第31話 戴冠式
キリトは朝からメイド達に囲まれて王族の服を着せられていた。
黒色の生地に銀の繊細な刺繍が施された上下を身につけて、なんとなく落ち着かない思いで部屋の中をウロウロとしていると、レイルが部屋に顔を出した。
レイルは白地に金の模様が入った上下の服に、裾が床に届くかというほど長い青色のマントを羽織っていた。長身で鍛え上げた体に王族の正装が映える。
「レイル、すごく格好良いよ!」
キリトの言葉に、レイルは笑ってキリトの髪を一筋取って口付けると言った。
「キリトは、綺麗だな。黒目黒髪に黒い衣装ではどうかと思ったが、銀刺繍が入って華やかで良い。ただ、あなたの美しさの前では銀の輝きも霞むが。」
「れ、レイル...」
部屋に控えていたメイド達が顔を赤らめてヒソヒソ言い合っている。キリトは恥ずかしさに俯いた。
「さあ、行こうか。」
レイルは微笑んで言った。
戴冠式は昼前に行われた。会場は王宮中央のドームだった。宰相、騎士、異能の衆、隣国の使者、豪商、王宮で働く者、大勢が見守る中、レイルは鮮やかな青いマントを揺らしてゆっくりと人々が取り囲む通路を進み、ドームの突き当たりの台に置かれた王冠の前に立った。
自分は良い王に、なれるだろうか。国の民達の暮らしを支え、時に内外の敵と戦い、国を繁栄させる王に。
万感の思いで、かつては父王の頭上に輝いていた王冠を手に取ると、ゆっくりと自らの頭上に載せた。王冠を戴いたレイルは片手を上げると観衆の前で、
「私は、今この時から、王としてこの国の為に尽くすと誓う!」
と声を張って宣言した。
息を呑んで見守っていた皆が一斉に拍手し、快哉を叫んだ。
「万歳!」
「国王陛下万歳!」
新たな王の誕生を祝う声は、いつまでも止まなかった。
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無事に戴冠式が終わり、キリトが自室に戻って王冠を戴いたレイルの姿を思い返していると、扉がノックされて当の本人が入ってきた。後ろに男を一人従えている。
「キリト、紹介しよう。国境警備を担う第三騎士団の団長だ。普段は国境周辺の砦にいるが、戴冠式のために王都に来ているんだ。」
紹介された団長は、騎士らしく逞しい体つきをしている。後ろで小さく結んだ髪はくすんだ金色で、目も金色だった。
「お初にお目にかかります、キリト様。第三騎士団団長、カルザスです。そして、ご婚約おめでとうございます。」
カルザスはキリトの手を取ると、身を屈めて手の甲にそっと口付けた。
慣れない挨拶をされてキリトの頬が僅かに赤くなる。レイルの眉がぴくりと動いたのを知ってか知らずか、カルザスは微笑んでキリトを見つめた。
「は、初めまして、キリトです。」
「ご婚約者がこのように美しい方だとは知りませんでした。黒目に黒髪とは珍しい。まるで遠い異国の宝石のような方だ。正式に婚約されたので無ければ、すぐにでも連れ去ってしまいたい程です。」
キリトが目を瞬かせて困っていると、レイルが低い声で言った。
「俺と斬り合いたいので無ければ、不用意なことは口にするな。」
「これは失礼。」
カルザスは飄々として笑みを浮かべた。そうすると目が細くなって、金の目が隠れて見えなくなる。
「近頃の王都の様子はどうですか?国境付近にいると噂さえ聞こえて来ないのです。」
「...王宮内は色々と事件があったが、王都の街は平和なものだ。」
「視察がてら街を歩きに行きたいのですが、婚約者殿をお借りしても?」
「...駄目だ。」
「おや、束縛する男は嫌われますよ。」
レイルとカルザスの目線がカチリと合い、何やら険悪な雰囲気が流れる。
「ぼ、僕、街を歩きたいな。」
重い空気に耐えきれず、キリトは言った。
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