第36話 リネン室 ※
キリトは日課の薪割りを終えて自室に戻ろうと廊下を歩いていた。何度も通って道は覚えていた筈だが、ぼーっと歩いていたのが駄目だったのか、見慣れない通路に出てしまった。
両開きの扉が目について中を覗くと、天井まである大きな棚に畳んだ布類が詰め込まれている。どうやらリネン室のようだった。室内にメイド達の姿を見つけて声を掛けようとすると、彼女達の話し声が耳に入った。思わず通路の壁に張り付き、メイド達の会話を盗み聞く。
「それはキリト様はお美しい方ですけれど、殿方ですもの、ね」
「あら、私もそう思いますわ。妾妃をお迎えになって、ましてやお子がおできになれば、そちらにご寵愛が向くのは当然ですわ」
「あら薄情ね。私は何があってもキリト様を推すわ」
キリトは頭を鈍器で殴られた様な気がした。妾妃、子供、寵愛。今まで考えもしなかった、否、敢えて考えない様にしてきた事を目の当たりにして、キリトは足元の床が急に抜けた様な気分に陥ったのだった。
********
レイルは一日の執務を終えて、キリトの部屋を訪れた。しかし扉をノックしても返事はなく、そっと扉を押し開けると部屋には誰も居なかった。
カゼインとの訓練も日課の薪割りも、とっくに終わっている時間である。もしや他の男と、と嫌な想像が頭をよぎった。
仕方なく自室に戻ると、しばらくして扉を叩く音がした。扉を開けるとキリトが立っていた。
「今、キリトの部屋に行ってきたばかりだ。行き違いになったようだな」
朝からずっと会えていなかったキリトにやっと会えて、思わず顔がほころぶ。腕に抱きしめようと手を伸ばすとキリトが口を開いた。
「少し、屈んで」
「何だ?」
キリトはレイルの腕を引き寄せると、伸び上がってそっとレイルに口付けた。
口付けられたレイルは、脳天を雷に打たれたような衝撃を受けて固まった。キリトから口付けられるのは、これが初めてだった。
更にキリトはレイルの下唇を、舌でチロ、と舐めた。
「…キリト」
「もっと」
堪らずキリトの頭の後ろに手を回すと、ぐっと引き寄せて深く口付けた。口内に舌を差し込むと、キリトも応じて舌を差し出し絡め合う。
「ふ、んん、ん」
キリトは相変わらず上手く息が継げないようで、口を離してやると唾液がつ、と糸を引いた。
「…しよ?」
潤んだ黒い瞳に見つめられて囁かれては、断れるはずは無かった。
寝台にキリトをそっと横たえて服を脱がそうとするレイルの手を、キリトが押し留めた。
「僕が…」
キリトはレイルの上着を捲り上げると、露わになった逞しい腹筋にちゅ、と口付けた。続いて脇腹から胸元へと唇を寄せる。
「…今日は、一体どうしたんだ?」
キリトはわずかに首を横に振って、その問いには答えない。
キリトはするすると上下の服を脱ぐと、あっという間に生まれたままの姿になった。凝視するレイルの視線も構わぬ様子で、レイルの肩を寝台へと押しやった。
「僕が、する」
レイルの下衣の紐を引いてくつろげると、下着の隙間から既に固く屹立したものにそっと指を這わせる。
「あ、もうこんなに…」
レイルは自分の心臓がドクドクと音を立てるのを感じた。キリトが自分から積極的に仕掛けてくるなど、かつて無い事だった。
キリトは寝台に横たわるレイルの上に跨り、下着の間から取り出したレイルの屹立を後孔にひたと当てた。
「待て、解さないと無理だ」
「やだ、もう、欲しい…」
レイルはぐっと息を呑んで突き入れたい衝動に耐えると、寝台脇の小棚に手を伸ばして香油を取り出し手に塗り広げた。
そっとキリトの秘所に指を当て周りをぐるりと撫でる。
「早く…」
キリトが焦れたようにレイルの中心を手で掴んで腰を落とし、隘路に突き入れようとするが、上手く入らない。
と、キリトが美しい顔を歪めて涙をこぼした。
「痛かったか」
レイルが慌てた様に聞いた。
「に、二番目でもいいから、…僕のこと好きでいて」
キリトはポロポロと涙を流し続けている。
「…何の話だ」
キリトはレイルの腕の中でひとしきり涙を流して落ち着くと、リネン室で聞いたメイド達の会話をレイルに話して聞かせた。
「馬鹿な。妾妃など迎えることはない」
「でも…」
「世継ぎのことなら心配するな。隣国に血縁者もいる。もっと言えば、次の王は血縁者で無くても良い」
「そんな」
「俺はキリト以外と契る気はない。絶対にだ」
「レイル…」
「キリト、言ったはずだ。愛している、あなただけを」
「僕も、僕も愛してる」
キリトはレイルの逞しい胸に抱きついて、愛の言葉を返した。
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