ? ではなぜ魔王国が世界を支配していないのか? ですか?


世界の支配に興味はありません。


魔王にも弱点があります。


それは、魔神の加護が有効な地域とそうではない地域があるからです。




魔王国のあるカルディア大陸の北東地方では、魔神の強い加護のもと、


魔王の力は強大です。


しかし、そこを出ると魔王の力は弱まってしまうのです。


世界に5柱しかいない魔神。


そのうちの2柱は眠っているとされ、どこにいるのかわかりません。


この世界にはいないような気がしています。


残る3柱の魔神についても実在するところは確認されていません。


少なくともこの1万年は。




1万年前に起きた神と魔神の争い。


世界を巻き込んだ戦いとその結末によって、


魔神は力を失い、どこかに行ってしまった。


しかし、3柱は生き残ったとされています。


また、2柱は遥か昔に眠りについたまま、今もなお在り続けていると言われています。




なぜカルディア大陸北東部だけなのか?


それはわかりませんが、単純に考えてこの地に魔神がいるのは間違いないと考えています。


おそらく魔神ハドラス様だと予想しています。


予想というより確信に近いかもしれません。


なぜかというと、彼の魔神がいまらか1,000年ちょっと後の未来で大破壊を引き起こすからです。


周辺にある、魔王国以外の国も巻き込んで。




間違いなく魔神は在り続けています。


他の魔神は私では見ることができませんが、古の伝承は正しい。




もう一つ、未来を見ています。


.....


ごめんなさい。イライラしてきました。


イチャイチャして。


対して外見も良くないのに、ドストライクな娘を捕まえて


イチャイチャしながら旅するなんて、なんてうらやま.....


ではないです。許しがたい。




なぜそんな未来が見えるのかはわかりません。


でもきっと何かかかわるのでしょう。


私もあの腕の中に.....


寒っ.....


悪寒がしてきました。どういうことでしょう。


あの女はただの人間ではない?


不思議なことです。


時間も空間もずれています。




「リリアス様。用意が整いました」


「ありがとうございます。それでは参りましょう」


「はっ!」


これから魔王様の家族に謁見します。


父や兄や弟、祖父を失ったものたちの元へ。


これが彼らの魔王族としての最後の仕事。


各族長の謁見ののち、魔王の崩御を宣じ、魔神の加護を返すのです。




私はそれを見届け、10日後の葬儀に参列し、


"闘技場"に申請をするのです。


魔王選定大会への参加申請を。




定められた手順に基づき、粛々と進んでいく時間。


皆が従い、そして戦いに身を落とす。


勝ったのはデーモン族の戦姫。




誕生する魔王リリアス。


彼女はただ力に飢えた魔王ではない。


周囲に悪意を振りまく魔王でもない。


その心は冷静で、その眼は未来を見ている。




遥か未来。神を落とすその日を。




まだ決意はできていない。


なぜ自分が神と戦うのかもわからない。


しかし、戦うのだ。




理由は何だろう。


種族の生存......そんなものではない気がするが、


それは大事なことだ。


人を滅ぼしたいなどとも思わない、知的で冷静な魔王。




いつか真実に触れ、神々の思惑を知り、


救いを求めて戦う。


これはそんな未来に続く歴史の一幕。


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とある魔王の誕生 蒼井星空 @lordwind777

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