第33話 酔っ払い ※


サガンは騎士の正装をして肩には赤のマントを羽織り、剣を体の前に両手で突いて、居並ぶ他の騎士たちと共に戴冠式の様子を見ていた。通路を挟んだ向かい側にはキリトが居る。


キリトは黒地に見事な銀刺繍が縫い取られた上下の王族の服を着ている。白い肌によく映える、ぴったりと詰められた襟を乱して露わになる肌に手を這わせる想像をして、周りに知られないようにそっと息を吐いた。

キリトは不埒な自分の視線など知らぬげに、美しく整った顔で自分ではない他の男を見つめている。戴冠式で新王を見つめるなど、当たり前の事なのに、こうも心を揺さぶられる自分がいた。


思えば一目惚れだった。イズノールへ向かう途中で、刺客に襲われるキリトを助けた。華奢な首筋に刺客の手によって傷をつけられ、白皙の肌に血が細い筋を作って流れて上着の襟元を僅かに汚していた。見てはならないものを見てしまったように思えて目線を少し上げれば、濡れた様に黒く輝く瞳が驚いた様子で自分を見ていた。目が合ったその時に、自分は恋に落ちていたのだ。


レイルがキリトに気があることなど、すぐに気がついた。自分もまた同じ様にキリトを目で追っていたのだから。

何度この気持ちを諦めようとしただろうか。

王都に戻ってからは娼館にも通ってみたが、どの女もキリトほど魅力的ではなく、抱こうとしても自身の男の象徴は少しも役に立たなかった。

今まで散々女遊びをしてきた罰なのではないかと半ば本気で思った。

キリトの顔を見る度、声を聞く度、些細な理由をつけてその肌にわずかに触れる度、極刑を覚悟で無理矢理キリトを押し倒そうかという考えが頭をよぎる。人づてに聞いた、キリトを天幕の中で襲った護衛騎士の気持ちが、痛いほど良く分かる。人生で初めて経験する気持ちに、サガンは翻弄されていた。




サガンが騎士の正装から普段の格好に着替えて、鍛錬場で他の騎士達に混じって鍛錬した後、自分の執務室に戻ろうと回廊を歩いていると、向こうから三人が連れ立って歩いて来るのが見えた。

遠目でも見間違うはずもない、キリトだった。


「サガン、あかいマント、かっこよかったよ」


キリトが幼い子供のような口調で言う。戴冠式での服装を言っているのだろう。だが、この蒸気した頬と潤んだ瞳はどうだ。


「すまん、飲ませ過ぎた」


コルドールが頭を掻きながら言う。


「キリト、ほら、私に掴まって」


カルザスが手を貸そうとするが、キリトはそれにも気づかない様子で、ゆらゆらと体を揺らしている。足元がふらついて、不意にサガンの胸に倒れ込んだ。葡萄酒の香りに混じってキリトの肌の香りがふわりと鼻腔を掠める。


「...拷問のようだ」


キリトの背に手を回す事もできず、サガンは思わず呟いた。


「サガン、お前...」


カルザスが何かに気づいたかの様にサガンの顔を見る。サガンは何かを耐えているかの様な苦しげな表情をしていた。


「...あー、俺が部屋まで送り届けよう。」


サガンの窮状を見て取ったコルドールがキリトの腕を取った。


********


招待客達の応対をやっと終えたレイルがキリトの部屋に入ると、キリトは寝台の上に横になっていた。


「どうした、気分が悪いのか?」


はっとして寝台に駆け寄るレイルをキリトは薄目を開けて見ている。


「おさけ、のんじゃった」


「酒だと」


「カルザスとコルドールと、のんだ」


「...カルザスは、何か言っていたか?」


「カルザス?うーん、ぼくのこと、かわいいって」


「...それから?」


「まちがいを、おかしそうって」


「......覚えておこう。」


「まちがいって、なんの?」


レイルがそれに答えずにいると、キリトは不意に寝台に起き上がり、寝台の端に座るレイルの広い胸に抱きついた。


「レイル、すき」


レイルの心臓がどくんと跳ねる。こうも直球で好意を伝えてくれるのは、これが二度目だった。


「すき、しよ?」


普段とは違うたどたどしい話し方で、くたりとしなだれ掛かる様にレイルの胸にもたれて、キリトは続ける。


「もうずっと、してない。ぼく、寂しかっ…」


キリトの言葉はレイルの口付けに遮られた。


「ふ、んん」


レイルが堪らずキリトの上着に手をかけようとすると、キリトはその手を押さえた。


「ぼく、じぶんで脱ぐ」


言うなりキリトは自分で上着を脱ぎ去った。途端に窓から差し込む昼下がりの太陽の光に、ほんのりと蒸気した肌と胸の飾りが照らされる。凝視するレイルの視線にも構わずに、キリトは下衣に手をかけてするりと脱ぐと、続いて下着も脱ぎ去った。口付けで感じたのか、既に中心をしどけなく立たせている。

蠱惑的な光景にレイルはくらりと目眩を覚えた。


「...俺を煽った責任は取ってもらおうか」


レイルが低い声で言った。下手にキリトに触れると抑えが効かず抱き潰してしまいそうで、ずっと自分の欲望をギリギリで押さえ込んできた。その押さえを、今、キリトはいとも簡単に外してしまった。


ギラつくレイルの視線に今気づいたかの様に、キリトは声を上げた。


「あ、あの、僕...」


レイルはキリトを寝台に押し倒すと、色づく首元に顔を埋めた。細い首筋を舌で舐め上げると、それだけで感じたのかキリトが声を上げる。


「あ、あっ」


レイルは既に先走りを溢して濡れて光る先端を握り込んで上下に扱いた。


「あ、だめ、いっちゃう」


キリトがレイルの手を抑えるが、レイルは手を止めずに刺激を与え続ける。


「あ、あああ」


「ほら、イけ」

キリトの限界を感じ取ってレイルがキリトの耳元で低い声で囁く。


「ああああああ」


レイルが性急に擦り上げると、キリトは嬌声を上げて果てた。はあはあと荒い息を吐くキリトに構わず、レイルはキリトが手に吐き出した精を、キリトの後孔に塗りつけた。


「や、やあっ」


レイルが下衣を寛げて自身の怒張を取り出しキリトの後孔にひたと当てがうと、キリトはイヤイヤをするように首を振った。


「や、む、り」


レイルは構わずにキリトの腰を掴むと、ゆっくりと自身を隘路に押し進めた。


「ひ、いああああああっ」


きつい締め付けに持っていかれそうになってレイルが苦しげに顔を顰める。


「キリト、愛している。どうしようも無いくらい」


堪らなくなって腰を揺すると、キリトが間欠的に声を上げる。


「あ、あ、あ、あっ」


汗が頬を伝ってぽたりと落ち、寝台に染みを作る。キリトは敷布を固く握りしめて、快楽に全身をほの紅く色付かせ、わずかに首を仰かせて、薄らと目を開けてレイルを見つめている。

キリトの痴態に煽られて、堪えきれずに激しく抜き差しすると、強すぎる愉悦が脳を焼いた。


「あ、あ、あああああ」


搾り取る様にキリトの内壁が収縮する。堪らず、レイルはキリトの中に精を放った。





「酔いは冷めたか?」


二人の息が落ち着いてきた頃、レイルが聞いた。

キリトが寝台に顔を埋めてわずかに頷く。

酔っていたとはいえ、キリトは自分の痴態が思い出されて恥ずかしくて仕方が無かった。


「僕、もう、お酒飲まない」


「それは残念だ」


本当に残念そうな顔でレイルが言うので、キリトは思わず笑ってしまったのだった。


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