第8話 王位


ガゼインの隠れ家だという古家に三人が身を隠すと、ガゼインは話し始めた。


「連絡が行き違ったようですな。その刺客達はどちらかの王子の派閥の者が放ったのでしょうが、今し方、私のところに王都に潜伏させていた配下の者が戻ってきたのです。」


部屋の隅に片膝をついて控えているカゼインの配下の者だという男を一瞥すると、レイルに視線を戻して言った。


「第一王子と第二王子は王位継承争いの口論の末に刺し違え、二人とも亡くなったと。レイル王子、王位はあなたのものに。」


カゼインと配下の男は揃ってレイルの前に跪くと首を垂れた。


「なんだと」


「そんなことが…」


「王位…?」


三人は口々に言うと呆然として黙った。



レイル達が刺客に襲われたことは自分の手落ちだったと謝罪を述べた後で、カゼインは言った。


「王都から配下の者が数名戻ってきたので、その者達に周辺を警護させましょう。」


「では私が警護の調整を。」


サガンが申し出ると、すぐにカゼインとサガンとの間で話し合いが始まった。


********


レイルとキリトは隠れ家の別の部屋に通された。カゼインの配下の男は、朝食がまだでしょうと言って、手早く二人の食事の準備を整えると部屋を出て行った。

気まずい空気に耐えかねたようにキリトが言った。


「あの、レイルは王子様だったの?」


今更な質問ではあったが、キリトは堪らず聞いた。


「黙っていてすまない。言えなかったんだ。俺は第三王子、サガンは騎士団の副団長をしていたが、俺を追って来たことで任を解かれているかもな。カゼインは異能の衆の頭目だ。」


キリトの整った顔を見やってレイルは言った。昨晩泣いた為か、心なしか目の下が赤い。思わず昨日の出来事が頭をよぎった。


「サガンに、口説かれていただろう。」


キリトはきょとんとした目でレイルを見上げた。レイルは俯いてキリトから顔を逸らした。普段は明るく輝く緑の目を、今は茶色い髪が僅かに隠している。


「何のこと?」


「首筋に痕まで付けられて。」


キリトが思わず首に手をやると、レイルの目が不機嫌そうに細められた。途端に目が深い緑色に変わる。


「これは、昨日虫に刺されて...」 


「御託はいい。なぜ俺を助けた?あんなことをしたのに...」


昨晩のことを言われてキリトは顔が熱くなるのを感じた。


「あれは夢を見て飛び起きて、ただ夢中で。」


黒ずくめの男達に襲われる夢を見て、ただ怖くて、今すぐ助けなければと思った。誰を?二人を。レイルを。


「...どうして僕にあんなことを?」


「それは…」

レイルは言い淀んだ。


コンコン、と音がした方を見ると、サガンが開け放ったままだった部屋のドアにもたれて腕組みをしていた。


「お取り込み中のところ失礼。警護の調整が終わったから行こうか。」


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