第17話 抱擁
寝台でキリトが目を覚ますと窓の外はオレンジ色に色づいていた。どうも長く眠っていたようで体が怠くて節々が痛い。頭もぼんやりとしていた。
「キリト様、お目覚めですか。」
メイドが寝台の脇に駆け寄ってきた。
「一日半の間ずっとお眠りになっていたのです。ご気分はいかがですか?」
キリトは騎士達に癒しの力を使った後で、自分が気を失ったことを思い出した。
「騎士達の容体は?」
メイドの話では、一人目の騎士は傷が半分塞がり痛みはあるものの生活に支障なし、ジャンは一命を取り留めたが傷が残り、失血のため診療所に入院しているという。
「レイルはどうしてる?」
心配させてしまっただろうか。レイルの顔が見たかった。
「隣国から使者がいらして会談中と伺っておりますわ。」
メイドが用意してくれた水を飲み、パン粥を少し食べると、キリトは頭がはっきりしてきた。ジャンの様子が気になる。キリトは診療所へジャンの見舞いに行くことにした。
メイドの案内で長い回廊を抜けて別の塔に入る。何度も廊下を折れ曲がり同じような扉ばかり続いて、案内なしでは迷子になってしまいそうだった。
二十台程の寝台が並ぶ広い診療所にキリトはやってきた。部屋の端の寝台に横になるジャンの傍に、第一騎士団団長のコルドールが立っていた。
診療所に入ってきたキリトに気がつくと、コルドールは言った。
「うちの奴らが世話になった。礼を言う。」
キリトが癒しの力で治癒した騎士達は、ジャンももう一人もコルドールの配下だった。
「キリト様、本当にありがとうございました。感謝してもしきれません。」
ジャンが顔を赤らめ涙ぐんで言った。キリトはジャンが寝台の上で身を起こそうとするのを止めると言った。
「...傷、残っているって聞いた。完全に治せなくてごめん。」
「とんでもありません。キリト様は命の恩人です!」
ややあって顔を俯けるとジャンは言った。
「...本当は、第二の奴らが難癖をつけてきたんです。第一の警護が緩いからあんな事件が起きたって。俺、悔しくて...」
ジャンは、レイルが襲われた事件と第一王子第二王子が亡くなった事件のことを言っているようだ。コルドールを見ると渋い顔をして窓の外を睨んでいた。
「第一騎士団は一芸に秀でていることを理由に、他から引き抜かれてきた騎士が多いのです。ただ、その分、剣の腕が他の騎士団と比べて落ちるとか、容姿が良いだけだとか、陰で言われることもあって...」
レイルが続きを促すと、ジャンは言った。
「かく言う俺もその一人です。あの、本当はあまり人に言っては駄目なのですが、キリト様になら...」
キリトが首をかしげると、
「ジャン」
コルドールが低い声で名を呼んで、ジャンが続きを言うのを制した。
「な、何かお困りの事があれば俺に言ってください。キリト様のお力になれることも、あると思うので...」
診療所の入り口の方が賑やかになったと思ったら、数人の騎士を引き連れてレイルが入ってくるところだった。大股でキリトに近づくと、キリトの手を引いて抱きしめた。ぐっと力を込めて腕の中に閉じ込められる。
「レイル、苦しい。それに人が見て...」
腕の中で真っ赤になりながらキリトが見上げると、レイルは言った。
「なぜ一番に俺に会いに来ない。」
キリトが目覚めたという連絡を受けて、急いで会いに来てくれたようだった。
「会談中だって、聞いたから...」
「もう目が覚めないかと思った。」
レイルの大きな手がキリトの頬を包み、しばし見つめ合う。至近距離で見ると宝石のような緑の目の中に星が散っている。美しい、とキリトは思った。
はっと気づいて周りを見回すと、ジャンが赤い顔をしてじっとこちらを見ている。
コルドールは腕組みをして壁にもたれて立ち、ヒューと口笛を吹いた。
「どうぞ、お構いなく。」
ニヤリと笑うとコルドールは言った。
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