第18話 部屋 ※
また長い回廊を通って来た道を戻り、キリトはレイルの部屋に連れてこられた。レイルは部屋に入るなり後ろ手で扉の鍵を閉めてキリトを扉に追い詰めると、キリトの白い顔の横にトンと手をついた。直近にある精悍に整った顔にキリトの胸がドクンと跳ねる。
「あ、あの、心配かけたみたいで...」
「当然だ。」
「ジ、ジャンは傷が残っちゃったみたいだけど、思ったよりも顔色が良くて良かった。」
「ああ。」
「それで、第一騎士団は...」
キリトが言いかけたところで、レイルが遮った。
「もう黙って。」
二人の唇が重なる。角度を変えて何度も口付ける。ちゅ、と音が鳴るのが堪らなく恥ずかしい。自分の顔がかっと赤くなるのが分かる。レイルの熱い舌が差し込まれキリトの歯列を割って中に入ってきた。恐る恐るキリトも舌を出して絡めると、レイルのキリトの頭を支える手に力がこもった。
「あ、ふ、んんっ」
自分の声が恥ずかしくなって唇を離すとレイルが追いかけてきた。再び唇が重なる。次に唇が離れた時にはキリトは頬を真っ赤に染めてはあはあと肩で息をしていた。
レイルはキリトの上着の中に手を入れて滑らかな横腹を撫でると、手を後ろに回して今度は背中を撫で上げた。
「ひあっ」
くすぐったくて変な声が出た。レイルを見上げると、目を細めて困ったように微笑んでいた。
「可愛い。」
レイルは身を屈めるとキリトの耳元で低い声で囁いた。
「か、可愛くなんて...」
レイルの手がキリトの背中から前に回り、胸の飾りを掠めるように撫でられた。少しざらついたレイルの手の感触を感じて、キリトは思わず声をあげた。
「あ、あっ」
触れるか触れないかの距離でレイルの親指が行ったり来たりする。
キリトはレイルの手を押さえると、頑是ない子供のように首を振った。
「それ、やだ...」
すると途端にぐーとキリトの腹の音が鳴って、二人は固まった。
「...く、くく、あはははは」
レイルが堪えきれなくなったように笑う。
「お、起きてからパン粥少ししか食べてないんだもん。」
レイルは真っ赤になって言った。
「食事にしよう。」
レイルはキリトの頭に口付けると笑って言った。
********
夕食は別の部屋に用意されていて、レイルと一緒に食べた。
食事を終えてレイルの部屋に戻ると、先程は見る余裕の無かった広い部屋の中をキリトはきょろきょろと見回した。
広いテーブルには椅子が六脚、書き物用の机、窓際には布ばりの椅子、藍色のカーテン、天井からは豪奢な装飾の照明が下がっている。
続きの部屋があって、そちらには天蓋付きの大きな寝台が置かれている。三人くらいなら余裕で眠れそうだ。
「そういえば、ジャンは一芸に秀でているから第一騎士団に入ったのでしょう。ジャンが得意な事って何?」
キリトは診療所でジャンと交わした会話を思い出して、レイルに聞いた。
「暗殺術だ。」
レイルがさらりと答えた。
「暗...」
キリトは穏やかでない単語を耳にして驚いて目を見張った。いつも顔を赤くしてたどたどしく話すジャンの印象とは大分隔たりがある。
「ちなみにコルドールは拷問が得意だぞ。」
「ご...」
キリトは固まってしまった。
「第一騎士団は王族の周辺警護が主な仕事だからな。時にはそういった能力が必要になることもある。」
ジャンがキリトの役に立てることもある、と言ったのは暗殺術のことだったのだろうか。キリトは何かとんでもない場所に、自分が飛び込んでしまったような気がした。少し前までの辺境の小さな家と畑での、のんびりした暮らしとの差を思わずには居られないのだった。
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