第38話 秋風 ※ Side-S
朝の風は日に日に冷たくなってく。サガンは足元に積もった枯れ葉を踏みしめながら砦の裏手を歩いていた。厨房の裏口では、若い女が一人で荷車から積荷を厨房へ運び入れている。
「手伝おう」
サガンは一際大きな積荷をひょいと担ぎ上げた。
「あら、ありがとう。助かるわ。一人風邪を引いて休んじゃって」
「ここのところ寒いからね」
積荷を全て運び終えると、女はサガンの腕に手を掛けて言った。
「あなた、もしかして噂の元団長さん?お茶いれるから飲んで行ってよ」
サガンは苦笑して言った。
「いや、これから朝の鍛錬なんだ」
「そう?残念」
「またね」
国境近くの砦には鍛錬場などという上等なものはなく、砦の周辺の開けた場所の草を適当に刈って鍛錬の場所にしていた。朝の鍛錬には珍しく騎士団長のカルザスも参加していた。
「見てたぞ、男前」
カルザスは目を細めてニヤニヤとしている。剣を型通りに振りながらサガンが言った。
「何のことだ」
「厨房係のメアリだよ。仲良さそうじゃないか」
「大変そうだったから手伝っただけさ」
「サイラスの件といい、相変わらずモテるな」
サイラスの名を聞くとサガンは大きくため息を吐いた。食堂での一件以来、サガンを遠巻きにしていた騎士達から時折話しかけられるようになったが、その内容が問題だった。
「よう、あんた強いんだな、さすがは元団長」
「あんたサイラスの貞操を賭けて決闘して勝ったんだって?もうヤったのか?」
「女好きって噂は嘘かよ。いや両刀ってやつか」
「サイラスとはもう寝たのか」
等々である。いちいち否定するのも面倒で言わせたままにしているが、自分がどんな人間だと思われているのかを想像すると頭痛がした。
「それより、この辺りに魔狼が出たという話は本当か?」
サガンは騎士達がしていた立ち話を思い出して聞いた。
「ああ、砦の西側の森でな。周辺の集落の者達が不安がっている。近く討伐隊を出す予定だ」
「俺もその討伐隊に入れてくれ。走り込みと素振りばかりでは腕が鈍る」
「ふむ、考えておく。あと、今夜付き合ってくれ。酒でも飲もう」
カルザスはそう言うと、他の騎士に呼ばれて行ってしまった。
********
夜、砦の食堂の片隅に葡萄酒を持ち込んでカルザスと二人で飲んだ。酒場はここから遠く離れた集落に一軒あるきりで、酒を飲みたくなったら基本は皆こうして食堂で飲んでいるのだった。
「ここには慣れたか」
「そうだね。思っていたより良いところだよ」
「そうだろう。顔馴染みのよしみで部屋も個室にしておいてやったしな」
騎士達は二、三人の相部屋が基本だった。サガンは自分はなぜ個室なのかと思っていたが、カルザスが采配してくれたのだった。
「助かるよ。寝やすくて良い」
「連れ込みやすいしな!」
カルザスはまるで水かのように葡萄酒をあおりながら声を上げて笑った。
「恋愛ごとは懲り懲りさ」
「忘れられないか、…キリトが」
久しぶりに名前を聞いて胸がズキンと痛む。途端に頭に、求めて止まない黒目黒髪の美しい人の姿が浮かんで辛くなる。自分が重症だという自覚はあった。
胸の痛みを誤魔化す様に、ぐいと酒をあおった。
サガンが飲み過ぎてふらつく足で、自分に当てがわれた部屋に向かって廊下を歩いていると、部屋の前の壁に持たれて腕を組んで立っている男が目に入った。サガンは心の中でため息を吐く。サイラスだった。
無言で前を通り過ぎて部屋に入ろうとすると、急に腕を掴まれた。
「なぜ、俺を避けるんです」
周りの騎士達からあれこれ言われるのが面倒で、鍛錬中に顔を突き合わせないように遠巻きにしていた事を言っているのだろうか。
「…避けてなどいない」
「女に、体を触らせて居ましたね」
「何の事だ」
「ああいう女が好みですか?」
サイラスはそう言うなり、サガンの腕を背中に捻じ上げた。振り解こうとするも、酔いが回っているせいで力が入らない。もがいているうちに、いつの間にかサガンの両手は後ろで一つに縛られていた。
「何をする、離せ」
サイラスはその言葉に構わず、サガンの肩を無理矢理押すとサガンの部屋の扉を開けて、寝台の上にサガンを突き飛ばした。
「…おまえ…!」
俯いているせいでサイラスの表情は見えない。
「名前を呼んでくださいと、言ったはずです」
サガンは身を捩って逃げようとするが、手をきつく縛られていて身動きが取れない。
サイラスはサガンの下衣の前をくつろげると、下着の上から中心を撫で上げた。
「…こんなこと、して…」
執拗に上下に扱かれて、嫌なのに体は勝手に反応を返す。
サガンの屹立した中心を下着の中から取り出すと、それをうっとりと見つめてサイラスは言った。
「ああ、素敵だ。これを、俺の中に入れても?それとも、俺があなたに入れても良いですか」
「…どちらも勘弁してくれ」
サガンの言葉は無視して、サイラスは何でもない事のように次々と服を脱ぐと裸になった。普段から訓練に励んでいるのだろう。均整の取れた筋肉質な体だった。
「実は、ナカを慣らして来たのです」
言いながらサイラスはサガンの膝の上に跨った。
「俺を嬲って楽しいか」
サイラスは首を傾げてサガンを見つめている。
「俺が泣いてヨがったとでも言いふらすつもりか」
「まさか。あなたのこんな姿、誰にも教えたくない。それに、俺はあなたに本気です」
そう言うと、サガンの昂りの上にゆっくりと腰を落とした。
「く、う」
締め付けられてサガンが苦しげに眉を寄せる。サイラスは快楽に蕩けたような顔をして言った。
「…はあ、大きい、凄いな。これまでに男を抱いたことは?」
「…」
昂りを収め切るとサイラスはゆっくりと腰を前後に振り始めた。
「俺が、初めてですね?」
サガンが答えないでいると、サイラスは動きを早くしてサガンを攻め立てた。
「ああ、良すぎる」
無理矢理されているのに、体は勝手に快楽を拾っていく。サガンの中心は狭い肉壁に思うさま締め付けられてさらに硬さを増した。
「は、あ、ぁ」
「う、く、あああ」
どちらのものとも知れない声と濡れた音が部屋に響く。程なく、二人は同時に登り詰めて果てた。
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