第9話 告白
カゼインの隠れ家を出ると、カゼインの配下の案内でイズノールの街の外れにある別の家に着いた。三人が泊まっていた宿は安全上これ以上使えなかった。
「俺は警護の関係上、玄関脇の部屋を使う。二人は二階の部屋を使ってくれ。」
家を見回った後でサガンはそう言うと、何やら気まずげなレイルとキリトを見やった。キリトの首筋の虫刺されの赤みは、昨日の朝より大きくなっている。まるで誰かに上から痕を付けられたかの様に。
ふ、と息を吐くと、黒目がちの目で自分を見上げてくるキリトを見ながらサガンは続けた。
「残念だな、夢に見そうだ。」
首を傾げるキリトにサガンは微笑むと、家の周りの警護の状況を確認してくる、と言って外へ出て行った。
二階へ行くと既に部屋には宿に置いてきた荷物が運び込まれていた。部屋は簡素だが清潔そうなベッドや机や椅子が置いてあった。
「あの、じゃあこれで...」
といってキリトは自室のドアを閉めようとしたが、レイルがドアを手で押さえたため閉められない。キリトは両手で力をこめたが、ドアはびくともしない。
「俺にしておけ。後悔はさせない。」
レイルは片手でドアを押さえながら身を少し屈めると、キリトの黒い髪からのぞく耳元で言った。
「な...」
キリトはレイルの低い声に肩を竦ませた。どきどきと心臓が音を立てる。レイルを見上げると、緑の目でじっとこちらを見ている。答えないまま目を瞬かせるキリトをどう思ったのか、レイルは言葉を続けた。
「昨晩のこと、すまなかった。柄にもなくサガンに妬いたんだ。キリトの夢見の力のお陰で助かった。感謝している。」
レイルはドアの取手を抑えるキリトの手を取ると部屋の中に導いた。
キリトの前で片膝を床につくと、キリトを見上げた。
窓からの光が二人に差し込む。折しも街の中心の教会の鐘が鳴り出し、時を告げた。
「この身が果てるまであなたを守ると誓う。私の伴侶になってくれませんか。」
王子様みたいだ。と動悸が止まらない胸に手を当ててキリトは思って、レイルが本物の王子であることに思い至った。
魔狼に襲われたとき、黒ずくめの男たちに捕まったとき、酔っ払いに絡まれたとき、何度も身を挺して自分を救ってくれた、ヤキモチ焼きの、王子様。
自分を抱きしめる腕の強さ。
昨日黒ずくめの男達の夢を見た時、自分が救いたかったのは...。キリトは自分の中にある気持ちに気が付いた。
「お、お付き合いからなら。」
上擦った声が出た。
レイルは一瞬虚をつかれたような顔をした後、白い歯を見せて晴れやかに笑った。
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