第10話 迎え


「キリト、その、触れてもいいか?」


熱のこもった目で見つめられ躊躇いがちに言われて、キリトは戸惑いながらも頷いた。

昨日あんなに触ったくせに、ずるい。

レイルの手がキリトの頬にそっと触れる。キリトは途端に頬に血が上るのを感じた。


頬の手がキリトの頭の後ろに回り、そっと上を向かされる。

精悍な顔が近づいて来たと思ったら、唇が重なった。触れるだけの口付けだった。


レイルは蕩けるような目でキリトを見ている。キリトはドキドキしながら何か言わなければと思ったが、混乱して言葉が出てこなかった。


「あ、あの...」


と言ったところで、家の外からガチャガチャと金属が触れ合うような音が聞こえてきた。何人かの足音も聞こえる。レイルはキリトの腕を引き、さっと身を翻して壁に張り付くと窓から外を窺った。先ほどまでの甘い表情とは打って変わって厳しい目をしている。


「あれは...」

レイルは目を見張った。


********


レイルとキリトに続いてサガンと四人の男たちが一階の部屋に入ると、そう大きくはない部屋が更に狭く感じられた。キリト以外は皆、大柄で鍛え上げた体をしている。


一様に金属の鎧を付けて剣を下げた四人の男達のうち、金色のごわごわとした巻き毛を肩下あたりまで伸ばした、とりわけ大柄な一人が、キリトに目をやって言った。確かコルドールと呼ばれていた。


「彼は?」


「キリトだ。旅の途中に出会って一緒にここまで来た。異能の力があって、カゼインは奇跡の子だと言っていたな。」


それ以上言うことはないとばかりに黙るレイルを横目にサガンは、


「レイルと決闘するのが嫌なら、手を出すなよ。」と言って笑った。


皆の視線を感じる。キリトは途端に自分の頬が恥ずかしさで熱くなるのを感じた。


コルドールは言いたいことが色々ありそうな顔で唸ったが、気を取り直すと言った。


「二人の王子が亡くなって王宮は大混乱さ。一個隊引き連れて迎えに来たいところだったが、すぐ動ける信頼できる人間がこれしか居なかった。できればすぐにでもあんたを連れて王宮に向かいたい。」


「何故ここが分かった?」


サガンが聞くと、コルドールは何でもない事の様に答えた。


「王宮であんた達を襲った男のうち、まだ息があった者を捕まえて吐かせた。」


サガンはコルドールが拷問の腕を買われて傭兵部隊から騎士団に引き抜かれたことを思い出した。


だがまずは、とコルドールは目で後ろに並んだ三人の男達に合図すると、四人一斉にレイルの前に片膝をついて騎士の礼を取ると言った。


「警護の隙をつかれ御身を危険にさらし、申し訳のしようも御座いません。処分は後で如何様にでも。」


「よい。それより、王宮までの警護を頼む。」


レイルは四人の騎士からの謝罪を何でもない事の様に受けると、短く言った。




王都への旅の準備の話し合いを始めたサガンとコルドールを横目に、キリトはレイルに小声で聞いた。


「あの、僕一緒に王都に行ってもいいの?」


「もちろん」


レイルは悪戯っぽく目を細めると笑って言った。


「俺と”お付き合い”、してくれるんだろう?」


宝石のような緑色の目に見つめられて、キリトの胸はどきんと跳ねた。


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